SGRAメールマガジン バックナンバー

XU Zixin “Aiming to Build Bridges in Medicine”

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SGRAかわらばん1042号(2024年12月5日)

【1】エッセイ:徐コシン「医療の架け橋を目指して」

【2】催事紹介:国際シンポジウム「モンゴル帝国時代のユーラシア世界」

【3】国史対話エッセイ紹介:崔ジュヒ「韓国史のある巨匠を追慕する」
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【1】SGRAエッセイ#778

◆徐コシン「医療の架け橋を目指して」

中国で医学部を卒業し産婦人科医として働いていた時、臨床で解決できない症例に直面して、私たちができることはこれほど少ないのかという疑問を抱いた。最も印象的だったのは大学在学中に卵巣がんにかかってしまった20代の患者だった。従来の医療手段では彼女を救うことはできない。命を延ばすことができても生殖能力を失ってしまう。妊娠中に乳がんが検出された症例もあった。治療を受けると流産せざるをえない上に、治療を終えてもその後の妊娠は難しくなる。しかし、すぐに治療を受けなければ命に関わる可能性がある。中国社会では、子供は両親の絆の象徴と言われる。子供が生まれなければ夫婦関係を持続できないと考える人もいる。臨床医としての経験を積むにつれてこうした症例に多く直面し、ジレンマに陥った。そして、研究の力を借りれば問題を解決できるかもしれないと考えるようになった。人生において、そのような研究にチャレンジしないことはあり得ないと思い、日本にやってきた。

東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻に入学し、研究生活を始めた。テーマは抗がん剤による卵巣毒性における細胞老化の役割である。抗がん剤治療を受けることで生殖機能に与える影響や、その解決策を探す。例えば、まだ子供を持っていない30歳の女性が乳がんを発症した場合、抗がん剤治療は生殖機能に壊滅的な影響を与え、母親になることが難しくなる可能性がある。同時に彼女は同世代の人よりも早く更年期を迎え、骨粗鬆症や脂質代謝異常などの健康問題にもより早く直面する。私たちの研究は、このような患者に薬を投与し、抗がん剤治療を受けながらも生殖細胞への影響をできる限り減少させ、生殖機能を保存することを目指している。

既存の論文によると、抗がん剤治療を受けた乳がん患者の約70%が5年以内に早発卵巣機能不全(早めの更年期)を経験している。私たちが研究を進めている治療法では、少なくとも10年から15年後までは、更年期を迎える時期を迎える可能性は高まらないことが期待される。動物実験で効果が証明されており、臨床試験に進んで、より広範囲に適用されることが望まれる。もう1つの例を挙げたい。血液がんを患った5歳の女児の場合は治癒の見込みがあり、少なくとも70歳まで生存する可能性があるが、現在の治療法では早発卵巣機能不全になる可能性が高い。将来的に子供を持つためには彼女に選択肢を残す必要がある。現在の治療法には卵巣冷凍保存があるが、何度も手術を受ける必要があり、身体的および経済的な負担がかかる。私たちの研究で使用した薬は経口摂取可能であり、現在の治療法より負担の軽減が期待される。一日も早く研究の成果を実用化し、人々の健康と幸福に貢献したい。

東京大学での4年間の経験を通じて科学的な研究における思考力が鍛えられ、問題を客観的に分析し、解決策を考え出す能力が身についたので、今後の研究活動において有益な役割を果たすことができると確信している。私の指導教官は、研究は大学院でのみ行うものではなく、一生を通じて続けるべきだとよく述べていた。この言葉は、私の将来の研究生活をより意義深いものにしていくだろう。

現在は日本の医師免許取得に向けて努力しており、日本でも産婦人科医として活躍したいと考えている。将来的には日本と中国で産婦人科医として働き、両国の医療技術を習得し、患者に有益な治療法を提供できるようになりたい。同時に研究活動も続けて成果を臨床現場に活かすことで、医療の進歩に貢献し、日本と中国の医療の架け橋となることを目指している。

<徐コシン XU_Zixin>
シ博市出身。東京大学附属病院女性診療科特任研究員。渥美国際交流財団2023年度奨学生。2018年に臨床医学産婦人科専攻修士号取得。2020年に東京大学医学系研究科生殖専攻博士課程に進学し、女性妊孕能の温存について研究し始める。2024年3月に博士号取得。

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【2】催事紹介

SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレさんからシンポジウムのご案内がありました。お問い合わせは直接主催者へご連絡ください。

◆国際シンポジウム「モンゴル帝国時代のユーラシア世界」
ヴェネツィアの商人マルコ・ポーロの生誕770周年、没700周年、モンゴル襲来750周年を記念して、12月7日(土)に昭和女子大学国際学部国際学科主催の国際シンポジウム「モンゴル帝国時代のユーラシア世界」を開催いたします。
同シンポジウムでは、日本とモンゴル、中国の研究者より、研究発表をおこないます。
皆さまの奮ってのご参加を、心からお待ちしております。

<開催日時> 2024年12月7日(土) 10:50~18:30(10:20開場,入場無料)
<場所> 昭和女子大学本部館3階大会議室 地図(本部館入口)
<主催> 昭和女子大学国際学部国際学科
<助成> 日本私立学校振興・共済事業団学術研究振興資金
※当日ご来場の際には、正門横守衛室にて「シンポジウム参加」とお伝えください。

シンポジウムの詳細は下記URLからご覧ください。
https://bit.ly/4g2p9oK

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【3】国史対話エッセイ紹介

10月25日に配信した国史対話メールマガジン第62号のエッセイをご紹介します。

◆崔ジュヒ「韓国史のある巨匠を追慕する」
数ヶ月前、全南大学の金キョンテ先生から「歴史と私」という主題の文章を依頼されたが、この文章をどのように始めればいいのか分からず困っていた。まだ自らを歴史家と称するほどの研究の力量は備わっておらず、成果も出していない。歴史家は史料から作り出された過去の物語を通じて読者と対面する人々だと考えているためだ。それでも、この文章を書くことにしたのは6月21日、韓国歴史学界の巨頭と呼ばれる故姜萬吉先生の1周忌追慕学術大会で姜先生の朝鮮史研究に対する批評論文を発表した経験を読者と共有するためだ。

姜萬吉先生(1933~2023)は、日帝時代に故郷馬山で植民地教育の不条理を経験し、社会経済史家である白南雲の影響を受け、植民地後進性論、停滞性論(訳注:両理論とも植民地が宗主国に遅れていることを強調し、植民地化を正当化しようとした理論)を克服するための一連の商業史研究を進めた。彼が立証しようとした資本主義萌芽論(訳注:朝鮮後期に既に資本主義への発展可能性が潜められていたとする理論)は韓国学界で多くの批判を受けてきたが、これはあくまで戦後第2世代研究者として植民地の遺産を克服するために採択した方法論だったことを思い出す必要がある。さらに、彼が注目した朝鮮後期の商業、手工業体制の変化像は依然として朝鮮後期の社会構造を見直す重要な事例であるとともに、商人、手工業者、賃金労働者の人生を歴史の前面に押し出した彼の研究方法は、後学に朝鮮王朝史の見方の転換をもたらしたという点から少なからぬ意味がある。

全文は下記リンクよりお読みください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024ChoiJoo-HeeEssay.pdf

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