SGRAメールマガジン バックナンバー
DING Yi “Researchers in Today’s Society”
2024年6月6日 15:16:18
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SGRAかわらばん1019号(2024年6月6日)
【1】エッセイ:丁乙「現代社会における研究者のあり方」
【2】催事紹介:国際学術大会「東アジアの禅宗寺院と楊州檜巌寺址」(6月14日オンライン)
【3】第73回SGRAフォーラムへのお誘い(再送)
「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」(6月25日東京+オンライン)
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【1】SGRAエッセイ#766
◆丁乙「現代社会における研究者のあり方」
2022年11月から2023年8月まで東京大学東洋文化研究所にある東アジア藝文書院(EAA)という組織で特任研究員を務めた。数多くのイベントに参加し、自らもプロジェクトを立ち上げたことで、社会連携・研究・教育を総合する組織での学問の可能性に関して広く考える機会に恵まれた。
私が担当したのは「東洋美学の生成と進行」というシリーズ講演・討論で、計6回実施した。初回は小田部胤久先生(東京大学)、第2回は陳望衡先生(武漢大学)、第3回は王品先生(上海交通大学)、第4回はKevin_M._Smith先生(UCバークレー)、第5回は青木孝夫先生(広島大学)、第6回は塚本麿充先生(東京大学)。グローバルな視点から見ると、西洋に発端した美学という学問領域を参照して近代に作られた東洋美学は、未だ十分適切に位置付けられてきたとは言えない。そこで、EAAという場において、東洋美学と称されうる領域の射程やあり方について検討を試みた。本イベントを通して目指すのは、「東洋美学」をすでに定まった領域と見なしてそれに該当する最新の研究を紹介するのではなく、むしろ「生成中の領域」としてそれがいかなる形で進行しているのか、哲学・美学のほか、文学や芸術批評、美術史などの分野にも注目し探求することである。日本だけでなく、交流のあった中国やアメリカの研究者からも、それぞれの立場から東洋の美学に対する理解や視点を得ることは重要である。
このプロジェクトのほか、EAAでの活動を通じて、研究や学問のあるべき姿やその意義について考えさせられた。まず、研究のスピードについて。私が以前より慣れ親しんだ人文社会系という伝統的な学問分野や学的環境では、基本的に文献研究が行われており、その性質のゆえか研究成果の産出スピードは速くはなかったし、おそらく速くなりえないだろう。対照的に、EAAで目にしたのは新たな学問を開拓するために、必然的に量的にも範囲的にも膨大かつ多様な研究と向き合わねばならず、社会連携からの要求もあるため、素早く発信している姿であった。初めは自分がそのスピードに合わせることができるのか心配していたが、一定の蓄積を持つ研究者ならば、必ず物事に対する独自の視点があり、そこから何らかの感想やコメントを述べられることに気づいた。しかし、それは本当にその発表や研究に対する理解に基づく適切なものであるのか、という別の不信が生じてきた。着任当初の自己の能力への不安から、次第に、学問のあり方についての別の問いが生まれてきた。
また痛感したのは、いわゆる研究のパフォーマンス性である。学生の時に有名な研究者の講演を聴講しに行き、失望した経験が時々あった。著作と比べ、なぜ面白くなかったのかと考えていた。だが現在の自分は、もはや一つ二つの講演で研究者の研究を評価しない。同じ分野内の学者向けの発表と、分野外の学者向けのもの、さらに一般向けのものがあるからである。これらの発表に求められるものは必ずしも一致しておらず、互いに相反する部分も少なくない。人文系の研究の価値は広く発信していかなければ、一種の傲慢なエリート主義に陥りうる。しかしそればかり行えば、現在の社会ではあるいはそれだけで名声や地位を獲得することも考えられ、学者より数的に圧倒的な公衆に認められ、必要性があると判断されることに偏重してしまう、というアポリア(論理的難点)が存在するように感じ取れる。
この一年間、学問の可能性に興奮した瞬間は多かったが、他方で虚しさもしばしば感じた。そして、自分がいかなる研究者になりたいのか、また現実的になれるのか、という課題が頭に浮上してきた。これは今後、研究者として現代社会を生きていく上で重要な課題となるであろう。
<丁乙(てい・おつ)DING_Yi>
東京大学人文社会系研究科修士・博士課程、東京大学東洋文化研究所の特任研究員を経て、現日本学術振興会外国人特別研究員(京都大学)。カリフォルニア大学バークレー校やHerzog_August_Bibliothek_Wolfenbuttel(ドイツ)など客員研究員。研究分野は中国美学、比較美学。博士論文『『ラオコオン』論争からみる二〇世紀中国美学』は第14回東京大学南原繁記念出版賞を受賞し、2024年度中に東京大学出版会より刊行予定。
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【2】催事紹介
SGRA会員で京都大学防災研究所研究員の金ミンスクさんから文化財に関するフォーラムの案内をいただきましたので紹介します。参加ご希望の方は直接お申込みください。
◆国際学術大会「東アジアの禅宗寺院と楊州檜巌寺址」へのお誘い
平素より大変お世話になっており、心より感謝申し上げます。
この度、韓国の楊州檜巌寺址の文化遺産としての位置づけを検討するに当たり、文化交流史の視点から東アジアの禅宗寺院について日中韓の研究者が議論する場を設けました。
お忙しいことと存じますが、皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。
https://blog.naver.com/ggcp2018/223456145375 (遺跡写真あり)
○日時:2024年6月14日(金)13:30-18:00
○主催:京畿道、楊州市
○主管:建築文献考古スタジオ
○後援:韓国建築歴史学会、韓国中世考古学会
○同時通訳付きでウェビナーで送信、発表資料集オンライン提供
○参加申し込み:
(日本語)https://form.naver.com/response/FGNLLfOE_zp0qVLtRhqA2w
(中国語)https://form.naver.com/response/5EtpQatiwzzTp2FzwFGUeQ
○開催趣旨
楊州檜巌寺址は14世紀に東アジアで流行った禅宗における修行と生活のための規範である「清規」に基づいた空間構成を具体的に示す考古遺跡である。同寺は14世紀末に再興され、17世紀中葉には廃寺となった。しかし、建物址と高僧らの記念碑の配置を通して高麗時代の禅宗が朝鮮時代にも引き継がれていたことを確認することができ、約250年間にわたって禅宗文化の伝承と発展を窺うことができる。同遺跡は前記した価値が認められ、2022年7月に世界遺産の暫定リストに記載された。世界遺産登録のための推薦状作成においては、楊州檜巌寺址の遺跡としての価値を「文化交流」の側面から考察する必要がある。そこで、同時期(13~14世紀)における東アジアの禅宗寺院建築の様子とその後の変化を調べた上で、檜巌寺址の遺跡としての位置づけについて日中韓の研究者を招聘して議論する。
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【3】第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」へのお誘い(再送)
下記の通り第73回SGRAフォーラムを昭和女子大学の会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」
日 時:2024年6月25日(火)17:30~19:00(終了後に懇親会*)
方 法:会場及びZoomウェビナー
会 場:昭和女子大学学園本部館3F中会議室
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/05/SGRAForum73Map.pdf
アクセス
https://office.swu.ac.jp/other/campusmap.html
言 語:日本語・英語(同時通訳**)
申 込:下記リンクからお申し込みください
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_UH6bfz9cTO6OsLWIzMi8Hw#/registration
*フォーラム終了後、パレスチナ料理の懇親会にもぜひご参加ください!(参加費無料)
**同時通訳はZoomで行うため、会場にて同時通訳を利用する方は、端末(スマートフォン、ノートパソコン等)およびイヤホンをご持参ください。
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected])
■ フォーラムの趣旨
パレスチナ問題は「複雑すぎる」と言われます。しかし、客観的な事実や人道的な観点から考えると、この問題はすべての人に関わっています。フォーラムでは専門家、パレスチナ出身者、パレスチナ支持の活動を行っている学生の声を取り上げ、なぜこの問題が全ての人にとって重要なのか、そしてその問題を取り上げようとするときに直面する壁について話し合います。
「壁」という言葉には複数の意味が込められています。一つは、パレスチナ問題について公然と話すことを阻む見えない壁であり、タブーと言論の自由への抑圧を象徴しています。もう一つは、パレスチナ領土での継続的なアパルトヘイト(人種隔離)と植民地化の結果として存在する物理的な分離の壁です。世界中での学生の抗議活動は、これらの見えない壁を取り壊す試みであり、パレスチナ問題に対する公開討論を促進する力となっています。これはパレスチナ問題に対する新たな視点を提供すると同時に、世代間の意識の違いとその変化を示唆しています。
フォーラムを通じて、参加者がパレスチナ問題に対する多面的な理解を深め、グローバルおよびローカル、マクロとミクロな視点からのアプローチを考察する機会になると期待しています。
■プログラム
17:30開始
司会(シェッダーディ・アキル、慶応大学訪問講師)
挨拶(今西淳子、渥美財団SGRA代表)
17:35発表1 ハディ ハーニ(明治大学特任講師)
「パレスチナ問題の基礎知識:改めて、歴史と政治的構図の要点を抑える」(日本語)
18:05発表2 ウィアム・ヌマン(東京工業大学大学院生)
「建築の支配:植民地主義の武器としての建築環境」(英語)
18:20発表3 溝川貴己(早稲田大学学部生)
「立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023年10月以降の東京のパレスチナ解放運動」(日本語)
18:35質疑応答・ディスカッション(日本語・英語)
モデレーター:徳永佳晃(日本学術振興会特別研究員PD 日本大学)
オンラインQ&A担当:郭立夫(筑波大学助教)
19:00閉会・懇親会開始
【発表概要】
発表1「パレスチナ問題の基礎知識:改めて、歴史と政治的構図の要点を抑える」
(ハディ ハーニ、明治大学特任講師)
現在、世界中でパレスチナ人と連帯する運動が巻き起こっており、日本社会にも多くの参加者がいます。ただし「停戦」のみならず、その先に正義を実現するためには、構造的かつ本質的な変化へとつながる長期的な視野を持つことも重要です。そのために第一に重要なことは、シンパシーだけではなく、知識と論理に裏打ちされた正しさに則って行動することだと考えられます。このため今回のイベントでは、最新情勢や新事実の解説というよりは、パレスチナ問題の長く複雑な歴史や、現状の政治的構図を理解するうえで重要かつ基本的なポイントを解説し、全ての人が共有すべき基礎を確認することを目的としています。
発表2「建築の支配:植民地主義の武器としての建造環境」
(ウィアム・ヌマン、東京工業大学大学院生)
建築は政治を具現している。設計者の世界観を表すものであると同時に、政治的コントロールのための装置として使われることもある。このことは、ヨルダン川西岸やガザの植民地建築にはっきりと表れているが、東京や世界中のパレスチナ支持デモの場所として選ばれている公共空間にも、目に見えない形で表れている。本発表では、パレスチナ人に対する日常的な抑圧と統制に寄与している建築装置と、世界中の公共空間におけるそれに匹敵する、しかし控えめな建築的統制装置との類似性を描き出そうと試みる。
発表3「立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023年10月以降の東京のパレスチナ解放運動」
(溝川貴己、早稲田大学学部生)
2023年10月以降、在日パレスチナ人だけでなく、学生、クィアコミュニティ、環境活動家といった様々な人々のコミュニティが、即時停戦とパレスチナ解放を訴えて、デモやイベントを行っていた。ここでは、この人々がパレスチナ/イスラエルにどのように向き合い、この7か月間どのような試みを行ってきたか、東京での事例を紹介する。
※プログラムの詳細は、下記リンクからご参照ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/05/SGRAForum73Program.pdf
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