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CHO Ahra “Some Thoughts about Critical Thinking”
2017年4月20日 14:06:09
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SGRAかわらばん669号(2017年4 月20日)
【1】SGRAエッセイ:チョ・アラ「批判的思考について」
【2】第7回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(5月20日、台北市)
「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
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【1】SGRAエッセイ#530
◆チョ・アラ「批判的思考について」
韓国の教育制度の問題と言えば、多くの韓国人は「注入式教育(詰め込み教育)」を思い浮かべるでしょう。その注入式教育の弊害は、批判的思考が難しくなることです。批判的思考のためには、ある情報を得た時そのまま信じ込まずに、その情報が本当に正しいかどうかを自分で確かめようとする「努力と時間」が必要です。しかし、今のように情報が溢れる時代には、批判的思考によってある情報が事実なのかどうかを判断することが容易ではありません。
この数か月、政治的、社会的に大きな衝撃を与えた朴槿恵元大統領と親友のスキャンダルで、韓国は毎日大騒ぎでした。連日驚きの事実が明らかになったため、私はネットで韓国ニュースメディアの報道と、この事件を報じる日本のメディアの様子を観察してみました。特に残念に思ったのは、韓国で既に明らかになっている事実関係を十分に把握していないまま、恣意的な解釈をする専門家やコメンテーターが少なくなかったことです。その解釈を受け、一部のパネリストたちと番組の司会者はまた事実とは程遠いコメントをします。例えば、朴氏の罷免について、ニュース番組やワイドショーに出演したコメンテーターが「まだ具体的な証拠も出ていないし、大統領が自分の疑惑を否定していることを理由に、『憲法違反』との判決が下ることはおかしい」と発言するのを聞いたことがあります。
しかし、この発言は多数の韓国国民の認識とはかけ離れています。韓国の憲法裁判制度は一般の裁判とは違い、「憲法の精神に基づく責任」が問われる政治的な色彩が強い裁判です。法律に比べると憲法は曖昧なところが多いけれども、その分弾劾は国会の3分の2以上の賛成という厳しい条件を必要とします。朴氏が捜査を拒否する間、嫌疑を裏付ける証拠は毎日のようにメディアに報じられ、その一部の事実は検察と特別検察の公訴状にも記載されました。なお、弾劾に賛成する世論は昨年12月から今年の2月まで一貫して70~80%を維持したのですが、朴氏の弾劾には何回か危機がありました。それに憤りともどかしさを感じた国民が、冬の寒さの中で広場に集まって、20回以上の平和的な集会が開催されました。証拠のない世論裁判によって罷免されたのではありませんし、同情される理由もないというのが多数の国民の意見なのです。
言論NPOの世論調査によると、韓国についての情報源を問う質問に、日本のニュースメディアと答えた比率は2015年には94.3%、2016年には92.1%でした。新聞やテレビニュース、或いはワイドショーの視聴者が、事実と違う専門家の意見を批判的思考なしにそのまま受け入れてしまえば、視聴者の目に韓国は法の支配が崩壊した国、国民の感情に振り回される国、ややもすればデモをする国に映るでしょう。集団的自衛権の行使容認と安保法制の成立以降、「日本が軍国主義に戻ろうとする野心を示した」と主張する一部の韓国と中国の報道に、日本の国民が同意できないと感じるのと似ているかも知れません。
経済交流、人的交流、文化交流が進む中で、何故日韓関係はなかなか改善しないのか、そして日韓の国民のお互いに対する親近感は何故なかなか強くならないのか。不幸な過去の歴史から生まれたいろいろな問題がネガティブな相互認識を形成する根本的な原因ではありますが、これを拡大させる「今現在のメカニズム」もやはり存在しています。日本ではネットで韓国のニュース記事の日本語翻訳を見つけることができます。同じように、ユーチューブでは、ハングルで「朴槿恵 弾劾 反応」と検索してみると、朴氏の弾劾を報じる日本のニュース番組やワイドショーにハングルの字幕を入れてアップロードした動画がたくさん出てきます。日本のニュース記事の下にあるコメントや2chなどの利用者のコメントを丸ごと韓国語に翻訳して韓国のウェブサイトにアップするケースも少なくありません。
反対の場合も同じですが、日本の韓国専門家やコメンテーターが韓国の状況について不確かな情報、或いは事実関係が間違った情報を生産し、それが批判的思考のフィルタリングなしで日本の国内に発信されると、それが韓国語に翻訳され、その情報が速いスピードで韓国国内に拡散するという意味です。そうなると、韓国の人は「韓国のことを知らないくせに、とんでもない捏造をする」と日本の社会に対して強い不満を感じ、日本のことをそんな風に決めつけてしまう可能性もあります。
私は日本でこの状況を観察しながら、専門家の役割についてよく考えるようになりました。今のように情報が溢れている状況では、批判的に情報を受け入れることが大変難しくなります。そうなると、情報を受容する側が簡単で分かりやすい情報、或いは専門家が発信した情報に依存する可能性が高くなります。研究者なら皆そうだと思いますが、とりわけ他の国の政治や社会問題について研究し、その成果を発信する立場にある人なら、現在のメディアとネットの環境に格別に注意を払う必要があります。
韓国と日本は似ているようでも、日韓の社会の歴史的流れ、特に民主主義体制を作ってきた経験に違いがあります。この違いが、実は国民の認識と行動に大きな影響を及ぼしてきたと私はみています。それに加えて、現在のメディアとネット環境の中で、現状の断面だけを見て相手について早まった判断をしてしまえば、両国国民の相互認識はこれからもっと悪化すると思います。この理由から、研究者と専門家の責任、そして情報を受け入れる側である市民の批判的思考の能力も、以前よりも強く求められると考えています。
<チョ・アラ(曺娥羅)CHO Ahra>
渥美国際交流財団2016年度奨学生。韓国・国立ソウル大学国際大学院国際地域学専攻で修士号を取得後、同大学院博士課程在学中。研究のテーマは、日中関係及び東アジア国際関係というコンテクストの中での安全保障や海洋秩序の問題。現在は慶應義塾大学の准訪問研究員としてフィールドワークを行いながら、中国の海洋進出が日本の防衛政策に及ぼした影響について博士論文の執筆に取り組んでいる。
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【2】第7回日台アジア未来フォーラムへのお誘い
下記の通り第7回日台アジア未来フォーラムを台北市で開催します。参加ご希望の方は、下記リンクより参加登録をしてください。
テーマ:「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
主 催:国立台北大学法律学院、公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
開催日:2017年5月20日(土曜日) 08:50-18:00
会 場:国立台北大学台北キャンパス(台北市民生東路三段67号)
申込みURL: https://goo.gl/forms/sx49qWfIx3KpYeQ13
申込み締切:2017年5月13日(土)13時まで
お問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:[email protected]
●フォーラムの趣旨:
第7回日台アジア未来フォーラムは、法制史の観点から、東アジア諸国における憲法と民法に関する法制度の比較をテーマとする。法領域のなかから憲法と民法をピックアップした理由は、この2つの法律が我々の日常生活と緊密に関係する法であると共に、憲法は法領域のなかで最も位階の高い法律であると言われており、憲法以外の法が憲法の規定に違反するとその法は無効となる。市民の基本的な権利を始めとして国家組織のあり方まで、国家の最も重要な事項の原則はすべて憲法に定められるといっても過言ではない。また、民法は市民生活における市民相互の関係(財産関係と家族関係)を規定する法であり、民事法の領域の憲法とも言われる。すべての人間は、その一生において、必ず民法と関わることは言うまでもない。
今回のフォーラムでは日本、韓国、台湾の法学者をお招きし、憲法と民法からそれぞれ一つの重要な論点をピックアップして議論していただく予定である。2つのセクションを通じて、日本、韓国と台湾における民法ないし憲法の論点について、お互いの相違点を見出し、お互いに自らの国の法制度の改正に示唆を得ることができると期待する。
(基調講演1は英語。基調講演2と報告は日中逐次通訳)
趣旨の詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/04/2017Taiwan-Shushi.pdf
●プログラム
【基調講演1】「立憲主義ー過去、現在および未来」
コーヤン・タン教授(ハーバード大学法科学院)
〇第1セクション【憲法】「台湾・日本・韓国の国会制度」
【報告1】「日本国憲法上の国会の現状と課題」
佐々木弘通教授(日本東北大学法学部)
【報告2】「韓国の改憲論における国会変化」
孫亨燮教授(韓国慶星大学法政大学)
【報告3】「台湾における国会議員定数の考察ーアメリカ法からの示唆」
林超駿教授(国立台北大学法律学院)
【基調講演2】「理由あるいは詭弁ー判決における外国法の引用についての論争」
頼英照教授(元司法院院長)
〇第2セクション【民法】「台湾・日本・韓国の民商統一・分離」
【報告4】「韓国における民商・分離立法の現状と課題」
権澈准教授(韓国成均館大学法律系)
【報告5】「日本における民商法の関係」
中原太郎准教授(日本東北大学法学部)
【報告6】「台湾民法における民商二法統一制度への懸念」
向明恩准教授(国立台北大学法律学院)
プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/04/2017Taiwan-Program.pdf
●日台アジア未来フォーラムとは
日台アジア未来フォーラムは、台湾在住のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施している。過去のフォーラムは下記の通り。
第1回「国際日本学研究の最前線に向けて:流行・ことば・物語の力」
2011年5月27日 於:国立台湾大学文学院講堂
第2回「東アジア企業法制の現状とグローバル化の影響」
2012年5月19日 於:国立台湾大学法律学院霖澤館
第3回「近代日本政治思想の展開と東アジアのナショナリズム」
2013年5月31日 於:国立台湾大学法律学院霖澤館
第4回「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流―文学・思想・言語」
2014年6月13日~14日 於:国立台湾大学文学院講堂および元智大学
第5回「日本研究から見た日台交流120 年」
2015年5月8日 於:国立台湾大学文学院講堂
第6回「東アジアにおける知の交流―越境、記憶、共生―」
2016年5月21日 於:文藻外語大学至善楼
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★☆★SGRAカレンダー
◇第7回日台アジア未来フォーラム<参加者募集中>
「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
(2017年5月20日、台北市)
◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<ご予定ください>
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を2017年5月1日から受付けます。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。
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