SGRAメールマガジン バックナンバー
KOYAMA Koki “Current Status and Prospects of Japanese Studies in Thailand”
2024年9月5日 17:09:33
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SGRAかわらばん1029号(2024年9月5日)
【1】AFC7円卓会議報告:香山恆毅「タイにおける日本研究の現状と展望」
【2】国史対話エッセイ紹介:安岡健一「歴史と私」
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【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告
◆香山恆毅「タイにおける日本研究の現状と展望」
2024年8月10日(土)午前9時から、チュラーロンコーン大学文学部にて開催された円卓会議では、タイにおける「日本語、日本語教育、日本文学、日本文化」に関する研究の特徴が報告された。タイで発表された学術論文のデータベースを基にしたものである。その後、これらの研究を後押しする二つの学術協会の役割、活動内容、研究の特徴の紹介があった。
まず、「日本語・日本語教育・日本文学」に関する研究の全体傾向について、チュラーロンコーン大学文学部教授のカノックワン先生から報告があった。(1)過去11年間(2012-2022年)にタイで発表された外国語・外国文学に関する論文の中で、日本語に関するものは350本あり、英語1077本、中国語682本に次いで、3番目に多い。(2)日本語教育分野の論文が多いこと、タイ語で書かれた論文が多いことなどが特徴。(3)2018-2019年は論文数が特に多い。この時期は国による大学教員昇進基準の改定時期と重なる。(4)2015年以降、日本語で書かれた論文が減少した。
「日本語および日本語教育」研究の現状については、タマサート大学教養学部教授のソムキアット先生から報告があった。(1)過去29年間(1994-2022年)にタイで発表されたこの分野の学術論文数は528本。(2)日本語教育に関する研究(教室活動、実践研究など)の割合は2012年頃までは増えていたが、その後は減る傾向にある。翻訳の研究は2008年頃から始まっている。(3)研究方法は、アンケートが最も多く、5年毎の平均で24-39%だが、客観的な方法(テスト、コーパスの利用)や、インタビューなども取り入れられるようになっており、今後も研究の質の向上が期待できる。
「日本文学」研究については、タマサート大学教養学部准教授のピヤヌット先生から報告があった。(1)過去29年間(同上)にタイで発表されたこの分野の論文および図書は152件。最も多いのは作品分析で、約9割を占めている。(2)対象作品の時代区分は、現代(関東大震災以降)が約4割、中世(鎌倉時代から安土桃山時代)が約2割を占めている。(3)現代文学研究が多い理由は日本語で比較的容易に読めることや、タイ語翻訳版が多いことなどが考えられる。中世文学研究が多いのは「仏教」に関係したテーマがあり、タイに仏教徒が多いことが考えられる。
学術協会の紹介では、最初にタイ国日本研究協会(JSAT)会長であるチュラーロンコーン大学文学部准教授のチョムナード先生から、「タイにおける日本の社会と文化研究の現状と課題―JSATの視点から」と題して報告があった。(1)タイの日本研究者の集まりは1980年代後半から始まり2006年に組織化、2011年に学会誌『jsn』を発刊、2013年に協会名をJSATに改名し、現在に至っている。(2)活動の目的は日本研究者同士の意見交換や研究成果の共有など。(3)活動内容は年次学術大会、ワークショップ、オンラインセミナーの開催や、年2回の学会誌刊行など。(4)日本の社会・文化研究の特徴は、現代に関する文献・資料研究が多いことや、フィールドワーク調査が少ないことなどである。
二つ目の学術協会の紹介では、タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT)アドバイザーであり、元カセサート大学人文学部准教授のソイスダー先生から報告があった。(1)タイの日本語教師会は2003年に設立され、2009年にタイ国日本語日本文化教師協会となった。(2)活動目的は学術的な意見、教授資料、教授法や経験の共有など。(3)活動内容は、教師向けに年3回のセミナーや年2回の短期訪日研修などがある。学生向けには、ドラマコンテストや輪読会(ビブリオバトル)などを開催。(4)2024年には「第1回タイ国日本語教育国際シンポジウム」を開催し、基調講演で生成(ジェネラティブ)AI時代の言語教育を取り上げ、質的な教師の育成を支援している。
最後の質疑応答では、初めてタイを訪れた方が、バンコクの町中に日本語の看板があることを取り上げ、日本語教育の状況や教科書について質問。登壇者からは、大学では中上級レベルの市販教科書と自作教材を併用している、との回答があった。また、日本語学科がある高校もあり、国際交流基金バンコク日本文化センターが開発した教科書が主に使われ、高校卒業時に同基金などが運営する日本語能力試験(JLPT) N4レベル(基本的な日本語を理解できる)相当の内容を学んでいるとの説明があった。他にも日本の環境への取り組みに対する関心や、タイ国内外の学術協会との交流などについて質問があり、学際的、国際的な話題について活発に議論された。
当日の写真は下記リンクをご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/09/AFC7RTReport-Japan-Studies-in-Thailand-LITE.pdf
<香山恆毅(こうやま・こうき)KOYAMA_Koki>
チェンマイ大学人文学部日本語講師。東京都立大学工学部建築工学科卒業。日本およびタイにて建築施工管理(1995-2011年)。チュラーロンコーン大学文学部修士課程外国語としての日本語コース修了(2015年)。
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【2】国史対話エッセイ紹介
5月31日に配信した国史対話メールマガジン第57号のエッセイをご紹介します。
◆安岡健一「歴史と私」
研究に関連する場での自己紹介に、いつもひと手間かかるのは、私の学位が農学博士だからだ。これは私が農学部の農業経済を学ぶコースに含まれている、農業史を研究する研究室の出身であることによる。日本に農学部はたくさんあるが、農業史を掲げた研究室は片手で数えられるほどしかない。そういう少し変わった経歴である。
文学部を卒業して大学院で農業史の研究室に来る人も中にはいるが、私の場合は学部時代から農学部に所属している。つまり、高校では理系を選択していたのだ。当時の日本で理系を選択すると、ほとんどの場合、中学校の社会科を終えた後は、高校一年生で世界史を学ぶのが生徒として歴史を学んだ最後となることを意味する。それ以外に歴史的なものへの関心といえば、中学生になったころに漫画の影響で明治維新に関心を持ち司馬遼太郎の作品を読んでいたくらいだった。それは歴史への関心というより、人間の生き方への関心に近いものだっただろう。また、私が生まれた場所は市街地で、新たな住民が多く住む場所だったので、昔ながらの共同性を通じて地域史に触れるといったこともほぼなかった。
近現代の文学を読むのは好きだったから文系に転換しようと思ったこともあったものの、物理や化学が面白かったのと、入試科目としての歴史の問題に目を通して、これはかなわないと思ってギブアップしたというのが実情だ。そんな自分が高校歴史教科書の一部を執筆することになり、人生はわからないものだなと思っている。
全文は下記リンクよりお読みください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024YasuokaEssay.pdf
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