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[SGRA_Kawaraban] Li Kotetsu “Is Japan-China Relation Really the Worst?”

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SGRAかわらばん548号(2014年12月17日)

【1】エッセイ:李 鋼哲「日中関係は本当に最悪なのか」

【2】特別寄稿:奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その7)」

【3】第6回SGRAカフェへのお誘い(最終案内)
  「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(12月20日東京)
  ☆当日飛び込み参加も受け付けます☆
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【1】SGRAエッセイ#442

■ 李 鋼哲「日中関係は本当に最悪なのか?」

金沢市内のホテルで、去る12月7日(日)に標記のテーマでシンポジウムが開かれた。
24年前に設立された環日本海国際学術交流協会が主催したものである。2年以上途絶
えた日中首脳会談で日中関係が「最悪」という世論に日本国民が当惑するなか、実態
の日中関係はそこまで悪くないというメッセージを市民に発信する試みであった。10
月に私がこの協会の理事として提案し開催にこぎつけた。経済貿易、環境協力、人的
交流の3つの分野から日中両国間の実情について報告し、活発な議論が交わされた。

幸い、11月10日に安倍晋三首相が北京で開催されたAPEC首脳会議へ参加したことを
きっかけに、中国の習近平主席との2年半ぶりの首脳会談が実現し、凍り付いていた
首脳外交が再開された。そのお陰でこのシンポジウムが意図した趣旨と内容が市民に
受け入れやすい雰囲気になったように見受けられた。

それに先立ち、11月7日に筆者はNHK国際放送局の電話インタビューを受けた。今度北
京でのAPEC首脳会議の際に日中首脳会談が実現するか、そして首脳会談ではどのよう
な事が議論されるか、という問題に3分間中国語で答えた。実は数日前からNHKの要望
で発言を準備していたのだが、日中首脳会談が実現されるかどうかは予測できない状
況であった。それでも日中両国がおかれている現状や国際情勢を分析し、大胆に発言
することを決めた。インタビュー収録が放送される予定は午後6:00〜6:15時だった
が、幸いなことに、その数分前に日中首脳会談が決まったというニュースがラジオで
流れた。ある意味ではラッキーだった。

その発言要旨を簡略に紹介する。

今度、日中首脳会談が実現される可能性は大きいと思います。最近の動静を見ると、
APEC首脳会合を成功裏に開催することにより、中国の存在感を世界にアピールするこ
とを目標に、中国政府は積極的な準備を進めているように見受けられます。

中国にとっては、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加できない現状を考え
ると、APEC機能強化やアジア太平洋自由貿易構想(FTAAP)を強く訴えることが、こ
の地域における米国との駆け引きの重要なポイントだと、私は考えています。しか
し、米国と競争するためにも日中関係が硬直したままでは、中国にとって不利になる
ことは明らかです。福田元首相が最近訪中した際にも習近平国家主席と会談しました
が、そのときに習氏の発言では、アジア地域協力が重要であることを強調しているの
です。アジア地域協力において、中国側にとって最も役立つ国は日本にほかなりませ
ん。

一方、日中間では歴史認識問題や領土問題がネックであり、打開される見込みは立っ
ていませんが、両国の領土問題の議論も山場を超えて、冷静に議論する段階に入りつ
つあり、歴史認識問題でも安倍首相が今年8月15日に靖国神社参拝を見送ったこと
で、中国などに一歩譲歩したと中国政府は判断しているでしょう。

以上の状況から見ると、中国首脳が日本首脳と会談することで中国国内世論に強く反
対される可能性は低くなりました。最近、中国国務院政策研究室の局長などが20日間
ほど日本全国を視察し、帰国後の報告書「日中両国の発展格差を深刻に認識すべき」
という長編論文を「人民論壇」で発表し、日本は先進的な文明国であり、中国はまだ
まだ日本に勉強することがたくさんあると強く訴えました。これも日中政治対話のた
めの世論形成の一つだと見受けられます。

以上は、インタビューの概要だが、本題に戻って「日中関係は本当に最悪なのか?」
について、シンポジウムでの報告内容を簡潔に取り上げる。

その前に、日本国民は日中関係についてどのように感じているのかについて紹介しよ
う。内閣府が11月23日に発表した「外交に関する世論調査」で、中国に「親しみを感
じない」と回答した人が80.7%(前年比0.1ポイント増)となり、昭和53(1978)年の調
査開始以来、過去最高となったことが分かった。韓国への親近感も低く、日本と両国
との最近の関係冷え込みを反映した結果となった。日中関係について「良好だと思わ
ない」は91.0%だった。中国で反日デモが相次いだ昨年の調査(92.8%)に次ぐ過去2
番目の高さだった。

このようなデーターが発表されると、その影響で日本国民の対中国感情はさらに悪化
するのではないかと危惧する。世論が世論を呼び、実態とはかけ離れた対中国観が日
本で蔓延しているのである。また、中国での世論調査結果を見ても日本と似たような
情況にある。

一方で、今年の中国人の日本観光客は過去最高(1-10月で200万人を突破)を記録し
ていると報道されている。日本にとって最大の貿易依存度の国は紛れもなく中国であ
る。日本企業の対中国投資が今年減少したと言っても、2万3千社の日系企業が中国市
場でビジネスを展開しているし、撤退する企業はわずかである。また、日系企業で働
く中国人従業員は1千万人を超えている。日中関係が「最悪」という状況と、実際の
関係がここまで相互浸透している実態をどのように見るべきか。

私のシンポジウムでの発言趣旨を紹介する。

21世紀に入ったここ十数年間、日中韓関係は摩擦が漸増してきた。これは、戦後の枠
組みを変える大きな転換期に入っていることを示す。戦後長く維持されてきた「特殊
な関係」としての日中関係、日韓関係は、21世紀における脱戦後的な「普通の関係」
に転換しつつある。

日中関係の構造転換の全体的な原因は、小泉政権時の東アジア外交に示されている日
本の政治システムの転換、中国の経済力や軍事力の急成長、日米同盟の強化、日中摩
擦の激化、などである。日中関係をめぐる国際環境が変わり、また日本と中国の位置
づけと立場が変わり(GDPで見た国力の逆転)、両国の摩擦度が「友好協力」の要素
を超えたからである。かつての「友好協力」の背景は、世界第2の先進国になって心
に余裕がある「強い日本」と、改革・開放政策で経済発展が至上命題で、そしてその
ために謙虚に日本の先進的な技術と経験に学びたい「弱い中国」であった。

しかし、そのような立場が逆転したのである。「失われた20年」で「自信喪失の日
本」、急速な高度成長で着実に大国に浮上した「驕る中国」という構図になった。一
方では、このような立場の逆転に心の準備ができずに「アジアの盟主」という意識が
抜けない日本、他方では、大国の地位は回復したものの、まだ発展途上国の地位から
脱却できていない「驕り」と「弱者意識」または「被害者意識」が交錯する中国があ
る。これが日中両国の葛藤が生じやすい「不可避な歴史的な過渡期」としての現実だ
と筆者は考えている。

しかしながら、現代の国家間関係を判断する上で、古典的な外交関係の思考から「新
思考」に頭を切り換えないと我々は思考停止に陥ってしまう。21世紀における経済の
グローバル化の深化に伴い、国境の壁が低くなり、国家間の関係および外交は、古典
的な政府中心の「一元的外交」から、現代的な政府、財界、地方自治体、NGO(NPO)な
ど民間も含めた「多元的外交」時代に転換しつつある現実をしっかり把握しなければ
ならない。

従って、国家間の関係を判断する上で、視点またはパラダイムを転換しなくてはなら
ない。つまり、政府間関係、あるいは首脳間関係だけに着目して国家間関係の全体を
判断するのは時代錯誤にほかならない。

日中関係を見る上でも同様であり、首脳間関係、政府間関係、そして経済・文化・人
的な交流関係(企業、自治体、NGO)など総合的な視点が不可欠である。そのような
視点で見た日中交流関係の実体については次の機会に報告する。

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<李 鋼哲(り・こうてつ)Li Kotetsu>
1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修
了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研
究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ
国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書
に『東アジア共同体に向けて——新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、そ
の他論文やコラム多数。
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【2】特別寄稿

SGRAエッセイ#442

■ 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その7)」

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SGRAでは、会員の奇錦峰さんのエッセイ「中国の大学の現状」を2007年にかわらばん
で配信し、「われら地球市民」(ジャパンブック、2010年)に収録しましたが、2014
年8月にバリ島で開催した第2回アジア未来会議でさらなる報告がありましたので、数
回に分けてご紹介しています。
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3. 多くの大学中の変な雰囲気

3.1 2種類の「無駄論」

次に大学の中身を覗いて見ましょう。近年、中国各地の大学が「研究型大学を建設し
よう」という目標を掲げ、「研究を大事に、教育を軽く」という教員評価をするよう
になったために、皆「研究、開発、論文」などに全力を尽し、直接的な学生教育を軽
視するのが一般的な現象となっている。教官たちは本業(講義)に興味が薄く、地位
の高い教員ほど教壇に立たない。若い教師たちを代わり教壇に立たせ、教授は、研究
指導の名目で後ろでブラブラしたり、行政的仕事、及びエンドレスな会議で時間を費
やしたりしていることが意外に多いようだ。

政府の教育管理部門は「教育の質量を保つためには、まず数量を保証しよう」という
政策を示したから、人々はこの政策を「大学の本科教育の高校化、修士教育の大学
化、博士教育の修士化」していると冗談の種にしている。学術研究の不正行為や汚
職、講義や監督の担い手の疲労、教授の教育前線からの脱走の黙認、カリキュラム時
間の大幅な短縮等々……大学教育が崩れ去っていると言わざるを得ない状況である。
一方、「勉強は無駄(勉強無用/読書無用)」という愚かな言い方が、最近再び氾濫
し始めたように思う。最近は「知識の単価」が上がり、貧しい人にとって、教育費用
を支払うことがかなり困難になったことと、大学レベルの教育を受けても仕事が見つ
からないこと等々の理由から、この「無駄論」が出て来たと思われる。教育の公平性
は、社会の公平の基礎で、教育が公平でなければ社会正義を達成することは出来ない
であろう。貧しい家庭の子供たちが貧困のために教育を受けられなくなると、最終的
には、社会は対立的な利益獲得階級と利益臨界階級とに分かれる可能性があると思
う。

他方、大学のキャンパスの中では、近年また「教え無用/教書無用」という思想が流
行ってきている(もう一種の「無駄論」)。その意味は、大学で教育しても(個人に
対して)何の役も立たない、それより研究ファンドを申請して採択されれば偉くな
る、或いはSCI論文をたくさん書けば、その本人に非常に役立つという考えで、それ
らを支持する体制になってしまっている。これでは、大学では講義をするのが最も意
味のない、もしくはやるべきではない仕事として見られるようになってしまった。

その故、数多くの大学の教員が講義に行きたくない、講義に行っても責任を持って行
わない、質の高い講義をしない。そして、「研究」という名目で、一生懸命に実験室
の外で活動する。例えば研究ファンドの申請が許可されるように誰かに賄賂などをす
るとか(しなければ、申請は無理と皆に知られている)、人間関係、人筋、人脈など
のために、時間と金銭を費やしていると言われている。

正直に言えば、今の大学の教員の大半は自分のことばかりに「忙しくて」大学生に近
付かない、いわば大学生に人間的なケアを与える暇がない。彼らは「研究リッチ」、
「IF点数」の深い沼に落ちてしまい、「教育」にほとんど気が入らない。このような
状況だから、今日のおかしな大学生を養成した責任の一端は、大学の教員にもあると
言わざるを得ない。結局、大学生が大学教育問題の最大の犠牲者であり、大学の教育
機能が無用化されていると言える。

つづきは下記リンクよりお読みください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/post_521.php

【4】第6回SGRAカフェへのお誘い(最終)☆当日飛び込み参加も受け付けます☆

■「アラブ/イスラームをもっと知ろう:シリア、スーダン、そしてイスラーム国」

SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まり
いただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、
「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、シリア出身のダル
ウィッシュ ホサムさんと、スーダン出身のアブディン モハメド オマルさんを囲ん
で座談会を開催します。

参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛て、お名前・ご所属と連絡先をお知らせくだ
さい。
[email protected]

日時:2014 年12月20日(土)14時〜17時
会場:鹿島新館/渥美財団ホール(東京都文京区関口3-5-8)
http://www.aisf.or.jp/jp/map.php
会費:無料

詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php

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● SGRAカレンダー
【1】第6回SGRAカフェ<参加者募集中>
「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(2014年12月20日東京)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php
【2】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム
「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」
(2015年2月7日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php

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