SGRAメールマガジン バックナンバー
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KUSUDA Yuki “What is Napoleon’s Real Image?”
2025年3月27日 23:41:14
********************************************** SGRAかわらばん1056号(2025年3月27日) 【1】SGRAエッセイ#786:楠田悠貴「ナポレオンの実像とは?――映画<ナポレオン>を観て」 【2】寄贈本紹介:花井みわ『「辺境」の文化複合とその変容――東アジア文化圏を生きる中国朝鮮族』 【3】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い(4月12日、東京+オンライン)(再送) 「東アジア地域市民の対話:国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#786 ◆楠田悠貴「ナポレオンの実像とは?――映画<ナポレオン>を観て」 2023年末、ナポレオンの生涯を描いた映画が公開された。メガホンを取ったのは、古代ローマの剣闘士を描いた<グラディエーター>など、数々の名作を持つリドリー・スコット監督である。フランス革命史を専攻する私は、渥美国際交流財団の忘年会でこの映画についての好意的な感想を聞き、早速期待を寄せながら映画を観た。率直な感想としては、壮観な光景に圧倒されながらも、いくつかの点でどうしても違和感が拭えなかった。ナポレオンはマリ=アントワネットの処刑に立ち会っていない、ギザのピラミッドに向けて大砲を放っていないなど、歴史家たちは史実に反する点を多々批判しているが、私が最も気になったのは主演ホアキン・フェニックスの年齢である。 ナポレオンは1769年に生まれ、35歳の若さで皇帝になり51歳で死んだが、フェニックスは映画公開時点で49歳だった。映画冒頭のマリ=アントワネットの処刑やトゥロンの戦い(1793年)のシーンでは、まったく若作りせずに演じていたが、当時ナポレオンは20代前半の青年だったはずで、とても奇妙に感じられた。また、ナポレオンより6歳年上の妻ジョゼフィーヌ役はフェニックスより14歳年下のヴァネッサ・カービーが演じ、ナポレオンの上官に相当する14歳年上のポール・バラスもフェニックスより7歳年下のタアール・ライムが演じている。中年の男性と若い妻、年下の上官と初老の部下のように見えて、どうしても違和感が拭えない。しかも当初、ジョゼフィーヌ役はもっと若い女優、1993年3月生まれの30歳のジョディ・カマーが演じる予定だったが、パンデミックの影響で撮影延期となり都合がつかなくなったという経緯があるそうだ。本来であれば、もっと年齢差を感じる配役となっていたかもしれない。 英『タイムズ』紙のインタビューを受けたスコットは、史実との整合性について次のように答えている。「ナポレオンが死んで10年が経ち、誰かが本を書く。そしてある者がその本を手に取り、新しい本を書く。こうして400年(*原文ママ)が経ち、[歴史書には]多くの想像が含まれている。歴史家たちと揉めるとき、私は次のように問う。『すみません、あなたはそこにいたのですか?ノーですって?おやおや、それなら黙っとけ』と」。もちろん、映画監督と歴史家の仕事は違うし、観客を魅了させるための創作・演出は許されて然るべきだが、スコットは歴史家の仕事を分かっていない。二次資料(研究文献)にのみ依拠した研究はアカデミックな歴史学研究とは認められない。私たちは常に一次資料(原典史料)にまで降り立って調べるのだ。ちなみに、ナポレオンとジョゼフィーヌとの年齢差についても、スコットは「重要ではない」と一蹴しているが、せめて若作りさせてほしかった。 だが、スコットの「言い訳」はある意味で正しい。あまりに多くのことが語られたために、ナポレオンのイメージは想像に満ちている。ナポレオンに関する言説の信憑性を考察したリチャード・ホエートリーは、「語られたことすべてを信じようとすれば、一人ではなく、二、三人のボナパルトが存在したと考えなくてはならない。もし十分に裏づけのとれたものだけを認めるならば、一人も存在しないのではないかと疑わざるを得ないだろう」と述べている。唯一キャスティングの点でスコットを擁護できるとすれば、フェニックスの顔は、いくつかのナポレオンの肖像にどことなく似ている気がする。 だが、絵画も政治的意図を持って脚色されたものばかりで、あまり信用すべきではない。おそらく、多くの日本人が思い浮かべるナポレオンのイメージは、画家ダヴィドが描いたアルプスの山を白馬で颯爽とかけ登る姿だろうが、実際には、半世紀後にポール・ドラロシュが描いたようにラバで苦労したとされる。ダヴィドの弟子にあたるグロやジェラールら新古典主義の画家たちも、戦争を指揮する勇姿や現人神のごとく着飾った皇帝の姿を描いているが、等身大のナポレオンを描いたとは考え難い。ナポレオン自身が印象操作に心血を注いでいたからである。 私はナポレオン没後200周年であった2021年に、ナポレオンの人生と遺産を振り返りつつ、人々がナポレオンを映画、小説などで取り上げてやまないことこそ、彼が遺した最大の遺産だという趣旨のエッセイを執筆したことがある(『人文会ニュース』第137号)。シャトブリアンは、「ナポレオンは、生きているときには、世界を獲得し損ねた。死んでから世界を手にした」と述べたが、ナポレオンの最大の功績は、数々の戦勝でも民法典でもなく、彼の人生が映画などで取り上げられ、人々を惹きつけてやまない点にあるのではないだろうか。 <楠田悠貴(くすだ・ゆうき)KUSUDA Yuki> 大阪公立大学都市文化研究センター研究員、および立正大学・岡山大学非常勤講師。2015年に東京大学大学院博士課程に進学した後、フランス社会科学高等研究院修士課程、パリ第一大学(パンテオン=ソルボンヌ)大学院博士課程に留学し、現在博士論文を執筆中。専門はフランス革命期・ナポレオン統治期の政治史、政治文化史。主な論文に「ルイ16世裁判再考」(山﨑耕一・松浦義弘編『東アジアから見たフランス革命』風間書房、2021年所収)、単訳書にマイク・ラポート『ナポレオン戦争』(白水社、2020年)がある。 ------------------------------------------ 【2】寄贈本紹介 SGRAメール会員で早稲田大学非常勤講師の花井みわさんからご著書をご寄贈いただきましたので紹介します。 ◆花井みわ『「辺境」の文化複合とその変容-東アジア文化圏を生きる中国朝鮮族』 満洲は、移民の地であり複数の民族の生活空間があった。満洲に夢を託して多くの朝鮮人が満洲に渡った。移住先の満洲では中国人、日本人とどう向き合いながら生きてきたか。それは、中国現代史を見る上でも重要である。地政学的に満洲は東アジアが交錯した地域である。今日、日本と中国の歴史認識をめぐる対立の多くは満洲から始まった。200万人の中国朝鮮族の歴史から学ぶ。 出版社:御茶の水書房 定価:12,100 円 (本体11,000 円+税) ISBN:978-4-275-02126-7 発売日:2021/02 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://rr2.ochanomizushobo.co.jp/products/978-4-275-02126-7 ------------------------------------------ 【3】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い(再送) 下記の通り第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナー「東アジア地域市民の対話」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 日 時:2025年4月12 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:桜美林大学新宿キャンパス創新館(南館)JS302号室 https://www.obirin.ac.jp/access/shinjuku/ 言 語:日本語・英語(同時通訳) 申 込:参加申込(参加には事前登録が必要です) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6rSMRrVaRw-wmMhl6Cc3RQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ◆フォーラムの趣旨 地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3(日中韓)のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local-Across-Border-Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf)のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド・C・マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLBチームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のためにLLABS研究プロジェクトを実施した。 本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRAの協力によって、これまで主にフィリピンで検討されてきたLLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、実現の可能性について探る。 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)を通じて広くオンライン参加者を募る。 ◆プログラム ◇基調講演 「国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義」 フェルディナンド・マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)講師) ◇討論1<ASEAN+3と日本。LLABSの可能性> 「コミュニティ連携:成長のトライアングル、中華街、「カレー移民」に見る教訓」 佐藤考一(桜美林大学リベラルアーツ学群教授) ◇討論2<ASEAN+3と中国。LLABSの可能性> 「中国および東北アジア地域における越境開発協力と地方自治体国際協力の枠組み」 李鋼哲(INAF研究所代表理事・所長) ◇討論3<ASEAN+3と韓国。LLABSの可能性> 「韓国地方政府の国際レジーム形成の取り組み:日中韓地方政府交流会議を事例として」 南基正(ソウル大学日本研究所所長) ◇討論4<ASEAN+3と台湾。LLABSの可能性> 「政治的制約を超える台湾と東南アジアの「非政府間」の強い結びつき」 林泉忠(東京大学東洋文化研究所特任研究員) ◇自由討論 フィリピン市民の意見 … ジョアン・セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ教授) インドネシア市民の意見 … ジャクファル・イドルス(国士舘大学21世紀学部専任講師) タイ市民の意見 … モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学アジア太平洋研究科) ◇総括 平川均(名古屋大学名誉教授) プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAForum75Program.pdf 英語版プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/english/2025/02/06/forum75kkk45/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ****************************** -
Makoto SHIRAKAWA “Pretend to be Unconcerned”
2025年3月20日 12:26:31
********************************************** SGRAかわらばん1055号(2025年3月20日) 【1】SGRAエッセイ#785:白川誠「春に嘯く」 【2】寄贈本紹介:ザヘラ・モハッラミプール『「東洋」の変貌:近代日本の美術史像とペルシア』 【3】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い(4月12日、東京)(再送) 「東アジア地域市民の対話:国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#785 ◆白川誠「春に嘯く」 3月も啓蟄を過ぎ、暖かくなる日が増えてきました。春の到来を感じさせる晴れの日にこれまでの研究生活をのんびりと振り返りながら、この原稿を書いています。 嘘である。今日は朝から寒いうえに雨が降っている。学会発表や報告書作成、査読依頼の対応に残りの実験と標本の整理、研究室の片付けなどにかまけているうちに締め切りも残り3日を切ってしまった。良い文章を書くには適度に追い込まれることが必要だと聞いたことがあるが、私の場合、悲しいことに追い込まれる状況にあっても一向に筆は進まず、心身が疲弊していくばかりである。このくらいの文字数なら2時間もあれば余裕で書けると嘯(うそぶ)いた2時間前の自分に悪態をつきながら未だ机に向かっている。 博士課程での研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響をもろに受ける形で始まった。2020年の4月2日に資料を受け取りに大学に行った後、6月末まで研究室に入れなかったことをよく覚えている。その後も研究室での滞在時間の短縮や、演習林での野外調査の延期などの制限を受け、当初の研究計画も一部変更を余儀なくされることになった。 このように、目に見えないものに振り回された4年間であったが、その一方で様々なご縁にも恵まれた。特に、2023年度は渥美国際交流財団の奨学生として貴重な経験をさせていただいた。財団ならびに元奨学生(ラクーン)の皆様が企画してくださった交流会では、人文・社会科学のほか、自然科学でも工学や医学など、普段自分が接する機会のない研究領域(と私も思われていたのは想像に難くない)を扱う同期の方々と交流することができた。各々のバックボーンや研究分野、研究アプローチが大きく異なることから、最初は不安もあった。しかし、韮崎でのワークショップをはじめ、研究報告会や新年会での餃子作りなどを通して相互にやり取りを重ねる中で、それらが違えども、苦労する点は意外と似ていたりすることなどを知るとともに、日々研究に取り組む同世代の人がこんなにたくさんいるのだと嬉しくなった。「龍吟じ虎嘯く」とはこのような時に使うのだろうか。 「相互のやり取り」という語に関連して、自分の研究についても少し触れたい。私は、マツ科やブナ科などの樹木、それらと地下部で共生関係を結ぶ外生菌根菌と呼ばれる真菌、根のまわりに生息する根圏細菌の三者を主な対象として、それらの相互作用に関する研究を行っている。これらの共生微生物は、宿主樹木から光合成産物の供給を受ける代わりに、宿主の成長促進や、植物病原菌に対する抵抗性の向上などに寄与することが明らかになっている。一般的に微生物といえば、カビやバイ菌などといったネガティブな印象を持たれがちだが、これらのように、植物の生育に不可欠なものも数多く存在することを知ってもらえると幸いである。 こうした森林生態系における微生物に関する研究を志したきっかけは定かではないが、研究を続けると決心した一端には、『蟲師』という漫画の影響があったような気がする。この作品では、「蟲」と呼ばれる、生命の根源に近いとされる架空の存在が引き起こす現象と人間とのやり取りが描かれている。研究を始めた当初、私は周囲と比べて研究対象の生物に対する偏愛が欠けているのではないかと後ろめたさのようなものを勝手に感じていた。しかし、医師や研究者を兼ねる主人公の、蟲に対して「奇妙な隣人である」と明確に線引きをしたうえで関わっていくスタンスに、それぐらいの距離感で向き合う研究者がいても良いのだと思い直した覚えがある(当該の描写は『春と嘯く』というエピソードで確認することができる)。なんだか話が上手くまとまり過ぎている気がするので、都合の良い記憶の後付けかもしれない。いずれにせよ、今後も地面の下(しばしば地表)にいる奇妙で興味深い隣人たちの研究を続けていければと考えている。 多くの方々の助けを借りて博士号を取得するところまで来ることができた。この場を借りて厚く御礼を申し上げる。来年度からは、相変わらず先行きが見えない研究生活が続くが、新たな環境や研究テーマにワクワクもしている。「どうにかなるさ」、と嘯いていきたいものである。 <白川誠(しらかわ・まこと) Makoto SHIRAKAWA> 埼玉県出身。2023年度渥美国際交流財団奨学生。東京大学大学院農学生命科学研究科附属アジア生物資源環境研究センター特任研究員。2018年に東京農業大学で修士号(林学)、2024年に東京大学で博士号(農学)を取得。森林圏に生息する微生物の分類と保全、利用に関する研究を行っている。2025年4月より千葉県内の私立大学に助教として着任予定。 編注:このエッセイは2024年春に書いていただいたものです。 ------------------------------------------ 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で国際日本文化研究センター特任助教のザヘラ・モハッラミプールさんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆ザヘラ・モハッラミプール『「東洋」の変貌:近代日本の美術史像とペルシア』 〈東洋芸術〉とは何か―。近代日本において歴史像が刷新されるなかで、「東洋」は拡大・変容していった。ペルシア芸術を焦点として、伊東忠太・黒板勝美ら学術界、美術商や展覧会、メディア・思想などのグローバルな動向を結びつけ、今日の美術史が確立されていく過程を丹念に掘り起こした挑戦作。 出版社:名古屋大学出版会 価格:税込7,480円/本体6,800円 判型:A5判・上製 ページ数:430頁 発行年月日:2025年3月10日 ISBNコード:978-4-8158-1182-2 Cコード C3071 詳細は下記リンクよりご覧ください。 https://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-1182-2.html ------------------------------------------ 【3】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い(再送) 下記の通り第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナー「東アジア地域市民の対話」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 日 時:2025年4月12 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:桜美林大学新宿キャンパス創新館(南館)JS302号室 https://www.obirin.ac.jp/access/shinjuku/ 言 語:日本語・英語(同時通訳) 申 込:参加申込(参加には事前登録が必要です) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6rSMRrVaRw-wmMhl6Cc3RQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ◆フォーラムの趣旨 地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3(日中韓)のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local-Across-Border-Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf)のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド・C・マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLBチームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のためにLLABS研究プロジェクトを実施した。 本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRAの協力によって、これまで主にフィリピンで検討されてきたLLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、実現の可能性について探る。 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)を通じて広くオンライン参加者を募る。 ◆プログラム ◇基調講演 「国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義」 フェルディナンド・マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)講師) ◇討論1<ASEAN+3と日本。LLABSの可能性> 「コミュニティ連携:成長のトライアングル、中華街、「カレー移民」に見る教訓」 佐藤考一(桜美林大学リベラルアーツ学群教授) ◇討論2<ASEAN+3と中国。LLABSの可能性> 「中国および東北アジア地域における越境開発協力と地方自治体国際協力の枠組み」 李鋼哲(INAF研究所代表理事・所長) ◇討論3<ASEAN+3と韓国。LLABSの可能性> 「韓国地方政府の国際レジーム形成の取り組み:日中韓地方政府交流会議を事例として」 南基正(ソウル大学日本研究所所長) ◇討論4<ASEAN+3と台湾。LLABSの可能性> 「政治的制約を超える台湾と東南アジアの「非政府間」の強い結びつき」 林泉忠(東京大学東洋文化研究所特任研究員) ◇自由討論 フィリピン市民の意見 … ジョアン・セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ教授) インドネシア市民の意見 … ジャクファル・イドルス(国士舘大学21世紀学部専任講師) タイ市民の意見 … モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学アジア太平洋研究科) ◇総括 平川均(名古屋大学名誉教授) プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAForum75Program.pdf 英語版プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/english/2025/02/06/forum75kkk45/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
IWATA Kazuma “The 23rd SGRA Cafe ‘Syria at the Crossroads’ Report”
2025年3月13日 17:08:41
********************************************** SGRAかわらばん1054号(2025年3月13日) 【1】岩田和馬「第23回SGRAカフェ『岐路に立つシリア』報告」 【2】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い(4月12日、東京)(再送) 「東アジア地域市民の対話:国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 *********************************************** 【1】岩田和馬「第23回SGRAカフェ『岐路に立つシリア:抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み』報告」 2025年2月8日、第23回SGRAカフェ「岐路に立つシリア:抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み」が渥美財団ホールとZoomによるハイブリット形式で開催されました。講師はジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員のダルウィッシュ・ホサム氏、討論はモハメド・オマル・アブディン氏、司会はシェッダーディ・アキル氏が担い、対面とオンライン共に数多くの聴衆が集まりました。 24年12月8日にアサド政権が突如崩壊し、反体制勢力による新体制が確立したシリアについて、ホサム氏は、故ハーフィズとバッシャール親子によるアサド政権の現実や、11年の反体制デモに端を発する内戦、そしてポスト・アサド時代の不確実な未来への展望について語りました。自身の経験を踏まえたシリアの生活、日本留学後もしばしばアサド政権下の日々を悪夢に見たというエピソード、非人道的な政治体制によって国民に植え付けられたトラウマとその長期的な影響、そして体制を支えた政治構造や、国民に対する弾圧の実態に言及しました。 続いてスーダン出身のアブディン氏は、紛争国や内戦を逃れて海外で生活をする厳しさや、中東・北アフリカ地域において紛争が続くシリア、スーダン、パレスチナといった地域における米国やロシアなど大国の思惑等、多様な論点からコメントしました。 聴衆からの質問は、今後のシリアがどのような未来を歩むかという点に集中しました。内戦中に離合集散を繰り返した反体制勢力同士の不安定な関係に加え、国内に残る政権派やイスラーム国残党の扱い、北部のクルド勢力との関係などは、今後の新生シリアの未来を占う上で重要な要因となることが確認されました。シリア北部においてはクルド勢力の影響が非常に大きく、ホサム氏、アブディン氏とも最終的に情勢を決定するのは新政権を支援するトルコと、クルド勢力を支援する米国の思惑次第ではないかと見ていました。 オスマン帝国史を専攻する私は、アラブ地域は専門外であるものの、トルコを介してシリアとも縁のある学生生活を送りました。アラブの春に続いて、なし崩し的にシリアでの内戦が始まった11年に東京外国語大学に入学、13-14年にトルコへ留学し、語学学校でシリアから逃れてきた学生たちと話をした時に初めて内戦のリアリティを目の当たりにしました。日本でもシリア出身の留学生と仲良くなる機会はありましたが、クラスの3割がシリア人で占められていた語学学校の様子は内戦の影響を「mass」の形で見せつけられているようで、強い印象を受けました。その後、旅行や調査でトルコを訪れるたびにシリア人難民を街で見かけることが増え、難民の定着過程とトルコ人との衝突を目の当たりにしました。 近年ではトルコ社会に定着するシリア人難民も増え、トルコ語を操りトルコ人と同じ学校を卒業し、トルコ人と同じ会社で働くシリア人も増えましたが、15年前後はトルコ語も話せず生活基盤もないシリア人がイスタンブル各地で物乞いをしている姿をよく見かけました。旅行でたまたまバスが通過した国境地帯の難民収容施設で見かけた所在なさげにタバコをふかしたり、施設の周辺で座り込んだりする人たちの姿を今でも覚えています。トルコ人からの冷たい目線や心無い言葉を見聞きすることも多く、難民の強制送還や難民に対する襲撃が度々トルコの政治マターとしてニュースに現れるのを見てやるせない思いに駆られました。 このような体験を通して今回の講演を振り返ると、ホサム氏とアブディン氏からの「ニュースでは紛争における死傷者や難民の数が語られるが、数字に含まれる人々には個別の人生があり、内戦によって引き起こされた個別の苦しみがある」という指摘は非常に重要です。 2度のトルコ留学を通じて、私はトルコへ逃れたシリア人をはじめとしてパレスチナ人、ウイグル人、イエメン人、アフガン人などの難民や学生と知り合い、それぞれの体験を耳にするたびに戦争や政治弾圧が個人の人生に対してもたらすものを考えざるを得ませんでした。「統計的な数字の裏には無数の人間の人生が存在している」ということは、少し考えれば当たり前の話ですが、私たちはしばしばこんな簡単なことも忘れてしまいます。今回のイベントを通して、私が出会ったこれらの人々やニュースで見る戦災被害者全てにそれぞれ戦争に狂わされてしまった人生があることを決して忘れてはいけないと改めて認識しました。カフェに参加したすべての人が、直接的・間接的に紛争の影響を受けた人を見たことがあると思います。このようなある種当たり前のことを思い出すためにも今回のカフェが行われた意義がありました。 ホサム氏とアブディン氏が指摘したように、講演、討論、質問において度々議題に上がった新生シリアの今後については不確定要素が多数存在しており、予断を許さない状況が続いています。先進国の多くはアサド政権下のシリアに対して経済制裁を行っており、新生シリアに対してもリーダーが宗教保守派であることを理由に様子見を続けています。こうした先進国の姿勢はシリアの情勢の改善を促すことにはならないので、日本をはじめとした各国はなるべく早く支援する必要があります。女性の地位を巡る課題や世俗的な生活様式がどれほど容認されるのかといった懸念が特に西側各国から投げかけられています。しかし、「戦闘が終わり、体制が安定しなければこのような議論も行うことができないので、いち早い対策が必要だ」というアブディン氏の指摘は非常に重要です。 内戦が終了したとはいえ、いまだに多数の不確定要素が存在し、無数の村落や都市が荒廃したシリアの再建は容易な事業ではないということを、今回のイベントを通して今一度再確認しました。アサド政権下で行われた非人道的な弾圧や有象無象の武装勢力が割拠したこの10年の歳月がシリア社会に大きな傷跡や憎悪、分断を残したことは明らかであり、爆撃で更地になった国土の復興と並行して、社会や人間性そのものの復興が急務であるという思いを改めて強くしました。一方で、世界各国へ散らばり様々な分野の知識や技術を身につけたシリアの人々が祖国の復興に参画したいと考えていることも確かです。こうした人々の善意と国際社会の適切な援助が新生シリアの社会を健全なものに再建することを期待して止みません。新体制のシリアでは各派閥の対立や憎しみを超えて、可能な限り早い復興が行われることを願います。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/03/cafe23photos2-small.pdf <岩田和馬(いわた・かずま)IWATA Kazuma> 東京外国語大学大学院総合国際学研究科世界言語社会専攻博士課程在籍。2020-2023年ボアジチ大学客員研究員。研究論文に「18世紀イスタンブルの荷役組合:内部構造に関する考察」『オリエント』vol.63-2,189-204(2020)。2024年度渥美国際交流財団奨学生。 ------------------------------------------ 【2】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い(再送) 下記の通り第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナー「東アジア地域市民の対話」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 日 時:2025年4月12 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:桜美林大学新宿キャンパス創新館(南館)JS302号室 https://www.obirin.ac.jp/access/shinjuku/ 言 語:日本語・英語(同時通訳) 申 込:参加申込(参加には事前登録が必要です) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6rSMRrVaRw-wmMhl6Cc3RQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■フォーラムの趣旨 地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3(日中韓)のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local-Across-Border-Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf)のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド・C・マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLBチームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のためにLLABS研究プロジェクトを実施した。 本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRAの協力によって、これまで主にフィリピンで検討されてきたLLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、実現の可能性について探る。 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)を通じて広くオンライン参加者を募る。 ◆プログラム ◇基調講演 「国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義」 フェルディナンド・マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)講師) ◇討論1<ASEAN+3と日本。LLABSの可能性> 「コミュニティ連携:成長のトライアングル、中華街、「カレー移民」に見る教訓」 佐藤考一(桜美林大学リベラルアーツ学群教授) ◇討論2<ASEAN+3と中国。LLABSの可能性> 「中国および東北アジア地域における越境開発協力と地方自治体国際協力の枠組み」 李鋼哲(INAF研究所代表理事・所長) ◇討論3<ASEAN+3と韓国。LLABSの可能性> 「韓国地方政府の国際レジーム形成の取り組み:日中韓地方政府交流会議を事例として」 南基正(ソウル大学日本研究所所長) ◇討論4<ASEAN+3と台湾。LLABSの可能性> 「政治的制約を超える台湾と東南アジアの「非政府間」の強い結びつき」 林泉忠(東京大学東洋文化研究所特任研究員) ◇自由討論 フィリピン市民の意見 … ジョアン・セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ教授) インドネシア市民の意見 … ジャクファル・イドルス(国士舘大学21世紀学部専任講師) タイ市民の意見 … モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学アジア太平洋研究科) ◇総括 平川均(名古屋大学名誉教授) プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAForum75Program.pdf 英語版プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/english/2025/02/06/forum75kkk45/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
Invitation to the 75th SGRA Forum/45th Sustainable Shared Growth Seminar “East Asia Citizens Dialogue”
2025年3月6日 17:06:05
********************************************** SGRAかわらばん1053号(2025年3月6日) 【1】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い 「東アジア地域市民の対話:国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 【2】催事紹介:INAF第30回研究会(政策セミナー)のご案内 「日朝国交正常化に向けた戦略および政策提言」 *********************************************** 【1】第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナーへのお誘い 下記の通り第75回SGRAフォーラム・第45回持続的な共有型成長セミナー「東アジア地域市民の対話」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 日 時:2025年4月12 日(土)午後2時~午後5時(日本時間) 方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催 会 場:桜美林大学新宿キャンパス創新館(南館)JS302号室 https://www.obirin.ac.jp/access/shinjuku/ 言 語:日本語・英語(同時通訳) 申 込:参加申込(参加には事前登録が必要です) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6rSMRrVaRw-wmMhl6Cc3RQ#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■フォーラムの趣旨 地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3(日中韓)のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local-Across-Border-Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf)のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド・C・マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLBチームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のために LLABS研究プロジェクトを実施した。 本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRAの協力によって、これまで主にフィリピンで検討されてきたLLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、実現の可能性について探る。 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)を通じて広くオンライン参加者を募る。 ◆プログラム ◇基調講演 「国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義」 フェルディナンド・マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)講師) LLABS構想の背景には、東アジア全体に広がる2大潮流がある。一つは東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)に代表される”地域統合”の思想で、もう一つは政治的および財政的決定権を地方政府に委ねる”地方分権”の思想である。果たしてこれらの潮流は互いに代替し合うか、あるいは補完し合うかという疑問が本フォーラムの出発点である。 地域統合の戦略が状況次第で機能しないことは、西フィリピン海や南シナ海で紛争が続いていることなどからみても明らかだ。しかしながら、行き詰まりの状況を打開する策をLLABS構想が提供できると期待されている。またその他のケースでも、LLABS構想がこの2大潮流を前進させる補助的メカニズムとして機能し、地域統合と地方分権が補完的な関係になる可能性が示唆されている。事例研究として、フィリピン大学オープンユニバーシティ(UPOU)が神奈川県相模原市藤野とフィリピンのラグナ州バニョスで進めている2つの取り組みを紹介しながらLLABS構想の意義を考察する。 ◇討論1<ASEAN+3と日本。LLABSの可能性> 「コミュニティ連携:成長のトライアングル、中華街、「カレー移民」に見る教訓」 佐藤考一(桜美林大学リベラルアーツ学群教授) 国境を超える地方自治体・地域コミュニティの連携構想(LLABS)というのは、夢のある話であるが、難しい話でもある。ASEANの成長のトライアングル構想については、成功の条件として、新興工業国・地域(NIES)のような先進地域と発展途上地域の垂直分業関係、良港の存在、近接性、インフラ整備の度合いと資金源、治安問題がないことなどが必要で、さらに世界的な供給連鎖管理(SCM)の流れに乗れることも必要である。現在までのところ、3つのトライアングルのうち、成功したとはっきり言えるのは南のトライアングルだけである。日本国内の小さなコミュニティ連携について言えば、中華街、「カレー移民」について成功例と失敗例がある。 外国人労働者が言語や宗教、文化の問題を乗り超えて日本社会に溶け込めるか、日本側が彼らの受け入れにどれだけ努力しているか、移民の子供の教育機会が充実しているかなどが問題になる。互いに歩み寄りながら、相互理解と共益を目指す事が必要である。なお、日本の中華街には、中国文化を売り込んで観光名所として成功するしたたかさもある。 ◇討論2<ASEAN+3と中国。LLABSの可能性> 「中国および東北アジア地域における越境開発協力と地方自治体国際協力の枠組み」 李鋼哲(INAF研究所代表理事・所長) 東北アジアにおける地域主義は1990年代前後から冷戦崩壊の頃、国境を超える地域開発の活性化とともに台頭する。様々な越境的地域開発のプロジェクトが立ち上がり、極地経済圏(サブ・リージョン・エコノミック・ゾーン)形成の動きが出現し、それがこの地域の経済成長の大きな原動力となった。 (1)環日本海国際経済圏構想(1980~90年代) (2)図們江地域開発構想と計画(TRADP)(1991~) (3)環黄海・渤海経済圏構想(1990年代~) (4)両岸四地経済圏構想:中国の広東省・福建省と台湾、香港、マカオ(1990年代~) (5)メコン川流域経済圏構想GMS(1991年~、中国広西チワン族自治区と東南アジア5ヵ国) そのような流れの中で「北東アジア地域自治体連合」(国際機構)が1996年に成立、その他にも様々な地方間国際交流の枠組みが形成された。中国の地方政府(自治体)が国境を越えた地方間の経済・文化交流のプラットフォームの活性化により、地域経済成長と中国の高度経済成長を支えてきた軌跡を考察する。 ◇討論3<ASEAN+3と韓国。LLABSの可能性> 「韓国地方政府の国際レジーム形成の取り組み:日中韓地方政府交流会議を事例として」 南基正(ソウル大学日本研究所所長) 韓日中地方政府交流会議(以下、日本語での報告であることを考慮し「韓日中」は「日中韓」と表記)は韓国、日本、中国の地方政府が実質的な交流を進めることを目標に、大韓民国市道知事協議会、日本自治体国際化協会、中国人民対外友好協会など3つの機関が共同で開催する地方政府間協力の枠組みである。1999年にソウルで最初の会議が開催され、以来2024年に25回目の会議が韓国光州で開催されるまで、輪番制で毎年開催されている。ただ一度、20年に新型コロナウイルス感染症の影響で延期になったが、これも非政治的な理由での「延期」であり、中断したことはなかった。25年は中国・江蘇省塩城市での開催が決まっている。 報告では、日中韓地方政府交流会議に対する大韓民国市道知事協議会の取り組みを事例に、北東アジアにおいて地方政府が主導する国際レジームの特徴と意味を確認する。具体的には次の2点である。第1はASEAN+3との相関性の究明。日中韓地方政府交流会議が始まったのはASEAN+3発足2年後の1999年で、韓国がASEANとの連携を大きく意識し始めた時であった。そして金大中政権になりASEANへの接近も見られた。韓国の地方政府が地方外交を開始し、ASEAN方式に注目したのがこの頃であった。それが継続の力になっていたと考えられる。そこで、第2に試みるのは日中韓首脳会談との比較である。日中韓首脳会談は2008年の初開催以来、24年に9回目の会談が開催されたが、13年と14年、16年と17年、20年から23年まで、3度の中断があった。それぞれ政治的な状況が大きな影響を与えていた。一方で、日中韓地方政府交流会議はこの時期も継続され、背景にどのような努力があったのかを確認することは、この地域の平和共存のための知恵を与えてくれるだろう。 ◇討論4<ASEAN+3と台湾。LLABSの可能性> 「政治的制約を超える台湾と東南アジアの「非政府間」の強い結びつき」 林泉忠(東京大学東洋文化研究所特任研究員) 台湾とASEAN10カ国とは、正式の外交関係を有しておらず、また「ASEAN+3」にも入っていないが、両者の関係は実に微妙で密接な状況にある。戦後の台湾は、かつて東南アジア8カ国とそれぞれ国交を樹立したが、1970年代における両岸(中台)の国際地位の逆転で次々と断交していく。だが、やがて台湾は韓国、香港、シンガポールと共に「アジアNIES」の一員として経済発展を遂げ、東南アジアへの経済進出も目立つようになった。 2016年、蔡英文民進党政権は中国への経済依存を減らし、「新南向政策」を打ち出した。それによって、台湾と東南アジアの結びつきはさらに深まり、人的・経済的な国境を超えたつながりが強化されている。今後、特にデジタル経済・医療・教育・労働者受け入れの分野での協力が引き続き重要視されるだろう。他方、「星光計画」としてシンガポール軍が台湾で軍事訓練を実施したり、台湾が南沙諸島にある自然形成された陸地面積が最大の太平島を実効支配したりしている。 全体として、台湾とASEANの関係は、中国の圧力や自由貿易協定(FTA)の未締結といった課題もあるが、政治的な制約を超えて実質的な相互依存関係を深めており、今後も国境を超えた交流が広がっていくと思われる。 ◇自由討論 フィリピン市民の意見 … ジョアン・セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ教授) インドネシア市民の意見 … ジャクファル・イドルス(国士舘大学21世紀学部専任講師) タイ市民の意見 … モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学アジア太平洋研究科) ◇総括 平川均(名古屋大学名誉教授) プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAForum75Program.pdf 英語版プログラム https://www.aisf.or.jp/sgra/english/2025/02/06/forum75kkk45/ ------------------------------------------ 【2】催事紹介:INAF第30回研究会(政策セミナー)のご案内 SGRA会員で一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。興味のある方は直接お申込みください。 <李さんからのメッセージ> 私が創設し所長を務める東北亜未来構想研究所INAFの第30回研究会のご案内です。ご興味をお持ちの方は奮ってご参加ください。オンラインご参加を希望する方、現地参加をご希望の方は、いずれもINAF事務局にメールでご連絡ください。オンライン参加のご連絡をいただいた方にはZoomのURLをお送りします。 ◆INAF第30回研究会(政策セミナー) [テーマ] 日朝国交正常化に向けた戦略および政策提言 [日 時] 2025年3月21日(金)14:00~16:30 [会 場] アルカディア市ヶ谷私学会館4F鳳凰会議室 [趣 旨] アメリカでは大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏が今年1月20日に大統領就任したが、第1期には米朝首脳会談を3回も行って世界を震撼させた。それを踏まえて、トランプ2.0では米朝関係正常化に邁進することが予測されよう。2002年9月に小泉純一郎首相が平壌を訪問して「日朝平壌宣言」を発表し、国交正常化交渉を開始していたが頓挫し、その後20年以上両国関係は断絶し懸案となっている。昨年石破茂政権が誕生し、日朝国交正常化交渉への意欲を示している。朝鮮半島課題の解決に向けての潮時、歴史的な転機が訪れることも予測されよう。 そこで、本セミナーでは日朝関係の実務家、専門家たちが集まり、両国関係の根本的な改善や国交正常化に向けた戦略および政策提言に向けて、ハイレベルの議論を展開し、政府への働きかけを試みることを目指す。 [プログラム] ファシリテーター:李鋼哲(INAF所長) 基調講演:美根慶樹(平和外交研究所所長・元日朝国交正常化交渉日本政府代表・INAF最高顧問) パネリスト: 和田春樹(東京大学名誉教授・元日朝国交正常化国民協議会事務局長) 三村光弘(INAF常任任理事・新潟県立大学北東アジア研究所教授) 河信基(INAF顧問・河信基グローバル平和戦略研究所(IGPS)所長) 川口智彦(INAF常任理事・日本大学国際関係学部准教授) エマンニュエル・パストリッチ(アジアインスティチュート理事長) 矢嶌浩紀(INAF理事・元NHK国際部副部長) 参加費:INAF会員1,000円、一般参加3,000円(会場の受付にて徴収、先着順50名) INAFのHP:http://inaf.or.jp/にて関連情報の詳細が確認できます。 INAFメンバー以外の方は、3日前までに参加申し込み(名前、所属、連絡先メルアド)を送ること 事務局E-mail:[email protected] ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
HUANG Jo Hsiang “What Studying in Japan Taught Me”
2025年2月27日 12:43:21
********************************************** SGRAかわらばん1052号(2025年2月27日) 【1】SGRAエッセイ:黄若翔「日本留学が教えてくれたこと~比較法の重要性と人との出会い~」 【2】国史対話エッセイ紹介:金賢善「歴史と私」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#784 ◆黄若翔「日本留学が教えてくれたこと~比較法の重要性と人との出会い~」 2016年4月、私は東京大学大学院法学政治学研究科修士課程に入学し、労働法を専攻することになりました。それまで台湾の大学で法学を学んできましたが、日本の大学院で学ぶことは私にとって大きなチャレンジでした。 東京大学の労働法の指導教員や先輩たちは、私を暖かく迎え入れてくれました。ゼミでは活発な議論が行われ、教授からは丁寧な指導を受けることができました。当時労働法専攻の大学院生は私1人だけで、寂しさを感じることもありました。日本語での議論についていくのは容易ではなく、日本の社会や文化になじむのにも時間がかかりました。 そんな中、私は渥美国際交流財団に出会いました。財団の奨学金を受け、イベントに参加したりする中で、同じように日本で学ぶ留学生たちと交流を深めることができました。来日6年目にして、初めて日本で帰属意識を感じる場所が見つかりました。母国を離れ、異国の地で学ぶ私たちにとって、渥美財団は心の支えとなりました。財団を通して出会った友人たちは、今でも大切な存在です。 振り返ってみると、「留学」を通じて初めて比較法の重要性と価値を理解することができました。どの国でも、市場の背景や社会状況は異なりますが、共通の問題点が存在することに気づきました。この共通認識を踏まえた上で、各国の市場背景の違いなどに基づいて法政策を分析することが可能になるのです。 例えば、学部時代に台湾大学法学部で日本の労働法に関する論文を読む機会がありました。東亜ペイント事件の判決で示された転勤命令について、業務上の必要性がない場合や不当な動機・目的がある場合や、労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合」等、特段の事情がない限り権利の濫用に当たらないとされた点が当時は理解できませんでした。日本の判例法理はなぜ使用者の配転命令をそこまで認めるのだろうと疑問に思っていました(東大法学政治学研究科への入学にあたり、この問題意識とワークライフバランスをテーマに研究計画書を提出しました)。 その後、東大で本格的に労働法を学ぶ中で、日本の労働市場が長期雇用慣行・終身雇用制を採用し、厳しい解雇規制によってこの制度が支えられていることを理解しました。特に能力不足の労働者に対する解雇制限が極めて厳しい状況で、使用者に広範な配転命令権を認めることで、不適任の労働者を他の部門に配置換えできるようにし、長期雇用慣行と厳しい解雇規制を成り立たせていることが初めて分かりました。 逆に、台湾の労働市場は雇用の流動性が高く、能力不足の労働者に対する解雇に関する規制が相対的に緩やかであり、これが台湾及び日本の法政策の違いを浮き彫りにしています。日本へ留学しなかったら、他者の目となって自国や他国の法制度を分析する機会は得られず、比較法という学問の真髄を体験することは難しかったかもしれません。 大学院での研究は決して楽なものではありませんでしたが、指導教員や先輩、そして渥美財団の支援があったからこそ、乗り越えることができました。日本での経験は、私の人生を大きく変えてくれました。日本の社会や文化に触れ、多様な価値観に出会ったことで、視野が広がりました。 渥美財団で出会った仲間たちとは今でも交流を続けており、互いに刺激し合いながらそれぞれの道を歩んでいます。日本留学は、私にとってかけがえのない経験となりました。東京大学の恩師や先輩方、渥美財団の皆様には心から感謝しています。これからも日本と台湾の架け橋となるべく、研究と教育に励んでいきたいと思います。 <黄若翔 HUANG_Jo-Hsiang> 台湾の新竹県で生まれ育つ。中学校卒業後台北に進学し、国立台湾大学法学部を卒業(2016)。同年、思鴻教育財団の奨学金を得て、日本の東京大学大学院法学政治学研究科へ留学し、修士号(2019)および博士号(2024)を取得。在学期間中、東京大学先端ビジネスロー国際卓越大学院奨学生、渥美財団奨学生および日本学術振興会特別研究員(DC2)に選出される。博士号取得後、日本独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)にて研究助手を務めた。現在は台湾の国立清華大学科技法律研究所に助理教授として勤めている。 ------------------------------------------ 【2】国史対話エッセイ紹介 昨年12月18日に配信した国史対話メールマガジン第63号のエッセイをご紹介します。 ◆金賢善「歴史と私」 私は、他の先生方のように渦巻く歴史のど真ん中に立たされたわけでもなかったし、だからといって強い使命感で歴史の勉強を始めたわけでもない。そのため、先生方の前で自分を「歴史家」と名乗ることすら気恥ずかしく感じる。この文章では、壮大な物語でも優れているわけでもいない自分の研究について、ただ単に若い歴史家の旅程とその悩みを率直に述べたい。 学生時代、私は特別な才能もなく、また世界を眺める視野も非常に狭かった。教科の中で最も好きな科目が国史(訳注:韓国史)であり、単純に教員採用試験を受けて先生になろうという思いで史学科に入学した。大学3年生の時、偶然学校の支援を受けてスペインのバレンシアへボランティア活動に行くことになった。当時、旅行者があまり多くはなかったスペインの小さな田舎町でも、さりげなくある中国系の商店と飲食店を見かけた。この経験は私の中国に対する好奇心を刺激した。ボランティア活動を終え、フランスとベルギー、イタリアを一人で旅行しながら、地理的に近い中国と韓国が欧州連合のように統合し共存できない理由について考えた。スペインでのボランティア活動とヨーロッパ旅行を通じて私は漠然と中国について勉強する夢を見始めた。 旅を終えた後、中国へ行くことを決意した。アルバイトをし、中国のハルビンで語学研修を始めた。新しい言語と文化を学ぶことはとても楽しかったし、中国で生活する間、中国についてもっと勉強したいという思いがより切実になった。しかし、私の切実さとは裏腹に、周辺の人々は「歴史学を勉強してまともに生計を立てることができるか」と心配し、私を慰留した。その上、私には大学院の学費と生活費を賄える力さえなかった。強がりだったかもしれないが、引き止める友人に対して私は、お金を稼げなくても「一生ブランド物のカバンを持てなくても後悔しなさそう」と言った。その後、借金をして大学院に入学した。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024KimHyunsunEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 [email protected] ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
CHANG Jun-shi “At the Crossroads of the Paths of Academia Researchers and Working Professionals”
2025年2月20日 14:22:44
********************************************** SGRAかわらばん1051号(2024年2月20日) 【1】SGRAエッセイ:チャン・ジュンシ「アカデミア研究者と社会人の道の岐路で」 【2】寄贈本と記念イベント紹介:『青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち』 【3】催事紹介:NHKスペシャル『トランプ流“ディール”戦争と平和の行方は』 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#783 ◆チャン・ジュンシ「アカデミア研究者と社会人の道の岐路で」 2024年9月に博士号を取得する際、アカデミア研究者としてのキャリアを追求するか、あるいは企業の世界へ移行するか、という選択を迫られました。日本での留学経験を振り返ると、すべては9年前に名古屋大学の学部プログラムに入学したときから始まります。この経験が学問的に豊かになるだけでなく、個人的な成長や文化への没頭の貴重な機会を与えてくれたからです。 学部時代に私が参加したグローバル30というプログラムは、様々な国や背景からの学生を受け入れていました。多様なバックグラウンドを持つクラスメートとの交流は新しい文化や視点を学ぶ機会となり、ハイキングやジャズ音楽など多くの新しい興味を見出すこともできました。その後は東京大学大学院に進学し、修士課程を修了、博士課程に進みました。博士課程は私の人生において最も挑戦的で、かつ充実した経験の一つでした。 まず、博士課程は非常に時間とエネルギーを要するものであることを強く実感しました。研究や論文執筆に集中するためには、日々の時間管理と自己犠牲が欠かせませんが、このプロセスを通じて、自己管理能力や粘り強さを向上させることができました。また、数々の試練や挫折に直面しながらも、それらを乗り越える戦略を身につけることができました。「擬似天然チオペプチド創薬プラットフォームの開発」という研究テーマが異なる学問領域や専門知識の統合を必要とする複雑な問題に関連するため、様々な学際的なアプローチが求められました。さらに、博士課程は独自の研究を行い、その過程で自己表現と創造性を発揮する場でもあります。自分自身のアイデアや仮説を探求し、それらを実証するための研究を進めることは非常に豊かな体験でした。新しい知識や発見を生み出す喜びは、私の努力への報酬であり、研究への情熱をさらに燃やしました。 これらの9年間を通じて自分の強みや弱みを理解し、克服する方法を見つけたことは、私のキャリアと人生の中で非常に重要なスキルになると感じています。多様な学術的追求に参加し、最先端の研究に没頭し、同僚や指導者と意義深いつながりを築いてきたことで、学生として、そして学術研究者としての生活は充実していました。時折疲れることもありましたが、そのような困難にも関わらず、興味を追求し、情熱を存分に追求する自由を大切にしてきました。 いざ卒業、となった時に根本的な問いに直面しました。基礎研究や教育を通じて知識とイノベーションを推進するために学術の道を進むべきか、それとも企業や産業の環境で専門知識を活かすべきか。産業界でのキャリアはより快適で安定した生活を約束するかもしれませんが、個人的な興味に没頭する自由を手放すことが心に重くのしかかります。 自分の旅を振り返ると、私は常に社会に意味のある貢献をし、影響力のある発見をすることを志してきました。この志が学術的努力を通じて研究の機会を追求し、直面する課題に立ち向かうよう私を導き、実験室、教室、文化的浸透のいずれの経験でも私の視野を広げる原動力となっています。 私は幸運に恵まれ、博士課程で行った研究を続けることができるスタートアップに参加することになりました。ここで世界に意味のある貢献をし、イノベーションを起こし、積極的な変化をもたらすという強い使命感に駆られています。 <チャン・ジュンシ CHANG Jun-shi> クアラルンプール出身。2015-2019:名古屋大学理学部化学科学士(阿部研究室)、2019-2021:東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程 (菅研究室)、2021-2024:同博?課程。現在はDayra_Therapeutics社勤務。 ------------------------------------------ 【2】寄贈本と記念イベント紹介『青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち』 SGRA会員で青山大学教授の韓京子さんより新刊書と出版記念イベントのお知らせをいただきましたのでご紹介します。 ◆『青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち』 本書は、青学15周年記念企画で大学の予算で非売品として出版したものです。表紙の詩人は白石という有名な詩人で北朝鮮に渡り亡くなっています。北朝鮮に渡ったということで、私が学生の頃はあまり知られておりませんでした。この人の写真が唯一学院の学生調書に残っていたので表紙に使われています。(装幀も青学出身者が関わっています)企画を立てた小松先生が、韓国の詩にご興味がある方です。朝鮮における西洋童話の翻訳に青学出身者が関わっていたことを、たまたま知り、小松先生にお話したところ、青学出身の文学者はどれくらいいたんだ?という疑問から調べて本にしようということになりました。 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aoyama.ac.jp/faculty113/2024/news_20241127_01 ◆出版記念イベント「青山学院出身近代韓国文学者たちの生の軌跡と文学」 日時:2025年3月15日(土)14:00~16:30(13:30~受付) 場所:青山キャンパス11号館1134教室 ※どなたでもご参加いただけます。事前申込不要。 プログラム: ■第1部:学生による詩の朗読「日本語・韓国語で読む青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たちの詩」 解説:小松靖彦教授(青山学院大学文学部日本文学科) 朗読:青山学院大学文学部日本文学科3年生、2年生 ■第2部:トークショー「日韓文学史と青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち」 登壇:熊木勉教授(天理大学国際学部韓国・朝鮮語学科)、韓京子教授(青山学院大学文学部日本文学科) 司会:小松靖彦教授 ■第3部:ミニコンサート「青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たちを想う」 ピアノ弾き語り:沢知恵氏が金東鳴の詩《こころ》(金素雲訳)をうたう 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aoyama.ac.jp/post02/2024/event_20250218_01 ------------------------------------------ 【3】催事紹介 SGRA会員でオックスフォード大学日本研究所研究員のオリガ・ホメンコさんから、ウクライナに関して取材協力したNHK番組のお知らせをいただきましたのでご紹介します。 ◆NHKスペシャル『トランプ流“ディール”戦争と平和の行方は』 本放送/2月22日(土)22:00~22:50 再放送/2月26日(水)0:35~1:26 “ディール”で世界を衝撃の渦に巻き込むトランプ大統領。プーチン大統領と電話会談し、戦闘の終結に向け交渉が動き始めた。一方、ロシアが容易には妥協しない状況も。欧米から“史上最大”の制裁を科される中でも、経済が“好調”を維持、軍事への巨額投資が社会を潤す“死の繁栄”の実態が見えてきた。一方日本近海では、ロシアの核兵器をめぐる不穏な動きも。トランプ流“ディール”で戦争は終わるのか。日本に迫るリスクとは。 詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/L1PXQZVLXP/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
Robert KRAFT “History and Beauty”
2025年2月13日 22:40:08
********************************************** SGRAかわらばん1050号(2024年2月13日) 【1】SGRAエッセイ:ロバート・クラフト「歴史(学)と<美>」 【2】国史対話エッセイ紹介:佐藤雄基「歴史と私(なぜ歴史研究者になったか)」 【3】催事紹介:INAF新春講演会(第29回研究会) 「沖縄を戦場ではなく東アジア平和センターに」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#782 ◆ロバート・クラフト「歴史(学)と<美>」 長い間一つの研究課題に取り組んでいると、もともとは知的興奮から選んだテーマでも、いつの間にか味気なくなってしまうという経験をしたことがある研究者は少なくないだろう。私も長年にわたって歴史研究に従事する過程で頭が疲れることがあり、その際に、失われつつあった「思考散歩」の楽しさを再び感じさせてくれたのは、一人の先輩との対話であった。そのなかでの話題に歴史(学)と「美」の関係があった。以下にそのときに湧いてきたとりとめのない考えを少しまとめてみたい。 まずは、歴史が美的判断の対象となり得るかどうかという問題である。そういった判定につながる観察の対象となり得る客観としての「歴史自体」のようなものはないであろう。歴史はむしろ人間の作ったストーリーであり、ストーリーテリングから切り離しては存在しない。確かに、単に過去のものとその変遷を「歴史」と定義すれば、人間がそれを物語ることを必要条件としない存在があるといえるかもしれない。しかし、それがひとたび「歴史」になると、その存在は消える。この一度消えた存在を復活させて現在共有できるのは、結局人間の物語る歴史である。歴史学もその一種に違いない。 では、ストーリーとしての歴史は美的判断の対象となり得るだろうか。私は、なり得ると思う。ただし、このストーリーとしての歴史の何を対象にするかにより、判断の性質が異なってくると考えられる。 例えば、(一)芸術としての歴史を対象とし、その「美」を判断する場合は純粋な美的判断に近いといえよう。歴史小説や詠史、歴史映画など、おそらくどのような歴史叙述でも、それなりに芸術的な観点から美的判断をくだすことが可能であろう。ただし、歴史学に関していえば、あくまで私見だが、多くの研究書は、客観性を高めようと努めているためか、言語用法がかなりテクニカルであり、そこに「美」を認めることは難しい。 他方、(二)歴史として語られるものを対象とする場合、美的判断が純粋ではなくなることがある。社会の激変に直面する人間が過去を美化する現象がその例として挙げられる。近代において産業化・資本主義化・都市化していく社会から失われてしまう過去の美風に憧れた人々にとっては、その客観、すなわち彼らの見た「歴史」は美しく見えたのであろう。デジタル化に伴ってまだ把握しきれない変化を受けている現代社会においても似たような傾向があるように思われる。しかし、この場合、憧れる過去の美風は単に「美しい」だけではなく、「善い」ものでもあり、理性を介し概念をつうじて理解されるようである。すなわち、それには社会・美風が何であるべきかというある目的の概念が含まれ、さらには「そういう美風のある社会に生きたい」「社会にそうあって欲しい」というような、ある種の関心が含まれているのである。 歴史学の文脈においてはどうか。歴史学者が過去の「美」を掘り出そうとすることもまれにあるかもしれないが、普段は研究対象とする人物や事象を批判的な目で見ている。私も自らの研究で過去の思想家が書いた文章を読んでいる際に、その美しい語句や一見して崇高な思想に対して美的感情を抱くことはあるが、その裏にあるさまざまな問題を分析していくにつれて、その美しさがだんだん?がれ落ちていく。その理由は、単に観察において対象を判定するのみならず、そこに何らかの道徳的観念が関与してくるからだと思う。歴史学の研究対象が人間と人間社会である以上、その対象をめぐる判断には、人間がどうあるべきかという目的の概念および人間にどうあって欲しいかという関心が含まれてくるのは当然である。美しいと判断しても、その場合の「美」は「善」と結びあっており、あえていえば「随伴的な美」である。歴史研究の一つの意義が過去から教訓を得ることにあるとすれば、この研究には現代社会をより善いもの、より美しいものにする可能性もあるのではないだろうか。 <ロバート・クラフト Robert_KRAFT> ドイツ出身。2010年から2018年までライプツィヒ大学(ドイツ)で日本学を専攻。学士課程と修士課程においてそれぞれ1年間千葉大学に短期留学。2019年に筑波大学の日本史学の博士課程に編入学。2024年に博士号(文学)を取得。 ------------------------------------------ 【2】国史対話エッセイ紹介 1月29日に配信した国史対話メールマガジン第64号のエッセイをご紹介します。 ◆佐藤雄基「歴史と私(なぜ歴史研究者になったか)」 私が歴史に興味をもったのは、小学生の頃、何気なく手にとった学習マンガがきっかけだった。戦国時代の武田信玄や豊臣秀吉の人生を子ども向けに描いたもので、現代とは異なる舞台で、子ども心に憧れを抱くような英雄たちの物語に胸を躍らせた。 その前には、中世風の異世界を舞台にした『ドラゴンクエストⅢそして伝説へ…』(1988年)のようなロールプレイングゲーム(RPG)(物語の中の登場人物になって体験するゲーム)に夢中になっていた。さらに遡れば、トムソーヤの冒険のような少年向けの物語も好きだった。だから、戦国武将の英雄譚には馴染みやすかったのかもしれない。ただし、歴史はドラクエのようなフィクションとは異なり、『「本当にあった話」で、調べれば調べるほど、関連するコンテンツが無限に出てきて、いろいろなものが関連し合う底なし「沼」だった。歴史上の人物になりきって、追体験するような空想に耽るのが好きだった。自分の身の回りの日常とは異なる未知の、しかしフィクションではなく、この地球上にかつては確かに存在していた世界。その中に自分が入り込み、いろいろな体験をしている気になっていた。現実の私は、地方都市に住む平凡な子どもで、本当に狭い世界の中で、日々を暮らしていたのだが。 その後はTVゲームの影響が大きかった。家庭用ゲームが普及した1980-90年代に生まれ育った私の前後の世代の中世史研究者には、戦国時代を舞台にした国盗りゲームである『信長の野望』シリーズに夢中になって歴史に興味を持ったという人が多い。大学教員になったとき、年配の先輩教員から、「ゲームやマンガ、ドラマの影響で歴史に興味を持ち、史学科に入ってくる学生が最近は多い」と嘆かれたが、その傾向は私の世代(1981年生まれ)にはすでに始まっていた。学生とのあいだよりもむしろ先輩教員とのあいだに世代差を感じた。感覚的なものではあるが、振りかえってみると、1980年代頃を境にして、子どもたちと歴史文化との出会い方、あるいは歴史文化と大衆文化のありよう自体が大きく変わったのではないだろうか。こうした変化が、歴史研究のありかた自体にどのような影響を及ぼしているのか、あるいは全く影響はないのかは検討に値するテーマだと思う。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2025SatoEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 [email protected] ------------------------------------------ 【3】催事紹介:INAF新春講演会(第29回研究会)のご案内 SGRA会員で一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。興味のある方は直接お申込みください。 ◆INAF新春研究会(第29回研究会) [テーマ]「沖縄を戦場ではなく東アジア平和センターに」 [日 時]2025年2月21日(金)18:00~20:00時(オンライン、zoom) 今年は戦後80年を迎えるが、沖縄は依然としてアメリカ駐留軍の地で、そして近年には日本の自衛隊のミサイル基地を急速に進めており、火薬の匂いが漂い始めている。沖縄を戦場にするのか、それとも東アジアの平和センターにするのか?現在は歴史的な十字路に立たされている。そこで沖縄琉球新報で長年ジャーナリストとして活躍されていた野里洋先生を講師にお迎えし、沖縄の歴史と現実、そして未来に向けたビジョンについて語り、皆さんに沖縄のことを知っていただき、問題意識を共有することが目的である。 [プログラム] 講演者:野里洋(元琉球新報専務取締役、論説委員長、沖縄・石川県人会長) 討論者: 桑原豊(INAF顧問・元衆議院議員) 羽場久美子(INAF副理事長・青山学院大学名誉教授) 林泉忠(東京大学東洋文化研究所特任研究員・INAF理事・元琉球大学准教授) 詳細・参加方法はホームページをご覧ください。 https://inaf.or.jp/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
HE Xingyu “The Hardships of Raising Children in Different Cultures”
2025年1月30日 13:52:07
********************************************** SGRAかわらばん1048号(2024年1月30日) 【1】 エッセイ:何星雨「異文化における育児の苦境」 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン) 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送) 【3】催事紹介:NHK番組『ラストエンペラー溥儀:財宝と流転の人生』 *********************************************** 【1】何星雨「異文化における育児の苦境」 「かっさ」(監督:鄭暁龍、2001年上映)という中国映画がある。「かっさ」とは専用の板で背中をこすって皮膚を充血させ、様々な症状を改善する伝統的な中医療法である。映画では、米国で暮らす中国人3世代家族の子育てを取り巻く異文化間の葛藤を描写している。主人公は人前でも息子を厳しくしつけるべきだという文化信念を持ち実践していた。そして、主人公の父親は、ある日熱が出ている5歳の孫に「かっさ」の治療法を行った。後に息子の背中にある大面積の傷を医者に発見され、深刻な虐待の証拠として警察に通告される。さらに日常的な体罰を行っていたことも米国人の知人に指摘され、一家は強制的に親子分離を要求されることになった。中国文化に根差した親子観念、育児様式と西洋の人権観念、社会制度との間の矛盾は、その後親権をめぐる主人公と児童福祉施設との裁判で露呈する。 そうした葛藤が日本社会でも現実になるのはおかしなことではない。私は7年間、日本と中国の児童虐待について研究している。儒家文化に根差した親子観念は類似していたが、社会制度の変化とともに、現在の日本と中国では「児童虐待」の扱いが異なってきている。中国では親による子どもへの体罰が一般的な事象であり、極端な暴行を加えない限り、「良い家庭教育の方法」として認められると言っても過言ではない。日本では2000年に『児童虐待防止法』が制定されて以来、児童虐待の範囲がどんどん拡大されており、身体的・心理的な暴力やネグレクトを含めた不適切な養育が虐待として非難されている。また、虐待の疑いがあることに気づいたら、保育士や教師、小児科医など子どもに身近に関わる人だけでなく全国民が通告する義務を課せられた。 一方、日本では家族形態が多文化・多民族化の様相を呈している。法務省によると2023年6月時点で日本に中長期滞在している中国人は82万人を超え、国別1位。中国にルーツを持つ未成年の子どもも最多だ。中国の伝統文化に触れながら育てられている子どもが非常に多いということである。しかし「児童虐待」への扱いや認識の差異は、家庭という閉鎖的空間において育児を通して具現化される。中国人親にとっては育児の壁となり、また、日本社会での児童虐待防止に支障をきたす。 知り合いの中国人母親による出来事がきっかけで、異文化の児童虐待防止の課題を垣間見ることができた。この母親は子どもをしつけようと思い、つい2歳の子どもに体罰的な行動を行った。隣人が泣き声を聞いたのか、保育園の先生が体の傷に気づいたのか、自宅で児童相談所と警察から事情調査を受けることになった。母親はとてもショックを受け、混乱して「自分の子どもを虐待するわけがないのに」と大泣きしながら訴えたという。 こうした事例は珍しくない。生活経験を投稿できる「小紅書」(RED)という中国の人気ソーシャルメディアのアプリがある。そこでは類似した経験を訴えた日本在住の中国人母親による投稿が多数見られる。「親として自分の子どもを厳しくしつけるのはダメですか?」「育児は他人と関係ないのに通告されるのはなぜ?」など、日本の「児童虐待」への扱いや制度に対して困惑を感じているようだ。彼女たちを責めるつもりはない。日本語を知らない者もおり、日本語を知っていても日本の児童虐待に関する情報を知ることは難しい。ただ「これまでの文化信念=ちゃんとしつけようと思ったのに」vs.「現代日本の法制度=虐待者として疑われ、調査された」の苦境に立っており、「どうしつけすれば良いのか?」に関する的確な援助を必要とする。この苦境が親の育児ストレスに繋がり、より深刻な虐待に至る可能性があるからだ。 日本の児童虐待の早期予防に関する主な取組みは、日本人の虐待リスクを基準に成り立ったものであり、虐待のリスクを踏まえながら、母子保健や啓発活動などを通して親を支援することが基本である。しかし子育て中の親の持つ文化背景がどんどん多様化する中、虐待の早期予防に向かうリスクアセスメントに画一的な判定を使用しているのは適切ではないと考える。不思議に思うのは、「児童虐待」という子どもの権利に関する緊急性の高い課題を抱えているのに、これだけたくさん日本で暮らしている中国人や外国人の親たちが、日本の福祉制度の情報を入手しにくいため援助を受けられないことや、文化背景を配慮した育児に関する的確な援助がめったに提供されていないことである。私は児童虐待予防の視点から在日中国人親の子育てを支援していけたらと考えている。 <何星雨(か・せいう)HE_Xingyu> 中国・浙江省杭州市出身、2015年7月に来日。2023年度渥美財団奨学生。2024年3月に東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科を修了し、博士号を取得。日中両国の児童虐待予防に関心を持っている。現在は子どもの権利と保育に関する研究を続けながら東京家政大学、文教大学、女子栄養大学の非常勤講師として務めている。 ------------------------------------------ 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へーー不確実な未来への歩みを考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介:ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介:モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ------------------------------------------ 【3】催事紹介: SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレさんから、取材協力・監修されたNHK番組のお知らせをいただきましたのでご紹介します。 映像の世紀バタフライエフェクト ◆『ラストエンペラー溥儀:財宝と流転の人生』 本放送/2月3日(月)22:00~22:45 再放送/2月13日(木)23:50~00:35 20世紀、紫禁城から歴代王朝が蓄えてきた膨大な財宝が流出した。国宝級の名画「清明上河図」など1200点以上の書画を密かに持ち出したのは、最後の皇帝・溥儀だった。日本の傀儡国家・満州国の皇帝となり、終戦後はソ連に抑留、中国に戻され共産党の思想改造を受けた溥儀は、頼る相手を次々と変え、財宝を切り売りして生き延びた。権力に利用され続け、皇帝から一市民になるという数奇な生涯を送った男の流転と孤独の物語。 詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.nhk.jp/p/butterfly/ts/9N81M92LXV/episode/te/N1JP3YW9NR/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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CHANG Kuei-E “Panel Report on Mobility at EACJS#8”
2025年1月23日 16:50:08
********************************************** SGRAかわらばん1047号(2024年1月23日) 【1】張桂娥「第8回東アジア日本研究者協議会におけるモビリティに関するパネル報告」 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン) 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送) *********************************************** 【1】張桂娥「第8回東アジア日本研究者協議会におけるモビリティに関するパネル報告」 2024年11月8日(金)~10日(日)、台湾の新北市淡水区において「第8回東アジア日本研究者協議会国際学術大会」が開催され、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)から参加した4パネルの1つとして「物語空間におけるモビリティ:日本と台湾の児童文学における鉄道旅行の象徴」と「都市空間におけるモビリティ:多角的な視点からの探求」と題するパネルディスカッションが行なわれた。 第1部「物語空間におけるモビリティ:日本と台湾の児童文学における鉄道旅行の象徴」 本セッションでは、異なる文化や歴史的背景を有する日本と台湾の児童文学において鉄道旅行がどのように描かれ、異文化間の理解と交流を促進する役割を果たすのかが論じられた。 [日本児童文学における鉄道旅行] 最初の発表は、イタリア・ボローニャ大学のマリア・エレナ・ティシ先生による「日本児童文学における鉄道旅行」。ティシ先生は日本の児童文学における鉄道旅行の象徴性とその変遷について、近代から現代に至るさまざまな作品を取り上げた。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や小川未明の『負傷された線路と月』、さらに現代の絵本『きかんしゃやえもん』、『こんとあき』、『おばけでんしゃ』などが具体例として紹介され、鉄道旅行が近代化の象徴や夢、想像を掻き立てる対象から、懐かしさや安心感を伴う魔法的な乗り物へと変化している点を指摘。また、鉄道旅行が現実と幻想を兼ね備え、読者に深い問いを投げかける存在であること、そしてその過程で深遠なメッセージを伝える点が強調された。 コメンテーターの東京大学大学院助教・安ウンビョル先生は鉄道というモビリティテクノロジーを通じて児童文学が持つ社会的・文化的意義を深く掘り下げた点を高く評価した。さらに鉄道が日本における国家的な象徴性と結びついている点や、鉄道の表象が他のテクノロジーとどのように異なる特徴を持つのかについて、社会史的な視点から研究の可能性を示唆した。関西学院大学の齋木喜美子先生は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』における旅の過程の重要性や、日本の絵本における鉄道の役割について言及し、特に近年の児童文学において鉄道が子どもたちにとって親しみやすく魅力的な存在であり続けていることを指摘した。 [台湾児童文学における鉄道の役割とモビリティの象徴性] 次は、本パネルの企画者である張桂娥が「台湾児童文学における鉄道の役割とモビリティの象徴性─九歌版『年度童話選』(2003-2023)に登場する鉄道関連要素の考察」を発表。台湾におけるモビリティ研究の視座を取り入れ、21世紀の台湾児童文学における鉄道関連要素を中心に分析を行った。九歌版『年度童話選』(2003-2023)に収録された461編の作品の中で鉄道が象徴的に描かれた作品を取り上げ、鉄道や電車が登場人物の成長、冒険、自己発見の過程にどのように寄与しているのかを探求した。鉄道が単なる移動手段ではなく、登場人物の心理的成長や文化的アイデンティティの形成を象徴する存在として描かれている点が強調された。 コメンテーターの齋木先生は台湾における鉄道モチーフの作品が少ない点に触れ、沖縄の車社会を例に挙げて「軽便鉄道アヒィー」(野村ハツ子)のような絵本が存在するものの、子どもたちの生活に鉄道が関与する機会が少ないことが類似した状況を作り出していると述べた。その上で、今後鉄道に触れる機会が増えることで、新しい作品が登場する可能性に期待を寄せた。 [モビリティという概念は社会変化を捉える有効な枠組み] 「鉄道という乗り物の存在が日台の地域文化や歴史的背景とどのように結びついているのか」というフロアからの質問に、セッションを総括した座長である大阪教育大学の成實朋子先生と齋木先生は日台の児童文学における鉄道の描写を比較することで、モビリティの社会的・文化的な多様性が明らかになり、特に、日本の児童文学における鉄道旅行が近代化の象徴として、また夢や幻想を喚起する存在として描かれる一方、台湾では鉄道が急速に進展する都市化と地域文化との接点として描かれている点が注目されたという。 最後に、座長の成實先生がモビリティの発展が児童文学に与える影響についての議論が新しい視点を提供したことを評価し、モビリティという概念が社会変化を捉える有効な枠組みであることが確認されたと総括した。また、日台の児童文学に加え、他地域の作品や同時代の大人向け文学との比較を進めることで、さらなる研究の発展が期待できるとの見解を示した。 第2部「都市空間におけるモビリティ:多角的な視点からの探求」 2つ目のセッションでは都市におけるモビリティをテーマとし、複数の研究者が異なる視点から研究成果を発表した。 [東京圏の鉄道における外国人観光客の移動の実践に関する研究] 最初の発表は安ウンビョル先生による「東京圏の鉄道における外国人観光客の移動の実践に関する研究―モバイル・エスノグラフィーを手法にして―」であった。観光客が移動中に直面する問題や感覚的な体験を明らかにするとともに、鉄道という物理的な施設が観光客の視点からどのように意味づけられるかを論じた。観光客の移動を単なる移動手段ではなく、都市空間における新たな体験価値を創造するプロセスとして捉える視点を提示した点が、本研究の重要な貢献である。 台湾・中興大学の陳建源先生は研究の新規性を評価するとともに、その手法的課題について指摘した。特に、調査対象である外国人観光客の多様な背景を反映するデータ収集の必要性や、観察行為が観光客の行動に与える影響についての考察を求めた。 [CLILの授業実践から考察する日本のモビリティサービスの課題] 次に、台湾・東呉大学の田中綾子先生が「CLILの授業実践から考察する日本のモビリティサービスの課題―台湾JFL(Japanese_as_Foreign_Language)学習者を対象にしてー」と題する発表を行った。台湾人日本語学習者が日本の公共交通機関を利用する際に直面する課題を、内容言語統合型学習(CLIL)の枠組みを活用して考察した。学習者が交通サービスに関する知識を深める過程を分析し、それが日本語能力や訪日旅行への意欲にどのような影響を与えるかを論じ、日本語教育のシラバスに交通関連の内容を導入することの教育的意義について提言した。 台湾・開南大学の陳姿菁先生は本研究の独自性と応用可能性を高く評価する一方で、学習者の背景に基づくさらなる詳細な分析や対象範囲の拡大についての課題を提示した。 最後に座長である張桂娥が総括として、本セッションが都市モビリティに関する研究を文化的、教育的、技術的視点から多角的に考察した点を評価し、特に外国人観光客や日本語学習者といった多様な利用者の経験に焦点を当てた意義を強調した。また、教育と技術の連携を通じた公共交通サービスの改善が、都市の持続可能な発展に寄与する可能性についても触れた。 多文化的視点を取り入れた研究が現実社会の課題解決にいかに貢献できるかが明らかにされたことは重要な成果である。本セッションで得られた議論の成果は今後のモビリティ研究や教育実践にとっても大きな示唆を与えるものであり、持続可能な交流と相互理解の深化に寄与する可能性を秘めている。 [モビリティという概念が持つ広がりと深さと学際的研究の可能性] 今回の4本の研究発表の成果を総括すると、都市空間と物語空間におけるモビリティのメタ概念が、それぞれ補完的な視点で深く探求されたことが明確に見えてくる。都市空間におけるモビリティは物理的な移動や社会的な機能にとどまらず、文化的、教育的、そして体験的な側面をも包含し、個人やコミュニティにとっての意味を再定義するものとして捉えられる。一方、物語空間におけるモビリティは物理的な移動が持つ象徴的な意味や、登場人物の成長、自己発見、さらには文化的アイデンティティの形成に深く関わる側面として現れた。 これらの研究を通じて、都市空間と物語空間におけるモビリティが互いに補完し合う形で学術的に展開される可能性が示唆された。都市空間のモビリティは物理的な移動とともに社会的・文化的な変革を促す力を持っている一方、物語空間のモビリティは個々の登場人物がどのように自己を発見し、文化的アイデンティティを形成していくかという象徴的・哲学的な側面を内包している。両者は異なる領域でありながらモビリティという概念が持つ広がりと深さを示しており、今後の学際的な研究において都市と物語の相互作用を探ることで、新たな知見が生まれることが期待される。 ポストコロナの時代においてこそ、人々の往来の意義や移動の真価を再確認することが急務である。こうした時期に手厚いサポートとともに、多国籍の学者たちと我が出身国である台湾で知的交流を深める素晴らしい機会を提供してくださった渥美国際交流財団には、深く感謝の意を表す。また、遠路はるばる「移動」して一堂に会した報告者、討論者、座長(司会)を務めた先生方に対しても、改めて感謝の意を申し上げたい。(文中敬称略) 当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/EACJS2024MobilityPhoto.pdf <張 桂娥(ちょう・けいが)CHANG_Kuei-E> 台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日台児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へー不確実な未来への歩みを共に考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介 ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介 モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ ********************************************* -
GUO Lifu “Asian Cultural Dialogue ‘The Limits and Possibilities of Freedom’ Report”
2025年1月16日 21:18:24
********************************************** SGRAかわらばん1046号(2024年1月16日) 【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告 郭立夫「アジア文化対話『自由の限界と可能性』~『自由』の視点から現代社会の多様性を探る」 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン) 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送) *********************************************** 【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告 ◆郭立夫「アジア文化対話『自由の限界と可能性』~『自由』の視点から現代社会の多様性を探る」 2020年代も半ばに差し掛かった現在、言論の自由や人権保障といった民主社会を支える最も基本的な倫理的前提が新たな挑戦に直面している。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ紛争といった国際的な紛争、少子高齢化や若年層の貧困問題といった日本国内における課題まで、私たちの社会は不安と恐怖を伴う多くの困難に直面している状況だ。 こうした中、政治的保守勢力は、複雑かつ国境を超えた宗教、政治、経済ネットワークを通じて連携を強め、社会の周縁に位置するマイノリティ――少数民族、移民、労働者、性的マイノリティなど――を、人類社会の進歩や伝統的な宗教文化的価値観、民主的制度、さらには社会の安定そのものを脅かす存在として再構築しつつある。これらの動きは、多様性と自由を否定するだけでなく、「自由」という概念そのものを見直す必要性を私たちに問いかけている。現代社会の基本的、倫理的前提として位置づけられてきた「自由」は、果たして今日の複雑化する社会問題に対抗するうえで十分なものか。また、「自由」をめぐる闘いには新たな可能性が存在するのか。これらの問いに向き合うことは、現代に生きる私たちにとって喫緊の課題だ。 2024年8月10日から11日にかけて、タイのチュラーロンコーン大学にて開催された「自由の限界と可能性」と題する第7回アジア文化対話の円卓会議が、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の主催で開催された。事例に根ざした議論と意見交換が繰り広げられ、主にアジアの文化や社会における自由の意味や実践について検討した。会議では学術的な議論に加えて学者、研究者そして活動家の間の経験共有と交流が重視された。 ◇プログラム 【1日目】 司会:Sonja・PF・Dale(アジア文化対話プログラムディレクター) 発表1:Yingcheep・Atchanont(iLawディレクター) 討論:Jose・Jowel・Canuday(アテネオ・デ・マニラ大学准教授)/Carine・Jaquet(独立研究者)/郭立夫(筑波大学助教) 発表2:Miki・Dezaki(独立ドキュメンタリー映画監督) 発表3:Bonnibel・Rambatan(New_Naratif編集長) 討論:Jose・Jowel・Canuday/Mya・Dwi・Rostika(大東文化大学講師)/郭立夫 【2日目】 司会:Sonja・PF・Dale 発表1:Nyi・Nyi・Kyaw 発表2:Thigala・Sulathireh(Justice_for_Sisters) 討論:武内今日子(関西学院大学助教)/Carine・Jaquet 会議は3つのセッションから構成された。 1日目の発表1では「タイの自由」を調査・記録してきたiLawという非政府組織(NGO)リーダーのYingcheep・Atchanont氏が、タイにおける君主の尊厳に対する不敬罪などを定めた「レーザー・マジェステ法」を始めとする自由の制約について紹介、議論が交わされた。そこからタイ社会における少数民族問題や情報アクセスの制約まで展開し、公式文書公開の必要性や、何を持って自由を享受すべきかを検討した。 発表2では「表現の自由」を主題に、独立ドキュメンタリー映画監督のMiki・Dezaki氏が自身の体験に基づいて慰安婦問題をテーマとしたドキュメンタリーを日本で上映した後に遭遇したバッシングという自身の体験に基づき、日本の右翼文化を指摘した。「言論の自由」を掲げながらも、右翼団体や活動家たちが言論に制限をかけようとしている矛盾した様子が実体験として共有された。 発表3では、主にインドネシアで活動するオンライン情報プラットフォームのNew_Naratifの編集長Bonnibel・Rambatan氏が、アジアにおける3つの「自由の技術」に関する分析を提示し、既存の価値観や物質的基盤、アルゴリズムがもたらす影響について発表。これまで冷静かつ客観的とされてきた科学技術も実際は人の自由を制限する武器として利用されることを明らかにし、科学技術の力を自由を守るためのものにするためのアプローチについて提案した。 2日目のセッションでは「存在する自由」に着目し、Nyi・Nyi・Kyaw氏が南東アジアにおける移住の問題を提起した。ミャンマーのクーデターの例など、実践に根ざした詳細な報告と検討が行われた。続いて、Justice_for_SistersのThilaga・Sulathireh氏がクィア・フェミニズムの観点から、マレーシアにおける性的マイノリティのLGBTQコミュニティーが目指す実践について発表した。 通底する議論は「自由」の視点から現代社会の多様性を探るものであり、論者たちの主張や経験はアジア全体に広がる問題を提起していた。参加者は「自由が広がる」とはどのような状況が展開されるのかを議論しながら、文化対話的な観点を提示した。何が自由を促進し、何が自由をそぐのかに関する議論は、参加者自身の問題意識を深めるものとなった。これらの議論から見出された制約の要因や自由の展望については、さらなる分析や討論の次の機会へとつながる要素を含んでいる。特に現代社会の多様性を議論する中で、自由の意味を再定義する視野の必要性も明らかになった。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/acdphotos-small.pdf <郭立夫(グオ・リフ)GUO_Lifu> 2012年から北京LGBTセンターや北京クィア映画祭などの活動に参加。2024年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻で博士号を取得。現在筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局助教。専門領域はフェミニズム・クィアスタディーズ、地域研究。 研究論文に、「中国における包括的性教育の推進と反動:『珍愛生命:小学生性健康教育読本』を事例に」小浜正子、板橋暁子編『東アジアの家族とセクシュアリティ:規範と逸脱』(2022年)、「終わるエイズ、健康な中国:China_AIDS_Walkを事例に中国におけるゲイ・エイズ運動を再考する」『女性学』vol.28, 12-33(2020 年)など。 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へー不確実な未来への歩みを共に考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介 ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介 モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 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