SGRAメールマガジン バックナンバー

Koo Hye-won “Ozu Tour”

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SGRAかわらばん881号(2021年7月29日)

【1】エッセイ:具慧原「小津めぐり」

【2】国史対話エッセイ「向正樹『疫病とナショナリズム』」のご紹介

【3】第6回アジア未来会議プレカンファランスへのお誘い(再送)
「ポストコロナ時代における国際関係―台湾から見るアジア」(8月26日、オンライン)
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【1】SGRAエッセイ#677

◆具慧原「小津めぐり」

数年前の夏、清澄白河にある、ずっと行ってみたかったカフェに向かう途中だった。ビルに書いてある住所をちらっと見た私はびっくりした。深川、と書いてあったためである。深川は私の研究対象である小津安二郎監督が生まれ、幼少期を過ごしたところである。彼の映画に現れる下町情緒の起源とも言える深川に偶然足を踏み入れたことは、私を非常に興奮させた。まだ東京の地理に詳しくなかった私の頭のなかでは、清澄白川と深川は全く異なる島のように浮かんでいたため、これは思わぬ発見だった。猛暑も忘れてすぐに地図アプリを開き、「小津安二郎誕生の地」に行ってみた。道路ができ、大きなマンションが立ち並んでいる風景は、小津の眼に映ったものとは随分違うはずなのにもかかわらず、夏の陽を照り返すアスファルトに立ってその風景を眺めていると、小津が歴史の中の人物というより、まるで私の身近な人であるかのような不思議な感じがした。そして私の研究も、根本的にはこの地から始まったんだ、という実感が湧いた。予期しなかった小津との出会いが、私を小津の方へ一歩近寄らせたのである。

それ以来、いわゆる小津めぐりは留学生活における一つの課題となった。上野公園の西郷隆盛銅像、鎌倉の大仏、京都の龍安寺、尾道の鉄道などから小津の足跡をたどった。ドイツの世界的な監督であるヴィム・ヴェンダース(Wim_Wenders)はドキュメンタリー映画『東京画』(1985)にて、東京にはもはや『東京物語』(1953)の様相がない、とがっかりしていた。しかし私は、すでに変わったもののなかで変わっていないものを見つける度に、つかの間ながら小津とつながっているような気がした。その時だけは、戦争を挟む歴史的な屈曲のなかで捉えていた白黒の小津が、私のなかで総天然色に染まった。だが、その直後にはいつも小津の不在が惻々として心を打った。『東京物語』から変わっていない尾道の穏やかな海は、いつかここに存在していた小津の眼差しを私に共有させると同時に、あっという間に過ぎ去った彼の生涯を浮き彫りにしたのである。

長谷正人は、小津の遺作『秋刀魚の味』(1962)で、娘が嫁に行った後に映される空になった2階の娘の部屋や階段のショットが、娘と父親が「ともに過ごした時間があっという間に過ぎ去ってしまった」ことを観客に感じさせると指摘する。長谷の言う「あっという間に過ぎ去った」時間感覚は、他の小津映画のみならず、私の小津めぐりにも当てはまる。この感覚は、小津映画のなかでは肝心な場面の意図的な省略によって強調されており、小津めぐりにおいては、今の私には知りようがない、小津の生涯におけるところどころの空白によって生じるのだろう。切ないとか、空しいとかでは表すことのできない複雑で奇妙な時間感覚が、尾道の煌(きら)めく波と共に私に絶えず流れ込んだ。小津めぐりは、小津との出会いと別れの繰り返しだった。

振り返れば、小津映画の謎に対する好奇心が研究の世界へ私を導き、その謎を自分なりに解いていくなかで目した小津の揺るがぬ強さが研究の指標になってくれた。そして小津めぐりは、留学生活の活力源として精神的な支えになった。研究で疲れた時にも、挫折した時にも、日本のどこかに残っている小津の軌跡を辿ることは、常に彼の存在/不在を生々しく喚起し、乱れた心を引き締めることができた。作品を見る経験と、監督の足跡を追う経験との共鳴は、私の小津像をカラフルに彩り、視野を拡張した。これは日本に留学したからこそ得られた貴重な経験だった。今考えてみると、研究だけでなく、足掛け8年の日本での生活それ自体が小津に導かれたようである。あっという間に過ぎ去る時間のなかで、私の見た小津の眼差しをどう継承していくべきか、未解決の、おそらく一生の課題となるこの問題を心に刻みつけ、その答えに少しでも近づける方向へと、次の一歩を踏み出したい。

<具慧原(グ・ヘウォン)Koo Hye-won>
2020年度渥美国際交流財団奨学生。韓国出身。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻(美学芸術学)。国立釜山大学芸術文化映像学科学士。東京大学大学院博士前期課程修了。大使館推薦による国費外国人留学生(2014~2019)。研究テーマは「小津安二郎の受容史・言説史」「1920~1960年代の日本映画史」。

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【2】国史対話エッセイのご紹介

7月21日に配信した国史対話メールマガジン第32号のエッセイをご紹介します。

◆向正樹(同志社大学)「疫病とナショナリズム」

本投稿では疫病と社会、とりわけナショナリズムとの間の不思議な関係について考えてみたい。
COVID-19(新型コロナウイルス)は人類史上最大規模のパンデミックをもたらした。先進国の医療体制をも麻痺させ、都市がロックダウンに追い込まれ、その影響が経済・政治・教育・都市生活・芸術文化などあらゆる方面に波及した。このウイルスの影響力は、通常の疾病が及ぼす範囲をはるかに超えている。それは社会的なアクターでもあるのだ。

2021年1月9日(土)、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行のなか行われた第5回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」では、19世紀の東アジアのコレラ流行のなかでの各国の対応が紹介された。そのなかで、かつて東アジア共通の経験となった流行病であったコレラもまた社会的なアクターとなった事実が浮かびあがってきた。

続きは下記リンクからお読みください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2021MukaiMasakiEssay.pdf

※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。

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【3】第6回アジア未来会議プレカンファランスへのお誘い(再送)
「ポストコロナ時代における国際関係―台湾から見るアジア」

新型コロナウイルスのパンデミックにより、第6回アジア未来会議(AFC#6)は延期され、2022年8月に台北市で開催することになりました。今年はプレカンファランスを下記の通りオンラインで開催します。日本語への同時通訳があり、一般視聴者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式ですので、どなたでもお気軽にご参加ください。

日時:2021年8月26日(木)11:00~17:30(日本時間)
開催方式:オンライン(Zoomウェビナー)
使用言語:中国語・英語(基調講演とシンポジウムは中⇒英、中⇒日の同時通訳あり)

◆参加申込:
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_7Kz66tJdTn2__57Pn5GUeQ
基調講演とシンポジウムに参加ご希望の方は、上記リンクから参加登録をお願いします。
午後の優秀論文発表は事前の参加登録不要です。

◆プログラム(日本時間)
◇開会式(11:00~11:10)
◇基調講演(11:10~12:00)
講師:呉玉山 中央研究院院士(国際関係、政治学)
「アジアはどこに向かうのか?――疾病管理が政治に巻き込まれた時」
◇シンポジウム(12:00~13:00)
「ポストコロナ時代における国際関係―台湾から見るアジア」
モデレーター:徐興慶(中国文化大学学長)
パネリスト:
松田康博(東京大学東洋文化研究所教授)
李明(政治大学国際事務学院兼任教授)
Kevin_Villanueva(フィリピン大学准教授/中興大学特任副研究員)
徐遵慈(中華経済研究院台湾東南アジア国家協会研究センター副研究員兼主任)
呉玉山(中央研究院院士)
◇AFC優秀論文・台湾特別優秀論文の授与式と発表(14:00~17:20)
◇閉会式(17:20~17:30)

◆プログラムの詳細は下記リンクよりご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2021/07/J_AFC-Preconference_Program.pdf

お問合せ:AFC事務局 [email protected]
テクニカルサポートが必要な場合にもご連絡ください。

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