SGRAメールマガジン バックナンバー

[SGRA_Kawaraban] Kobayashi “The Sea of Living”

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SGRAかわらばん506号(2014年2月12日)

【1】エッセイ:小林聡明「尖閣海域を再び『生活の海』にするために」

【2】新刊紹介:オリガ・ホメンコ「ウクライナから愛をこめて」
  〜SGRAかわらばんのエッセイが本になりました〜

【3】第13回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内)
 「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」(2月15日ソウル)
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☆★☆日中韓の政治状況、最近は社会状況まで、とても厳しく、時には暴力的でさえ
あります。ここで語り合う<場>を作るのが、良き地球市民の実現をめざすSGRAの役
割りであると考え、SGRAかわらばんでは読者の皆様のエッセイを募集します。皆様の
自由闊達なご意見をお待ちしています。
・2000字程度(短くてもかまいません)
・匿名希望の方はその旨お書きください。
・送付先:[email protected]

【1】SGRAエッセイ#398

■小林聡明「尖閣海域を再び「生活の海」にするために−沖縄と向きあう」

今、東アジアがきな臭い。その一つが、尖閣諸島をめぐる領有権問題であることには
言を俟たない。2012年9月、野田政権は尖閣諸島を構成する魚釣島、南小島、北小島
の国有化方針を固めた。これら3島は、1932年まで日本政府が所有し、その後、民間
人に払い下げられた。「尖閣国有化」は、ふたたび民間から政府へと所有権を移転さ
せるものであった。だが、中国は、現状変更を目的とする「領土化」とみなし、激し
く反発した。以後、日中関係は急速に冷却化し、日中国交正常化以来、最悪の状態に
陥っている。現在、日中双方は、尖閣の領有権をめぐって、激しい神経戦/宣伝戦を
繰り広げると同時に、海上では、日中のにらみ合いが続いている。尖閣海域は、物理
的な衝突可能性も孕んだ緊張の海となっている。

元来、尖閣の海は、海洋資源の豊かな平和な海であった。1960年代まで、尖閣海域で
は、沖縄・八重山の漁民や台湾・宜蘭県蘇澳の漁民たちによるマグロやカツオ漁など
が行われ、両漁民の交流も盛んに行われていた。また、彼らは魚釣島などで、アホウ
ドリの卵や羽毛を採取していた。尖閣海域は、緊張の海とはほど遠い沖縄・台湾漁民
たちにとって生活の海となっていたのである。

1960年代末、ECAFE(アジア極東経済委員会)が尖閣周辺海域における石油埋蔵の可
能性を明らかにするや、尖閣の海は、にわかに波立つことになる。1970年12月、中国
は、新華社通信を通じて、尖閣諸島に対する領有権を対外的に初めて主張した。これ
に続いて1971年6月、台湾外交部も尖閣諸島の領有権を公式に主張した。それまで地
元の人々だけが関心をむけていた「生活の海」は、一転して、国家がせめぎ合う「対
立の海」へと変化した。重要なことは、ECAFEの報告が、尖閣諸島に対して、中国や
台湾だけでなく、日本の関心も呼び起こしたことである。折しも沖縄の本土復帰が確
実となり、尖閣諸島に対する日本本土の関心は益々高まっていった。そこには、沖縄
と日本本土との経済一体化を基本的前提とする「沖縄開発計画」の推進が目標として
たたみ込まれていた。1950年から沖縄の研究者らを中心として、尖閣諸島の生物学・
植物学的調査がたびたび実施されていた。沖縄の研究者らによる尖閣調査に、本土側
が参加するようになったことは、尖閣諸島に対する本土の関心の高まりを如実に示し
ていた。

ECAFE報告に加え、沖縄と日本本土との「合同」の尖閣調査が実施された1969年から
70年にかけて、沖縄では、「尖閣列島の石油資源は沖縄のもの」「県民の資源を守ろ
う」という声が日増しに強まっていった。そこには領有権を主張する中国や台湾だけ
でなく、本土側に対する警戒感も含まれていた。「沖縄開発計画」の名の下に、尖閣
海域の石油資源が、沖縄には利益をもたらさず、本土側の利益にされてしまうのでは
ないかという不安と懸念が、沖縄で広がっていた。尖閣問題の登場は、日本・中国・
台湾の間での緊張関係だけでなく、沖縄から日本本土への不信感も呼び起こした。

こうした不信感は、いまや完全に一掃されたと言えるだろうか。2013年4月に締結さ
れた日台漁業協定は、尖閣問題を打開する一つの方法であった。だが、それは事実
上、沖縄漁民に大幅な譲歩を迫るものであった。にもかかわらず、沖縄の頭越しに東
京と台北で交渉がまとめらたことに、沖縄市民の間では不満が渦巻いている。本土へ
の不信感は、普天間移設や辺野古移転などの基地問題などにおいても、しばしば姿を
あらわす。尖閣問題が浮上したときに見られた沖縄から本土への不信感は、形を変え
ながら、重奏低音のように、現在も継続しているように思われる。

こうした点を念頭に置くならば、「尖閣問題」を克服するためには、日中関係、日台
関係だけでなく、本土と沖縄との関係も考えていかなければならない。尖閣の海は、
いまはもう地元の人々が、近づくことすらできない世界でも有数の「危険な海」と
なってしまった。私は、本土の人間の一人として、尖閣を再び「生活の海」の海にす
るために、中国や台湾との対話をすすめるだけでなく、沖縄と向き合い、これまでの
数百年にわたる本土と沖縄との関係を考えることが、何よりも重要であると思ってい
る。

<小林聡明(こばやし・そうめい)☆ Somei Kobayashi>
一橋大学社会学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会
学)。ソウル大学や米シンクタンクなどで研究を行ったのち、現在、慶煕大学哲学科
International Scholar. 専攻は、東アジア冷戦史/メディア史、朝鮮半島地域研
究。単著に『在日朝鮮人のメディア空間』、主な共著に『原子力と冷戦』『日米同盟
論』などがある。日本マス・コミュニケーション学会優秀論文賞(2010年)。

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【2】新刊紹介

オリガ・ホメンコさんがSGRAかわらばんに投稿したエッセイを中心に纏めた本をご寄
贈いただきましたのでご紹介します。挿絵も自作のかわいい本です。

http://gunzosha.com/books/ISBN4-903619-44-6.html

ウクライナの首都キエフに生まれ、
チェルノブイリ原発事故の記憶が
深く心に刻まれた子供時代をすごし、
日本の大学で学んだ女性がいま、
忘れられない人々の思い出と故郷の街の魅力を
日本語でつづったエッセイ。
ひまわりの国と桜の国を結ぶ言葉の架け橋。

著者: オリガ・ホメンコ
ISBN978-4-903619-44-6 C0098
出版年:2014年1月
発行:群像社
定価:1200円

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【3】第13回日韓アジア未来フォーラムinソウルへのお誘い(最終案内)

下記の通り第13回日韓アジア未来フォーラムをソウルで開催します。参加ご希望の方
は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォー
ラムはどなたにでも参加していただけますので、関心のある方にお知らせください。

■テーマ「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア地域協力」

日時:2014年2月15日(土)午後2 時00分〜5時00分

会場: 高麗大学現代自動車経営館301号

申込み・問合せ:SGRA事務局

● フォーラムの趣旨

「課題先進国」日本、そして「葛藤の先進国」とも言われる韓国が今までに経験して
きた課題と対策のノウハウを東アジア地域に展開しようとするとき、どのような分野
が考えられるだろうか。日本は、地震をはじめ自然災害への対策、鉄道システム、経
済発展と環境負荷軽減及び省ネルギーの両立、少子高齢化への対処など、多くの分野
において関連する経験や技術の蓄積、優位性を有している。さらに、日本以上の課題
先進国となった韓国の経験や後遺症も、東アジア地域におけるこれからの発展や地域
協力の在り方に貴重な手掛かりを提供している。本フォーラムでは、日本と韓国の経
験やノウハウを生かした社会インフラシステムを、東アジア地域及び他国へ展開する
場合、何をどのように展開できるか、そして、それが東アジアにおける地域協力、平
和と繁栄においてもつ意義は何なのかについて考えてみたい。

● プログラム
詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/13.php

【基調講演】染野憲治(東京財団研究員)
「北東アジアの気候変動対策と大気汚染防止に向けて」

【報告1】朴 栄濬(韓国国防大学校安全保障大学院教授)
「北極海の開放と韓日中の海洋協力展望」

【報告2】李 鋼哲(北陸大学未来創造学部教授)
「北東アジアの多国間地域開発と物流拠点としての図們江地域開発」

【報告3】李 元徳(国民大学国際学部教授)
「ポスト成長時代における日韓の課題と日韓協力の新しいパラダイム」

【討論】 報告者+討論者
木宮正史(東京大学大学院総合文化研究科教授)
安秉民(韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長)
内山清行(日本経済新聞ソウル支局長)
李奇泰(延世大学研究教授)
李恩民(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)
他数名

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● SGRAカレンダー
【1】第13回日韓アジア未来フォーラム(2014年2月15日ソウル)
「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア地域協力」<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/13.php
【2】第47回SGRAフォーラム(2014年5月31日東京)<ご予定ください>
「科学技術とリスク社会:福島原発事故から考える(仮)」
【3】第4回日台アジア未来フォーラム(2014年6月13日台北)<論文募集中>
「トランスナショナルな文化の伝播・交流:思想・文学・言語」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/4_1.php
【4】第2回アジア未来会議<論文・ポスター・展示作品募集>
「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/
★発表要旨追加募集中(締切:2014年2月28日)★

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のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読
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ださい。
● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務
局より著者へ転送いたします。
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http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2013/

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