SGRAメールマガジン バックナンバー
YUN Jaeun “Songs Echo across the Sea”
2024年9月12日 12:31:42
**********************************************
SGRAかわらばん1030号(2024年9月12日)
【1】SGRAエッセイ:尹在彦「海を越え歌は響き渡る」
【2】国史対話エッセイ紹介:唐小兵「まぐれ当たりの歴史学習の道」
**********************************************
【1】SGRAエッセイ#773
◆尹在彦「海を越え歌は響き渡る」
YouTubeのアルゴリズムは、個々人を特定の情報空間に閉じ込めるという問題点(いわゆる「フィルターバブル」)があるが、個人的にはそれほど抵抗はない。その閉じられた空間が「意外と広い」ということもあるからだ。YouTubeの「おすすめ」に表示されるものは「再生回数稼ぎ」のための低レベルの動画ばかりではなく、知識の面で有益な情報も少なくない。最近は有名YouTuberではない人の動画も表示されたりする。アルゴリズムも批判を意識し、それなりに進化しているのだ。
2024年6月26、27日、日韓の交流サイト(SNS)で同時に話題になる出来事があった。K-POP女子アイドル「NewJeans(ニュージーンズ)」が日本で初めての公式イベントを東京ドームで開催し、そこで披露した一曲が大きな関心を集めた。1980年代に一世を風靡した松田聖子が歌った「青い珊瑚礁」(1980年)だ。44年前の名曲が、K-POPアイドルによりカバーされたことで、日韓両国のファンたちが熱く反応した。数多くの動画が既にYouTubeにアップロードされていた。
NewJeansは2022年7月にデビューした女子5人のアイドルグループ。韓国だけでなく多国籍メンバーで構成されており、「青い珊瑚礁」で注目されたのはベトナム系オーストラリア人のメンバー(ハニ)だった。男子アイドルBTSと同じ事務所(「HYBE」)の傘下に属しているが、「レトロ」「イージーリスニング」を標榜した点から若年層だけでなく、やや上の年代までファン層を広げている。
NewJeansの日本上陸を受け、YouTubeで関連する動画や反応を調べてみた。ファンたちがアップしたとみられる「直撮」(韓国アイドル界隈で使われる用語で、「ファンが現場で撮った動画」)の動画が多数見られた。そこでYouTubeのアルゴリズムが新たな動画の存在を教えてくれた。日本人女性たちが韓国のテレビ番組で「青い珊瑚礁」を歌う動画だ。再生回数は既に100万回に迫っており、かなり注目されていることが分かるが、私にはなじみのない番組だった。
タイトルは「韓日歌王戦」(日本版は「日韓歌王戦」)。日韓それぞれのオーディションを勝ち抜いた14人が両国の「古き良き時代の歌」を披露し、競い合う番組だ。審査員として松崎しげるなど両国の大物歌手が出演していた。
YouTubeには「韓日歌王戦」で歌われた多くの名曲がアップロードされていた。最初は意識していなかったが、段々とある変化もしくは事実に気付かされた。これまで韓国のテレビ番組で「日本の歌」が「日本語」で堂々と歌われたことがなかったということだ。MBNは「総合編成チャンネル」で、ケーブルチャンネルだが地上波テレビ局と編成の面で大差はない(ニュースやバラエティー番組が放映できる)。放送に関係する法律などで日本の歌が禁止されているわけではないが、これまでは「暗黙のルール」がそれを阻んできた。今回、その見えないタブーの一部が崩れた。私はかつて同テレビ局の系列会社(新聞社)で働いていたので内部を取材したことがあるが、政府の(暗黙の)了解は必要だった。
一説によると「韓日歌王戦」で歌われた「青い珊瑚礁」は、NewJeansのプロデューサー(もしくは所属事務所の代表)の選曲の参考になったという。原曲になかった振り付けがそのままNewJeansのコンサートで取り入れられたのが根拠だ。「韓日歌王戦」動画のコメント欄も興味深い。歌を純粋に楽しむコメントが多く、そこに国境は見られない。この番組は放送時間帯視聴率1位を記録した。単純に日本の歌が韓国のテレビ局で歌われた以上に有意義な結果を残したのだ。日本側の出演者の一人は歌唱力が韓国で大きな話題になり、長きにわたった無名歌手としての人生が報われたということで、日本のフジテレビで取り上げられた。
同番組の人気を受け、続編「韓日トップテンショー」も放映中だ。最近は日本での「韓流の先駆け」とも呼ばれた桂銀淑が舞台に立ちヒット曲を日本語で歌った。コメント欄には昔の彼女の歌声を覚えている日本のファンたちの反応も少なくない。韓国では近年、日本のいわゆる「シティ・ポップ」が再発見され「はまった」という人も増えている。
コロナ禍が立ちはだかった両国間の文化交流は再び活発化している。メディア界では合作プロジェクトが続々とスタートした。少なくとも文化では「タブーなき享受」が長らく続くことを願う。
<尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jaeun>
立教大学平和・コミュニティ研究機構特別任用研究員、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所非常勤講師。2020年度渥美財団奨学生。新聞記者(韓国)を経て、2021年一橋大学法学研究科で博士号(法学)を取得。国際関係論及びメディア・ジャーナリズム研究を専門とし、最近はファクトチェック報道や、国際人権規範と制度化などに関心を持っている。
—————————————————————-
【2】国史対話エッセイ紹介
9月2日に配信した国史対話メールマガジン第57号のエッセイをご紹介します。
◆唐小兵「まぐれ当たりの歴史学習の道―私は如何に新聞学から歴史研究へ切り替えたか」
私はずっと自分は史学界のマージナル・マンだと思っている。私の研究分野である現代中国思想文化史よび知識人史も、歴史研究に身を投じた過程も、主流あるいは一般的な正規教育・訓練によるものではかった。このようなマージナル・マン的なアイデンティティは、多少の焦慮と緊張をもたらすとは言、私に他者として二つあるいはそれ以上の学科の間を行き来し、互いに参照する可能性を広げてくれた。
私は2001年に理工学科を中心とする大学である湖南大学の人文社会学科系新聞専攻を卒業した。卒業後、私は当時大多数のクラスメートのように人気のある新聞メディア業界に就職せず、地方にある師範学院の新聞学科で教鞭を執り、中国新聞事業史および新聞取材学などの専門的な授業を担当していた。当時の私は、教鞭を執り、恋をしながら著名な大学の新聞学科の入学試験を受けるつもりであった。しかし、とある文章が私の運命を変えた。
大学卒業後、私はたびたび衡陽から長沙まで行って大学のクラスメートの会合に参加し、大学に残って行政の仕事をしている大学のクラスメート葉鉄橋氏が住んでいた大学の安アパートに遊びに行った。岳麓山に登ったり、夜食を楽しんだり、トランプ遊びをしたりするほか、よく長沙の定王台にある様々な本屋を巡った。ある日、私は湖南図書城(訳者註:本屋名)で偶然一冊の黒書(黒を基調としたカバーの書籍)『別の啓蒙』と出会った。著者は中国思想史と知識人史研究で著名な学者の許紀霖教授である。当時、私は許教授の学問と人生を理解できなかった。大学の4年間、私は文芸創作に熱中する典型的な文芸青年であり、先生の指導を受けなかったので、思想文化史や現代の知識人に対する関心はなかった。しかし、私はこの本の主題や品格に心惹かれた。
全文は下記リンクよりお読みください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024TangXiaobingEssay.pdf
※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。
◇国史メルマガのバックナンバー
https://www.aisf.or.jp/kokushi/
◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。
[email protected]
*********************************************
★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。
https://www.aisf.or.jp/kokushi/
●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。
●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。
●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。
●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/
●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。
関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局
〒112-0014
東京都文京区関口3-5-8
(公財)渥美国際交流財団事務局内
電話:03-3943-7612
FAX:03-3943-1512
Email:[email protected]
Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/
*********************************************