SGRAメールマガジン バックナンバー

HU Shi “About Genetic Modification”

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SGRAかわらばん928号(2022年6月30日)

【1】エッセイ:胡石「遺伝子組み換えについて」

【2】SGRAレポート第97号「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか」紹介

【3】SGRAレポート第98号「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」紹介
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【1】SGRAエッセイ#711

◆胡石「遺伝子組み換えについて」

スーパーやコンビニで買い物をする時、商品の包装に「遺伝子組み換え」、「遺伝子組み換えでない」などの表示を見たことがあると思う。遺伝子組み換え作物は主に飼料や加工食品の原材料に使われているため、我々は気付かないうちにこれらをたくさん食べている。筆者は日本に留学中、ずっと遺伝子組み換え植物を研究対象として使っていたので、遺伝子組み換えについて少し話したいと思う。

遺伝子とは?

生物学の教科書の説明によると、遺伝子は遺伝情報を載せるDNAセグメントである、となっている。では、「DNAとは何ですか?」という質問が出ると思う。答えはデオキシリボ核酸である。さらに「デオキシリボ核酸とは何か?」となって、問答は永遠に終わらない。簡単に言うと、遺伝子とは生物をつくる設計図に相当するものである。この設計図は生物が環境に適応するため、どのように成長するかを決定する。人間の場合、それは性別、外見、体調、生涯にわたる治療不可能な病気を持っているかどうか、そして子孫の人生さえ決定するかもしれない。

もちろん、今の社会には人の表現型(生物が示す外見上の形態)を変える科学技術の発展がたくさんある。たとえば、一重まぶたが嫌いなら整形手術で変えられ、目の色が嫌いならコンタクトレンズを着用し、さらに性別も手術で変更することが可能である。しかし、これらはただ表面的な現象であり、遺伝子によって決定されるものの多くは変えられない。たくさん食べても体重が増えない人がいるのはなぜか?運動をしないのに病気にならない人がいるのはなぜか?不治の病になる人がいるのはなぜか?・・・人々はいつも「神がすべてを決定する」と言ってきたが、本当は遺伝子がすべてを決定する。科学者たちの仕事はこの遺伝子という設計図を解読することで、私たちの生活を変えることであろう。

遺伝子組み換えとは?

遺伝子組み換えは生物が持つ遺伝子の一部を他の生物の細胞に導入して、その遺伝子を発現させる技術のことである。簡単に言えば、生物Aには生活の質の低下につながる不利な点があり、生物Bにはこの不利な点がないということであれば、生物Bの原因となる遺伝子を生物Aに移行することで、生物Aはそれまでの不利な点がなくなってうまく生きることができる、ということだ。

最初の遺伝子組み換え植物は、1983年に米国で作り出された遺伝子組み換えタバコである。そして1994年にフレーバー・セーバー・トマトと呼ばれる遺伝子組み換えトマトが世界で初めて発売された。遺伝子組み換え作物は病気・農薬に強い、収穫量が多いなどメリットを持っている。日本は遺伝子組み換え作物を大量に輸入し、加工食品の原料や畜産の飼料として利用している。日本国内のトウモロコシ、ワタ、ナタネおよびダイズ使用量の9割程度が遺伝子組み換え作物と推定されている。

遺伝子組み換え作物の安全性

まず、遺伝子が人間に移されるのではないかという心配について、論理的に「不可能」とは言えないが、映画のように「遺伝子組み換えスーパースパイダー」に刺されてスパイダーマンになることは、数十年間は実現できないと考える。例えば細菌由来のBt遺伝子を導入した組み換えイネについて、「食べると虫が死ぬが、人に害はないか」という質問がある。このBt遺伝子の機能はタンパク質を作ることで、昆虫に食べられた後、タンパク質と昆虫体内の受容体が結合して毒性を生み出し、昆虫を殺すことができる。一方、この受容体を持っていない人間やその他の生物には影響がない。もちろん、遺伝子組み換え作物の安全性について、まだ少し懸念は残っているが、現在輸入されている遺伝子組み換え食品は緻密な安全検定を行っているので、安心していただきたい。

遺伝子組み換え自体は単なる専門用語であり、それが良いか悪いかは関係ないし、技術に正誤はない。もちろん、私たちは消費者として遺伝子組み換え食品を食卓に出さないことができるし、遺伝子組み換え綿花で作られた服を着ることも避けられる。ただし、科学者の研究結果を否定しないでほしい。

<胡石(こ・せき)HU_Shi>
2021年度渥美奨学生。中国湖北省出身。2022年3月に東京農工大学大学院・生物システム応用科学専攻の博士号取得。現在日産化学株式会社で農薬の開発に携わる。
論文に「Rerouting_of_the_lignin_biosynthetic_pathway by_inhibition_of_cytosolic_shikimate_recycling in_transgenic_hybrid_aspen」(Plant_Journal,_2022)など。

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【2】SGRAレポート第97号紹介

SGRAレポート第97号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様は冊子本をお送りしました。会員以外でご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。

第67回SGRAフォーラム講演録
◆「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―」
2022年2月10日発行

https://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report97.pdf

<フォーラムの趣旨>

SDGs(Sustainable_Development_Goals持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットで、国連加盟193カ国が採択した、2016年から30年までの15年間で持続可能で、より良い世界を目指すために掲げた目標。国連ではSDGsを通じて、貧困に終止符を打ち、地球を保護してすべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけている。具体的には、17のゴール(なりたい姿)・169のターゲット(具体的な達成基準)から構成され、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っている。SDGsに取り組むのは、国連加盟国の各国政府だけではなく、企業、NPO、NGOなどの各種団体、地方自治体、教育機関、市民社会、そして個人などすべての主体がそれぞれの立場から取り組んでいくことが求められている。

2020年はSDGsの5年目になる年であったが、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界を席巻し、世界各国の経済や社会生活に多大な打撃を与え、世界大戦に匹敵する死傷者を出す悲惨な状況になってしまった。世界では先進国を中心にワクチン開発・供給などで取り組んで来ているが、多くの発展途上国は、資本主義の生存競争のなかで、パンデミックの対応に困難を極める状況に置かれているのが現状である。

本フォーラムは、SDGsの基本理念と目標について理解するとともに、いくつかの国をケーススタディとしてとりあげ、パンデミックを如何に克服して「誰一人取り残さない」SDGsの実現に対応すべきかについて議論を交わすことを通じて、「地球市民」を目指す市民の意識を高め、一人一人がSDGsに主体的に取り組むアクションを起こすきっかけを提供することを目的とする。

<もくじ>

■第1部 基調報告
「SDGs時代における私たちの意識改革」
佐渡友哲(日本大学、INAF)

■第2部 世界各地からの現状報告
【報告1】フェルディナンド・C・マキト(フィリピン大学ロスバニョス校、SGRA)
「フィリピンにおけるSDGs」
【報告2】杜世キン(INAF)
「ハンガリーにおけるSDGs―水に関するハンガリー・中国の国際関係・協力を事例に―」
【報告3】ダルウィッシュ ホサム(アジア経済研究所、SGRA)
「「アラブ持続可能な開発レポート2020」から読み解く中東・北アフリカ地域のSDGsに向けた課題」
【報告4】李鋼哲(北陸大学、SGRA、INAF)
「朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)におけるSDGsの取り組みと評価」
【報告5】モハメド・オマル・アブディン(参天製薬(株)、SGRA)
「民主化プロセスとパンデミック―歴史の運命のいたずらに翻弄されるスーダン暫定政府と国民―」

■第3部 討論・総括
モデレーター:李鋼哲(北陸大学、SGRA、INAF)
指定討論者:羽場久美子(神奈川大学教授・青山学院大学名誉教授、INAF)、三村光弘(環日本海経済研究所(ERINA)、INAF)
パネリスト:報告者全員
総括:平川均(名古屋大学名誉教授、SGRA、INAF)

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【2】レポート第98号紹介

SGRAレポート第98号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様は冊子本をお送りしました。会員以外でご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。

第15回SGRAチャイナフォーラム 山室信一先生講演録(日中合冊)
◆「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?―空間アジアの形成と生活世界の近代・現代―」
2022年6月9日発行

https://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report98light.pdf

<フォーラムの趣旨>

山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想史脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討するものである。

<もくじ>

【開会挨拶】
今西淳子(渥美国際交流財団)
野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)

【講演】山室信一(京都大学名誉教授)
「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?―空間アジアの形成と生活世界の近代・現代―」

【コメントと回答】
王中忱(清華大学中国文学科)
劉暁峰(清華大学歴史系)
趙京華(北京第二外国語学院)
林少陽(香港城市大学中文及歴史学科)
【質疑応答】
質問者:フォーラム参加者/回答者:山室信一
【閉会挨拶】
王中忱(清華大学中国文学科)

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