SGRAメールマガジン バックナンバー
Isabel Fassbender “What is HOME?”
2018年5月31日 14:39:52
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SGRAかわらばん726号(2018年5月31日)
【1】エッセイ:イザベル・ファスベンダー「『ホーム』とは何か?」
【2】SGRAレポート紹介:「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
─蒙古襲来と13 世紀モンゴル帝国のグローバル化」
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【1】SGRAエッセイ#570(私の日本留学シリーズ#21)
◆イザベル・ファスベンダー「『ホーム』とは何か?」
実は、このエッセイで何を書けばいいのか長い間想い悩んでしまって、言葉がまったく浮かんでこなかったので〆切をかなり押してしまった・・・。何となく、今までの、自分の日本での経験について書きたいと思い始めて筆をとった。決して難しいテーマではないはずだけれど、自分の今までの日本での経験を、なぜか、なかなか言葉にできない。このエッセイを10回ぐらい書こうとしても紙の白さに変わりはないのはなぜ?
私が日本にいるということ自体が、「留学」という範囲を大幅に越えてしまった気がする。日本とは私にとって一体何だろうか?と思ってしまう。日本における経験について再考察することは自分の「ホーム」はどこにあるのか?という自分のアイデンティティを考える、とても難しい問いにぶつかる。だから簡単に言葉にならなかったのではないかと今更ながらに気付いた。
日本に「ゲスト」として滞在するという新鮮な気分はもう全くない。そして、出身地であるドイツに一時帰国する際には、毎回カウンター・カルチャーショックが大きく、自分はもうその土地の人間ではない、母語にすら自信がないという不思議な気分になる。友達と話すときに急に日本語になったり、スーパーのレジでお辞儀をして変な目で見られたり。20年間あの街に住んでいたのに、自分が宇宙人であるかのような疎外感を感じる。他方、日本でも宇宙人であることに変わりはない。外見で判断され「外の人」として見なされるから、「ホーム」と言い切れるワケでもない。そして、昔から私の心の「ホーム」である母、姉、そして友人はここにはいない。でも、私の存在そのものを支えてくれる新たな心の拠り所、「ホーム」の全てである私が選んだ夫と子ども、そして新しくできた大事な友人達はいまもここで、傍にいる。
日本にも私には大切な家族がいて、何もそこまで複雑ではないはずなのに、なぜか、この白い紙を覗き、ハラハラしながら私の「ホーム」は一体どこにあるのか、「ホーム」というのは何か?ということを考えてしまう。
高校を卒業して、早くあの小さなつまらない街から出たかった。12歳ぐらいからその瞬間を待っていた。卒業後、まず5週間オーストラリアに旅に出てから、その後にジュネーヴに行って、1年間、高校で一生懸命に学んできた大好きなフランス語を勉強しながら、住み込みでベビーシッターをして2人の子どもの面倒をみた。そこで知り合った日本人女性のおかげで日本語に興味を持ち始めて、ベルリンで日本学を勉強することを決めた。大好きになっていたスイスが恋しくて、1年半後にチューリッヒに移住。その後、大阪へ留学し、またチューリッヒにもどって、転々としていた。定住しないことがとても気持ちよかった。そして2011年にチューリッヒ大学の日本学部を卒業した後、2回目の留学に旅立った。1年半後に又チューリッヒに戻り、修士号を取得するつもりでいたけれど、しかし、運命の歯車は別の方向に回ることになる。当初の予定とは異なり、正式に東京外国語大学大学院の修士課程に進学することになったのだ。その時に、今の夫に出会って、知らないうちにますます、日本は留学地ではなくなり、定住地になってきた。
2011年に旅立った時には予想だにしなかった決定的な出来事は、もちろん子どもができたこと。2016年7月に京都の小さな助産院にて最愛の「渚」が産まれた。私は20年間ずっとドイツにいたにもかかわらず、この子にドイツ語の名前を与えることは考えもしなかった。私たちのとても自然な物語の中で「渚」という名前がおりてきたのだ。
その渚ももうすぐ2歳になり、まさに幼児(Infancy)から抜け出して言葉を修得しようとする最中である。毎日、その過程を観察するのは、面白くて仕方がない。自分の子どもがドイツ語より日本語を母語にしているということは、とても不思議な感じがするが、違和感はない。そう考えると、どう考えても「留学」など卒業してしまっている。嬉しい反面、懐かしい気持ちにもなる。でも実は、今後どこに行くか、どこに住むか、どこが「ホーム」になりうるか、不安にもなるけれど、将来まだまだ様々な形での「留学」が待っているかもしれないと思うと、日本に「留学」しに来た時のあのワクワク感がどこからか改めて湧いてくる。結局人生のすべてが「留学」であるはず。知らない土地に行って、知らないことを学ぶという態度は一生忘れたくない。その気持ち自体が「ホーム」であるかもしれない。未知の輝きに満ちた瞳をもつこの可能性の塊を寝かしつけながら、ひしひしと私はそう感じ、想うのである。
<イザベル・ファスベンダー☆Fassbender,_Isabel>
渥美国際交流財団2017年度奨学生。ランツフート(ドイツ)出身。2011年チューリッヒ大学(スイス)日本研究科卒業。2014年東京外国語大学大学院総合国際学研究科地域国際専攻にて修士号取得。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程国際社会専攻に在籍、博士論文を執筆中。2018年4月から京都外国語大学と同志社大学にて非常勤講師としてドイツ語と日本社会について教えている。専門は家族社会学、ジェンダー論。
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【2】SGRAレポート紹介
SGRAレポート第82号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。冊子本は6月中旬にSGRA賛助会員と特別会員の皆様にお送りします。その他でも送付ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください
◆レポート第82号「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性─蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」(第57回SGRAフォーラム講演録)
レポート第82号「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性─蒙古襲来と13 世紀モンゴル帝国のグローバル化」
<フォーラムの趣旨>
東アジアにおいては「歴史和解」の問題は依然大きな課題として残されている。講和条約や共同声明によって国家間の和解が法的に成立しても、国民レベルの和解が進まないため、真の国家間の和解は覚束ない。歴史家は歴史和解にどのような貢献ができるのだろうか。
渥美国際交流財団は2015年7月に第49回SGRA(関口グローバル研究会)フォーラムを開催し、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論した。そのなかで、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認した。このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月のアジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」であった。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探った。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授/跡見学園女子大学教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授/韓国国史編纂委員長)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討した。
第2回対話は自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定した。13世紀前半の「蒙古襲来」を各国の「国史」の中で議論する場合、日本では日本文化の独立の視点が強調され、中国では蒙古(元朝)を「自国史」と見なしながら、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外部で起こった出来事として扱われる。しかし、東アジア全体の視野で見れば、蒙元の高麗・日本の侵略は、文化的には各国の自我意識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴する出来事であった。「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待される。
もちろん、本会議は立場によってさまざまな歴史があることを確認することが目的であり、「対話」によって何等かの合意を得ることが目的ではない。
なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつけた。
<もくじ>
◆開会セッション[司会:李恩民(桜美林大学)]
【基調講演】葛兆光(復旦大学)
「『ポストモンゴル時代』?─14~15世紀の東アジア史を見直す」
◆第1セッション[座長:村和明(三井文庫)、彭浩(大阪市立大学)]
【発表論文1】四日市康博(昭和女子大学)
「モンゴル・インパクトの一環としての『モンゴル襲来』」
【発表論文2】チョグト(内蒙古大学)
「アミール・アルグンと彼がホラーサーンなどの地域において行った2回の人口調査について」
【発表論文3】橋本雄(北海道大学)
「蒙古襲来絵詞を読みとく─二つの奥書の検討を中心に」
◆第2セッション[座長:徐静波(復旦大学)、ナヒヤ(内蒙古大学)]
【発表論文4】エルデニバートル(内蒙古大学)
「モンゴル帝国時代のモンゴル人の命名習慣に関する一考察」
【発表論文5】向正樹(同志社大学)
「モンゴル帝国と火薬兵器─明治と現代の『元寇』イメージ」
【発表論文6】孫衛国(南開大学)
「朝鮮王朝が編纂した高麗史書にみえる元の日本侵攻に関する叙述」
◆第3セッション[座長:韓承勲(高麗大学)、金キョンテ(高麗大学)]
【発表論文7】金甫桄(嘉泉大学)
「日本遠征をめぐる高麗忠烈王の政治的意図」
【発表論文8】李命美(ソウル大学)
「対蒙戦争・講和の過程と高麗の政権を取り巻く環境の変化」
【発表論文9】ツェレンドルジ(モンゴル国科学院歴史研究所)
「北元と高麗との関係に関する考察─?王時代の関係を中心に」
◆第4セッション[座長:金範洙(東京学芸大学)、李恩民(桜美林大学)]
【発表論文10】趙阮(漢陽大学)
「モンゴル帝国の飲食文化の高麗流入と変化」
【発表論文11】張佳(復旦大学)
「『深簷胡帽』考─蒙元時代における女真族の帽子の盛衰史」
◆全体討議セッション
司会/まとめ:劉傑(早稲田大学)
論点整理/趙珖(韓国国史編纂委員会)
総括/三谷博(跡見学園女子大学)
◆あとがきにかえて
金キョンテ(高麗大学)、三谷博、孫軍悦(東京大学)、ナヒヤ(内蒙古大学)、彭浩(大阪市立大学)
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★☆★SGRAカレンダー
◇第7回SGRAふくしまスタディツアー(2018年5月25日~27日、飯舘村)
「『ふるさと』に帰る…」<無事終了>
◇第8回日台アジア未来フォーラム(2018年5月25日~26日、台北市)
「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」<無事終了>
第8回日台アジア未来フォーラム・東呉大学マンガ・アニメ文化国際シンポジウム「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」へのお誘い
◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
論文募集は終了しました。<オブザーバー参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。
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