SGRAメールマガジン バックナンバー

Liu Jie ”Japan Studies as Asian Public Knowledge”

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SGRAかわらばん577号(2015年7月16日)

 

【1】エッセイ: 劉 傑「『日本研究』を『アジアの公共知』に」

 

【2】第49回SGRAフォーラムへのお誘い(7月18日東京)

「日本研究の新しいパラダイムを求めて」(当日参加可)

 

【3】新刊紹介:「東アジア経済と労働移動」

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【1】SGRAエッセイ#466

 

◆ 劉 傑「『日本研究』を『アジアの公共知』に」

 

日中韓の東アジア三国は歴史認識と領土問題をめぐって、70年代以来の難局に直面している。アジアインフラ投資銀行がいよいよ創設されるなか、金融を梃子にした経済提携が期待される一方、日本は中国が主導する同機構の透明性と公正性に懐疑的で、慎重な姿勢を崩していない。終戦から70年が経過するが、アジアにおける「信」の欠如は、政治的関係を著しく後退させ、国民感情にも暗い陰を落としている。長期的に安定した地域関係を構築するために、信賴の醸成は不可欠であるが、その前提条件は、共有できる「知」を編み出すことである。この重責を担う各国の知識人に求められているのは、国境を越える「知」の「公共空間」を構築することである。

 

歴史の束縛から解放されていない東アジアにおいて、地域研究としての「中国研究」「日本研究」及び「韓国研究」の諸分野で、「公共空間」を形成することは極めて難しい。各国がそれぞれのコンテクストの中で他地域を研究している現状は、憂慮すべきことである。各国が描く他国のイメージと当該国の自己認識との間に大きなズレが生じている。例えば、中国と韓国の研究者がもっている日本の近代史像と、日本人研究者がもっているそれとの距離は、この30年間で拡大の一途を辿った。中国研究への傾斜が顕著な今、東アジアにおける日本研究の停滞は、この地域の国際関係に大きな影響を及ぼしている。

 

問題は先ず日本側にある。そもそも日本のアジア研究から日本研究が排除されたことで、日本の日本研究は「日本的空間」のなかに閉じ込められた。このことが世界の日本研究に与えた影響は大きく、日本の「独自性」が特別に強調される結果をもたらした。しかし、19世紀以来のアジアの歩みには、戦争と革命はいうまでもなく、社会・経済の近代化や文化の伝達と発展など、どの分野からみても、日本が深く関わってきたことは一目瞭然である。日本研究の視野を広げ、アジア研究のなかに踏み込まなければ、本当の意味の日本研究は成り立たない。

 

一方、中国や韓国の日本研究のあり方にも大きな問題がある。中国についていえば、清末から中華民国時代にかけて大量の留学生が日本、アメリカそしてヨーロッパに渡ったが、彼らが追い求めたのは、中国を近代国家に進化させる道筋であった。彼らは中国の歴史から近代化のさまたげとなるものをえぐり出し、中国の歴史、思想、文化などを西洋の近代的な学問体系を用いて再解釈することに力を入れた。半面、中国の知識人は日本経由で近代の「知」の概念を貪欲に吸収しながらも、日本や欧米に対する研究には大きな関心を示さなかった。そのため、中国には本当の意味の「日本学」も「アジア学」も確立しなかった。

 

1980年から始まった第二波の留学ブームもこの伝統を継承した。文系を専攻とする留学生の学問的関心は相変わらず、中国近代史、中国政治、中国社会、中国経済などに集中し、日本研究を志すものは比較的少なかった。日本の教育研究機関における中国研究は大変充実しており、留学生に恵まれた環境を提供した。日本には戦前から内藤湖南や狩野直喜らがリードする「支那学」の伝統があり、戦後は「中国学」に継承された。1947年に設立された東方学会は、民間の学術団体として、日本のアジア学の発展と東方諸国の文化の進展に貢献することを目的に活動し続けている。また、アジア政経学会に集まる研究者の大半は中国研究に従事する研究者である。留学生の受け入れに積極的な日本の大学は、中国や韓国の日本研究者をどのように育成していくのか、喫緊な課題である。

 

東アジアの歴史和解を実現するとともに、国民同士の信頼を回復し、安定した協力関係を構築するには、「公共知」の力が求められる。日本研究をこのような「公共知」に育成することの意味は無視できない。近代日本はアジア諸国と複雑な関係を歩んできた。日本が経験した成功と失敗をアジア全体が共有する財産に昇華させることは、歴史を乗り越えることでもある。また、戦後の日本はアジアのどの国よりも、環境問題、高齢化問題、エネルギー問題、自然災害などの問題をたくさん経験し、多くの知見を蓄積してきた。これらの経験をアジア共有の財産に育て上げることの意味はいうまでもない。アジアが求めている現代日本学は、失敗と成功の2つの側面からの「日本経験」に他ならない。

 

それでは、「アジアの公共知」としての「日本研究」をどのように創成していくのだろうか。

 

第一は、歴史を乗り越えることである。そのための第一歩は、中国の「国史」と日本の「国史」、韓国の「国史」を対話させることである。「国史」研究者同士の交流は共有するアジア史につながり、日本のアジア研究に日本研究を取り入れる環境整備にもなる。

 

第二は、日本が中心になって日本研究のプラットフォームを形成し、これをアジアの公共財に育成することである。日本には日本研究に必要な資源がもっとも集中している。「日本文化」だけではなく、人文科学と社会科学の融合を目指した日本研究の拠点が必要である。これは多方面の提携協力が必要であるが、既存の研究環境の活用から着手することが重要であろう。

 

第三は、情報の共有を目指すことである。「アジア歴史資料センター」という試みは、世界の日本研究に大きな貢献をしている。歴史資料だけではなく、今まで蓄積された日本の「日本研究」の成果を、多言語に翻訳し、多様な型式で発信する事業も重要であろう。

 

第四は、アジアにおける日本研究ネットワークの構築である。各国には日本研究の組織が多数存在するものの、国際的な連携を図る仕掛けは存在しない。ネットワークと共同研究の場の形成に向けて、日本はハブ機能とリーダーシップを発揮しなければならない。

 

<劉 傑(りゅう けつ)Liu Jie>

早稲田大学社会科学総合学術院教授、博士(文学)。専門は近代日本政治外交史、近代日中関係史、現代日中関係論。北京外国語大学を経て、1982年に来日。1993年東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。1996年4月より早稲田大学社会科学部に勤務。コロンビア大学客員研究員、朝日新聞アジアネットワーク客員研究員などを歴任。著書に『日中戦争下の外交』(吉川弘文館、1995年)、『中国人の歴史観』(文藝春秋 文春新書、1999年)、『漢奸裁判―対日協力者を襲った運命』(中央公論新社 中公新書、2000年)、共著に『国境を越える歴史認識』(東京大学出版会、2006年)、『新華僑老華僑』(文春新書、2008年)、『1945年の歴史認識』(東京大学出版会、2009年)など。

 

*本文は、2015年7月18日に開催する第49回SGRAフォーラム「日本研究の新しいパラダイムを求めて」の問題提起として書かれたものを著者のご同意を得て、SGRAかわらばんで配信します。

 

 

 

【2】第49回SGRAフォーラムへのお誘い(当日参加も歓迎!)

 

下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォーラムはどなたにも参加していただけますので、ご関心のある方をお誘いください。

 

テーマ:「日本研究の新しいパラダイムを求めて」

 

日時:2015年7月18日(土)午前9時30分~午後5時

 

会場:早稲田大学大隈会館 (N棟2階 201、202号室)

http://www.waseda.jp/somu-d2/kaigishitsu/#link7

 

参加費:無料

使用言語:日本語

お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局  [email protected]

 

◇フォーラムの趣旨

 

渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)は、2014年8月にインドネシア・バリ島で開催した第2回アジア未来会議において、円卓会議「これからの日本研究:学術共同体の夢に向かって」を開催した。この円卓会議に参加したアジア各国の日本研究者、特にこれまで「日本研究」の中心的役割を担ってきた東アジアの研究者から「日本研究」の衰退と研究環境の悪化を危惧する報告が相次いだ。

 

こうした状況の外的要因として、アジア・世界における日本の国際プレゼンスの低下と、近隣諸国との政治外交関係の悪化が指摘されている。一方では東アジアの日本研究が日本語研究からスタートし、日本語や日本文学・歴史の研究が「日本研究」の主流となってきたことにより、現代の要請に見合った学際的・統合的な「日本研究」の基盤が創成されていないこと、また各国で日本研究に関する学会が乱立し、国内のみならず国際的な連携を図りづらいこと、などが内的要因として指摘されている。

 

今回のフォーラムでは、下記の4つのテーマを柱とした議論を行い、東アジアの「日本研究」の現状を検討するとともに「日本研究の新しいパラダイム」を切り開く契機としたい。

 

1.東アジアの「日本研究」の現状と課題、問題点などの考察

2.アジアで共有できる「公共知」としての「日本研究」の位置づけ及び「アジア研究」の枠組みの中での再構築

3.「アジアの公共知としての日本研究」を創成するための基盤づくりと知の共有のための基盤づくり、国際研究ネットワーク/情報インフラの整備等の構想

4.日本の研究者、学識者との連携と日本の関係諸機関の協力と支援の重要性

 

詳細は下記リンクをご覧ください。

http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3144/

 

 

 

【3】新刊紹介

 

SGRA研究員で執筆者のひとりのフェルディナント・マキトさんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

 

◆「東アジア経済と労働移動」

 

[編著]トラン・ヴァン・トウ/松本邦愛/ド・マン・ホーン

 

東アジアで国際間労働移動が活発化している。しかし,その実態を把握した研究は少なく,ましてや国内の労働移動との関係を分析した研究はない。本書は日本,韓国,台湾から中国,タイ,マレーシア,インドネシア,フィリピン,ベトナム,ミャンマー等,国内と国際間の労働移動,送出国と受入国の実態を分析し,持続的発展の為の政策提言を行う。

 

A5判並製 278頁 C3033

ISBN 978-4-8309-4867-1(4-8309-4867-1)

定価 3240円(本体 3000+税)

発行所 文真堂

発行日 2015年6月発行

 

http://www.bunshin-do.co.jp/catalogue/book4867.html

 

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○ SGRAカレンダー

◇第49回SGRAフォーラム

「日本研究の新しいパラダイムを求めて」

(2015年7月18日東京)<参加者募集中>

http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3144/

◇第8回SGRAカフェ

「ジェンダーについて考える必要性(仮)」

(2015年10月24日東京)<ご予定ください>

◇第50回SGRAフォーラム

「アジアに青空を取り戻そう―女性が社会を変える(仮)」

(2015年11月14日北九州市)<ご予定ください>

◇第9回SGRAチャイナフォーラム

「日中200年―支え合う近代(仮)」

(2015年11月21日北京)<ご予定ください>

★☆★第3回アジア未来会議「環境と共生」

(2016年9月29日~10月3日、北九州市)<論文(要旨)募集中>

http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/

奨学金・優秀論文賞の対象となる論文(要旨)の投稿締め切りは2015年8月31日です。

一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。

☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

 

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http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11

 

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