SGRAメールマガジン バックナンバー
CHANG Kuei-E “Panel Report on Mobility at EACJS#8”
2025年1月23日 16:50:08
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SGRAかわらばん1047号(2024年1月23日)
【1】張桂娥「第8回東アジア日本研究者協議会におけるモビリティに関するパネル報告」
【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン)
「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送)
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【1】張桂娥「第8回東アジア日本研究者協議会におけるモビリティに関するパネル報告」
2024年11月8日(金)~10日(日)、台湾の新北市淡水区において「第8回東アジア日本研究者協議会国際学術大会」が開催され、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)から参加した4パネルの1つとして「物語空間におけるモビリティ:日本と台湾の児童文学における鉄道旅行の象徴」と「都市空間におけるモビリティ:多角的な視点からの探求」と題するパネルディスカッションが行なわれた。
第1部「物語空間におけるモビリティ:日本と台湾の児童文学における鉄道旅行の象徴」
本セッションでは、異なる文化や歴史的背景を有する日本と台湾の児童文学において鉄道旅行がどのように描かれ、異文化間の理解と交流を促進する役割を果たすのかが論じられた。
[日本児童文学における鉄道旅行]
最初の発表は、イタリア・ボローニャ大学のマリア・エレナ・ティシ先生による「日本児童文学における鉄道旅行」。ティシ先生は日本の児童文学における鉄道旅行の象徴性とその変遷について、近代から現代に至るさまざまな作品を取り上げた。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や小川未明の『負傷された線路と月』、さらに現代の絵本『きかんしゃやえもん』、『こんとあき』、『おばけでんしゃ』などが具体例として紹介され、鉄道旅行が近代化の象徴や夢、想像を掻き立てる対象から、懐かしさや安心感を伴う魔法的な乗り物へと変化している点を指摘。また、鉄道旅行が現実と幻想を兼ね備え、読者に深い問いを投げかける存在であること、そしてその過程で深遠なメッセージを伝える点が強調された。
コメンテーターの東京大学大学院助教・安ウンビョル先生は鉄道というモビリティテクノロジーを通じて児童文学が持つ社会的・文化的意義を深く掘り下げた点を高く評価した。さらに鉄道が日本における国家的な象徴性と結びついている点や、鉄道の表象が他のテクノロジーとどのように異なる特徴を持つのかについて、社会史的な視点から研究の可能性を示唆した。関西学院大学の齋木喜美子先生は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』における旅の過程の重要性や、日本の絵本における鉄道の役割について言及し、特に近年の児童文学において鉄道が子どもたちにとって親しみやすく魅力的な存在であり続けていることを指摘した。
[台湾児童文学における鉄道の役割とモビリティの象徴性]
次は、本パネルの企画者である張桂娥が「台湾児童文学における鉄道の役割とモビリティの象徴性─九歌版『年度童話選』(2003-2023)に登場する鉄道関連要素の考察」を発表。台湾におけるモビリティ研究の視座を取り入れ、21世紀の台湾児童文学における鉄道関連要素を中心に分析を行った。九歌版『年度童話選』(2003-2023)に収録された461編の作品の中で鉄道が象徴的に描かれた作品を取り上げ、鉄道や電車が登場人物の成長、冒険、自己発見の過程にどのように寄与しているのかを探求した。鉄道が単なる移動手段ではなく、登場人物の心理的成長や文化的アイデンティティの形成を象徴する存在として描かれている点が強調された。
コメンテーターの齋木先生は台湾における鉄道モチーフの作品が少ない点に触れ、沖縄の車社会を例に挙げて「軽便鉄道アヒィー」(野村ハツ子)のような絵本が存在するものの、子どもたちの生活に鉄道が関与する機会が少ないことが類似した状況を作り出していると述べた。その上で、今後鉄道に触れる機会が増えることで、新しい作品が登場する可能性に期待を寄せた。
[モビリティという概念は社会変化を捉える有効な枠組み]
「鉄道という乗り物の存在が日台の地域文化や歴史的背景とどのように結びついているのか」というフロアからの質問に、セッションを総括した座長である大阪教育大学の成實朋子先生と齋木先生は日台の児童文学における鉄道の描写を比較することで、モビリティの社会的・文化的な多様性が明らかになり、特に、日本の児童文学における鉄道旅行が近代化の象徴として、また夢や幻想を喚起する存在として描かれる一方、台湾では鉄道が急速に進展する都市化と地域文化との接点として描かれている点が注目されたという。
最後に、座長の成實先生がモビリティの発展が児童文学に与える影響についての議論が新しい視点を提供したことを評価し、モビリティという概念が社会変化を捉える有効な枠組みであることが確認されたと総括した。また、日台の児童文学に加え、他地域の作品や同時代の大人向け文学との比較を進めることで、さらなる研究の発展が期待できるとの見解を示した。
第2部「都市空間におけるモビリティ:多角的な視点からの探求」
2つ目のセッションでは都市におけるモビリティをテーマとし、複数の研究者が異なる視点から研究成果を発表した。
[東京圏の鉄道における外国人観光客の移動の実践に関する研究]
最初の発表は安ウンビョル先生による「東京圏の鉄道における外国人観光客の移動の実践に関する研究―モバイル・エスノグラフィーを手法にして―」であった。観光客が移動中に直面する問題や感覚的な体験を明らかにするとともに、鉄道という物理的な施設が観光客の視点からどのように意味づけられるかを論じた。観光客の移動を単なる移動手段ではなく、都市空間における新たな体験価値を創造するプロセスとして捉える視点を提示した点が、本研究の重要な貢献である。
台湾・中興大学の陳建源先生は研究の新規性を評価するとともに、その手法的課題について指摘した。特に、調査対象である外国人観光客の多様な背景を反映するデータ収集の必要性や、観察行為が観光客の行動に与える影響についての考察を求めた。
[CLILの授業実践から考察する日本のモビリティサービスの課題]
次に、台湾・東呉大学の田中綾子先生が「CLILの授業実践から考察する日本のモビリティサービスの課題―台湾JFL(Japanese_as_Foreign_Language)学習者を対象にしてー」と題する発表を行った。台湾人日本語学習者が日本の公共交通機関を利用する際に直面する課題を、内容言語統合型学習(CLIL)の枠組みを活用して考察した。学習者が交通サービスに関する知識を深める過程を分析し、それが日本語能力や訪日旅行への意欲にどのような影響を与えるかを論じ、日本語教育のシラバスに交通関連の内容を導入することの教育的意義について提言した。
台湾・開南大学の陳姿菁先生は本研究の独自性と応用可能性を高く評価する一方で、学習者の背景に基づくさらなる詳細な分析や対象範囲の拡大についての課題を提示した。
最後に座長である張桂娥が総括として、本セッションが都市モビリティに関する研究を文化的、教育的、技術的視点から多角的に考察した点を評価し、特に外国人観光客や日本語学習者といった多様な利用者の経験に焦点を当てた意義を強調した。また、教育と技術の連携を通じた公共交通サービスの改善が、都市の持続可能な発展に寄与する可能性についても触れた。
多文化的視点を取り入れた研究が現実社会の課題解決にいかに貢献できるかが明らかにされたことは重要な成果である。本セッションで得られた議論の成果は今後のモビリティ研究や教育実践にとっても大きな示唆を与えるものであり、持続可能な交流と相互理解の深化に寄与する可能性を秘めている。
[モビリティという概念が持つ広がりと深さと学際的研究の可能性]
今回の4本の研究発表の成果を総括すると、都市空間と物語空間におけるモビリティのメタ概念が、それぞれ補完的な視点で深く探求されたことが明確に見えてくる。都市空間におけるモビリティは物理的な移動や社会的な機能にとどまらず、文化的、教育的、そして体験的な側面をも包含し、個人やコミュニティにとっての意味を再定義するものとして捉えられる。一方、物語空間におけるモビリティは物理的な移動が持つ象徴的な意味や、登場人物の成長、自己発見、さらには文化的アイデンティティの形成に深く関わる側面として現れた。
これらの研究を通じて、都市空間と物語空間におけるモビリティが互いに補完し合う形で学術的に展開される可能性が示唆された。都市空間のモビリティは物理的な移動とともに社会的・文化的な変革を促す力を持っている一方、物語空間のモビリティは個々の登場人物がどのように自己を発見し、文化的アイデンティティを形成していくかという象徴的・哲学的な側面を内包している。両者は異なる領域でありながらモビリティという概念が持つ広がりと深さを示しており、今後の学際的な研究において都市と物語の相互作用を探ることで、新たな知見が生まれることが期待される。
ポストコロナの時代においてこそ、人々の往来の意義や移動の真価を再確認することが急務である。こうした時期に手厚いサポートとともに、多国籍の学者たちと我が出身国である台湾で知的交流を深める素晴らしい機会を提供してくださった渥美国際交流財団には、深く感謝の意を表す。また、遠路はるばる「移動」して一堂に会した報告者、討論者、座長(司会)を務めた先生方に対しても、改めて感謝の意を申し上げたい。(文中敬称略)
当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/EACJS2024MobilityPhoto.pdf
<張 桂娥(ちょう・けいが)CHANG_Kuei-E>
台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日台児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。
【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送)
下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」
日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会)
方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー
言 語:日本語
申 込:下記リンクよりお申し込みください
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected])
■ プログラム
14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学)
14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所)
14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社)
15:00 質疑応答&ディスカッション
モデレーター:シェッダーディ・アキル
オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学)
15:30 閉会
■ 講師からのメッセージ
シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へー不確実な未来への歩みを共に考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。
■ 講師紹介
ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH
ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。
■ 討論者紹介
モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN
参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。
※プログラムの詳細
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf
※ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg
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