SGRAメールマガジン バックナンバー

  • HUANG Jo Hsiang “What Studying in Japan Taught Me”

    ********************************************** SGRAかわらばん1052号(2025年2月27日) 【1】SGRAエッセイ:黄若翔「日本留学が教えてくれたこと~比較法の重要性と人との出会い~」 【2】国史対話エッセイ紹介:金賢善「歴史と私」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#784 ◆黄若翔「日本留学が教えてくれたこと~比較法の重要性と人との出会い~」 2016年4月、私は東京大学大学院法学政治学研究科修士課程に入学し、労働法を専攻することになりました。それまで台湾の大学で法学を学んできましたが、日本の大学院で学ぶことは私にとって大きなチャレンジでした。 東京大学の労働法の指導教員や先輩たちは、私を暖かく迎え入れてくれました。ゼミでは活発な議論が行われ、教授からは丁寧な指導を受けることができました。当時労働法専攻の大学院生は私1人だけで、寂しさを感じることもありました。日本語での議論についていくのは容易ではなく、日本の社会や文化になじむのにも時間がかかりました。 そんな中、私は渥美国際交流財団に出会いました。財団の奨学金を受け、イベントに参加したりする中で、同じように日本で学ぶ留学生たちと交流を深めることができました。来日6年目にして、初めて日本で帰属意識を感じる場所が見つかりました。母国を離れ、異国の地で学ぶ私たちにとって、渥美財団は心の支えとなりました。財団を通して出会った友人たちは、今でも大切な存在です。 振り返ってみると、「留学」を通じて初めて比較法の重要性と価値を理解することができました。どの国でも、市場の背景や社会状況は異なりますが、共通の問題点が存在することに気づきました。この共通認識を踏まえた上で、各国の市場背景の違いなどに基づいて法政策を分析することが可能になるのです。 例えば、学部時代に台湾大学法学部で日本の労働法に関する論文を読む機会がありました。東亜ペイント事件の判決で示された転勤命令について、業務上の必要性がない場合や不当な動機・目的がある場合や、労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合」等、特段の事情がない限り権利の濫用に当たらないとされた点が当時は理解できませんでした。日本の判例法理はなぜ使用者の配転命令をそこまで認めるのだろうと疑問に思っていました(東大法学政治学研究科への入学にあたり、この問題意識とワークライフバランスをテーマに研究計画書を提出しました)。 その後、東大で本格的に労働法を学ぶ中で、日本の労働市場が長期雇用慣行・終身雇用制を採用し、厳しい解雇規制によってこの制度が支えられていることを理解しました。特に能力不足の労働者に対する解雇制限が極めて厳しい状況で、使用者に広範な配転命令権を認めることで、不適任の労働者を他の部門に配置換えできるようにし、長期雇用慣行と厳しい解雇規制を成り立たせていることが初めて分かりました。 逆に、台湾の労働市場は雇用の流動性が高く、能力不足の労働者に対する解雇に関する規制が相対的に緩やかであり、これが台湾及び日本の法政策の違いを浮き彫りにしています。日本へ留学しなかったら、他者の目となって自国や他国の法制度を分析する機会は得られず、比較法という学問の真髄を体験することは難しかったかもしれません。 大学院での研究は決して楽なものではありませんでしたが、指導教員や先輩、そして渥美財団の支援があったからこそ、乗り越えることができました。日本での経験は、私の人生を大きく変えてくれました。日本の社会や文化に触れ、多様な価値観に出会ったことで、視野が広がりました。 渥美財団で出会った仲間たちとは今でも交流を続けており、互いに刺激し合いながらそれぞれの道を歩んでいます。日本留学は、私にとってかけがえのない経験となりました。東京大学の恩師や先輩方、渥美財団の皆様には心から感謝しています。これからも日本と台湾の架け橋となるべく、研究と教育に励んでいきたいと思います。 <黄若翔 HUANG_Jo-Hsiang> 台湾の新竹県で生まれ育つ。中学校卒業後台北に進学し、国立台湾大学法学部を卒業(2016)。同年、思鴻教育財団の奨学金を得て、日本の東京大学大学院法学政治学研究科へ留学し、修士号(2019)および博士号(2024)を取得。在学期間中、東京大学先端ビジネスロー国際卓越大学院奨学生、渥美財団奨学生および日本学術振興会特別研究員(DC2)に選出される。博士号取得後、日本独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)にて研究助手を務めた。現在は台湾の国立清華大学科技法律研究所に助理教授として勤めている。 ------------------------------------------ 【2】国史対話エッセイ紹介 昨年12月18日に配信した国史対話メールマガジン第63号のエッセイをご紹介します。 ◆金賢善「歴史と私」 私は、他の先生方のように渦巻く歴史のど真ん中に立たされたわけでもなかったし、だからといって強い使命感で歴史の勉強を始めたわけでもない。そのため、先生方の前で自分を「歴史家」と名乗ることすら気恥ずかしく感じる。この文章では、壮大な物語でも優れているわけでもいない自分の研究について、ただ単に若い歴史家の旅程とその悩みを率直に述べたい。 学生時代、私は特別な才能もなく、また世界を眺める視野も非常に狭かった。教科の中で最も好きな科目が国史(訳注:韓国史)であり、単純に教員採用試験を受けて先生になろうという思いで史学科に入学した。大学3年生の時、偶然学校の支援を受けてスペインのバレンシアへボランティア活動に行くことになった。当時、旅行者があまり多くはなかったスペインの小さな田舎町でも、さりげなくある中国系の商店と飲食店を見かけた。この経験は私の中国に対する好奇心を刺激した。ボランティア活動を終え、フランスとベルギー、イタリアを一人で旅行しながら、地理的に近い中国と韓国が欧州連合のように統合し共存できない理由について考えた。スペインでのボランティア活動とヨーロッパ旅行を通じて私は漠然と中国について勉強する夢を見始めた。 旅を終えた後、中国へ行くことを決意した。アルバイトをし、中国のハルビンで語学研修を始めた。新しい言語と文化を学ぶことはとても楽しかったし、中国で生活する間、中国についてもっと勉強したいという思いがより切実になった。しかし、私の切実さとは裏腹に、周辺の人々は「歴史学を勉強してまともに生計を立てることができるか」と心配し、私を慰留した。その上、私には大学院の学費と生活費を賄える力さえなかった。強がりだったかもしれないが、引き止める友人に対して私は、お金を稼げなくても「一生ブランド物のカバンを持てなくても後悔しなさそう」と言った。その後、借金をして大学院に入学した。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024KimHyunsunEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 [email protected] ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • CHANG Jun-shi “At the Crossroads of the Paths of Academia Researchers and Working Professionals”

    ********************************************** SGRAかわらばん1051号(2024年2月20日) 【1】SGRAエッセイ:チャン・ジュンシ「アカデミア研究者と社会人の道の岐路で」 【2】寄贈本と記念イベント紹介:『青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち』 【3】催事紹介:NHKスペシャル『トランプ流“ディール”戦争と平和の行方は』 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#783 ◆チャン・ジュンシ「アカデミア研究者と社会人の道の岐路で」 2024年9月に博士号を取得する際、アカデミア研究者としてのキャリアを追求するか、あるいは企業の世界へ移行するか、という選択を迫られました。日本での留学経験を振り返ると、すべては9年前に名古屋大学の学部プログラムに入学したときから始まります。この経験が学問的に豊かになるだけでなく、個人的な成長や文化への没頭の貴重な機会を与えてくれたからです。 学部時代に私が参加したグローバル30というプログラムは、様々な国や背景からの学生を受け入れていました。多様なバックグラウンドを持つクラスメートとの交流は新しい文化や視点を学ぶ機会となり、ハイキングやジャズ音楽など多くの新しい興味を見出すこともできました。その後は東京大学大学院に進学し、修士課程を修了、博士課程に進みました。博士課程は私の人生において最も挑戦的で、かつ充実した経験の一つでした。 まず、博士課程は非常に時間とエネルギーを要するものであることを強く実感しました。研究や論文執筆に集中するためには、日々の時間管理と自己犠牲が欠かせませんが、このプロセスを通じて、自己管理能力や粘り強さを向上させることができました。また、数々の試練や挫折に直面しながらも、それらを乗り越える戦略を身につけることができました。「擬似天然チオペプチド創薬プラットフォームの開発」という研究テーマが異なる学問領域や専門知識の統合を必要とする複雑な問題に関連するため、様々な学際的なアプローチが求められました。さらに、博士課程は独自の研究を行い、その過程で自己表現と創造性を発揮する場でもあります。自分自身のアイデアや仮説を探求し、それらを実証するための研究を進めることは非常に豊かな体験でした。新しい知識や発見を生み出す喜びは、私の努力への報酬であり、研究への情熱をさらに燃やしました。 これらの9年間を通じて自分の強みや弱みを理解し、克服する方法を見つけたことは、私のキャリアと人生の中で非常に重要なスキルになると感じています。多様な学術的追求に参加し、最先端の研究に没頭し、同僚や指導者と意義深いつながりを築いてきたことで、学生として、そして学術研究者としての生活は充実していました。時折疲れることもありましたが、そのような困難にも関わらず、興味を追求し、情熱を存分に追求する自由を大切にしてきました。 いざ卒業、となった時に根本的な問いに直面しました。基礎研究や教育を通じて知識とイノベーションを推進するために学術の道を進むべきか、それとも企業や産業の環境で専門知識を活かすべきか。産業界でのキャリアはより快適で安定した生活を約束するかもしれませんが、個人的な興味に没頭する自由を手放すことが心に重くのしかかります。 自分の旅を振り返ると、私は常に社会に意味のある貢献をし、影響力のある発見をすることを志してきました。この志が学術的努力を通じて研究の機会を追求し、直面する課題に立ち向かうよう私を導き、実験室、教室、文化的浸透のいずれの経験でも私の視野を広げる原動力となっています。 私は幸運に恵まれ、博士課程で行った研究を続けることができるスタートアップに参加することになりました。ここで世界に意味のある貢献をし、イノベーションを起こし、積極的な変化をもたらすという強い使命感に駆られています。 <チャン・ジュンシ CHANG Jun-shi> クアラルンプール出身。2015-2019:名古屋大学理学部化学科学士(阿部研究室)、2019-2021:東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程 (菅研究室)、2021-2024:同博?課程。現在はDayra_Therapeutics社勤務。 ------------------------------------------ 【2】寄贈本と記念イベント紹介『青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち』 SGRA会員で青山大学教授の韓京子さんより新刊書と出版記念イベントのお知らせをいただきましたのでご紹介します。 ◆『青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち』 本書は、青学15周年記念企画で大学の予算で非売品として出版したものです。表紙の詩人は白石という有名な詩人で北朝鮮に渡り亡くなっています。北朝鮮に渡ったということで、私が学生の頃はあまり知られておりませんでした。この人の写真が唯一学院の学生調書に残っていたので表紙に使われています。(装幀も青学出身者が関わっています)企画を立てた小松先生が、韓国の詩にご興味がある方です。朝鮮における西洋童話の翻訳に青学出身者が関わっていたことを、たまたま知り、小松先生にお話したところ、青学出身の文学者はどれくらいいたんだ?という疑問から調べて本にしようということになりました。 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aoyama.ac.jp/faculty113/2024/news_20241127_01 ◆出版記念イベント「青山学院出身近代韓国文学者たちの生の軌跡と文学」 日時:2025年3月15日(土)14:00~16:30(13:30~受付) 場所:青山キャンパス11号館1134教室 ※どなたでもご参加いただけます。事前申込不要。 プログラム: ■第1部:学生による詩の朗読「日本語・韓国語で読む青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たちの詩」 解説:小松靖彦教授(青山学院大学文学部日本文学科) 朗読:青山学院大学文学部日本文学科3年生、2年生 ■第2部:トークショー「日韓文学史と青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たち」 登壇:熊木勉教授(天理大学国際学部韓国・朝鮮語学科)、韓京子教授(青山学院大学文学部日本文学科) 司会:小松靖彦教授 ■第3部:ミニコンサート「青山学院で学んだ韓国朝鮮の文学者たちを想う」 ピアノ弾き語り:沢知恵氏が金東鳴の詩《こころ》(金素雲訳)をうたう 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aoyama.ac.jp/post02/2024/event_20250218_01 ------------------------------------------ 【3】催事紹介 SGRA会員でオックスフォード大学日本研究所研究員のオリガ・ホメンコさんから、ウクライナに関して取材協力したNHK番組のお知らせをいただきましたのでご紹介します。 ◆NHKスペシャル『トランプ流“ディール”戦争と平和の行方は』 本放送/2月22日(土)22:00~22:50 再放送/2月26日(水)0:35~1:26 “ディール”で世界を衝撃の渦に巻き込むトランプ大統領。プーチン大統領と電話会談し、戦闘の終結に向け交渉が動き始めた。一方、ロシアが容易には妥協しない状況も。欧米から“史上最大”の制裁を科される中でも、経済が“好調”を維持、軍事への巨額投資が社会を潤す“死の繁栄”の実態が見えてきた。一方日本近海では、ロシアの核兵器をめぐる不穏な動きも。トランプ流“ディール”で戦争は終わるのか。日本に迫るリスクとは。 詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/L1PXQZVLXP/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Robert KRAFT “History and Beauty”

    ********************************************** SGRAかわらばん1050号(2024年2月13日) 【1】SGRAエッセイ:ロバート・クラフト「歴史(学)と<美>」 【2】国史対話エッセイ紹介:佐藤雄基「歴史と私(なぜ歴史研究者になったか)」 【3】催事紹介:INAF新春講演会(第29回研究会) 「沖縄を戦場ではなく東アジア平和センターに」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#782 ◆ロバート・クラフト「歴史(学)と<美>」 長い間一つの研究課題に取り組んでいると、もともとは知的興奮から選んだテーマでも、いつの間にか味気なくなってしまうという経験をしたことがある研究者は少なくないだろう。私も長年にわたって歴史研究に従事する過程で頭が疲れることがあり、その際に、失われつつあった「思考散歩」の楽しさを再び感じさせてくれたのは、一人の先輩との対話であった。そのなかでの話題に歴史(学)と「美」の関係があった。以下にそのときに湧いてきたとりとめのない考えを少しまとめてみたい。 まずは、歴史が美的判断の対象となり得るかどうかという問題である。そういった判定につながる観察の対象となり得る客観としての「歴史自体」のようなものはないであろう。歴史はむしろ人間の作ったストーリーであり、ストーリーテリングから切り離しては存在しない。確かに、単に過去のものとその変遷を「歴史」と定義すれば、人間がそれを物語ることを必要条件としない存在があるといえるかもしれない。しかし、それがひとたび「歴史」になると、その存在は消える。この一度消えた存在を復活させて現在共有できるのは、結局人間の物語る歴史である。歴史学もその一種に違いない。 では、ストーリーとしての歴史は美的判断の対象となり得るだろうか。私は、なり得ると思う。ただし、このストーリーとしての歴史の何を対象にするかにより、判断の性質が異なってくると考えられる。 例えば、(一)芸術としての歴史を対象とし、その「美」を判断する場合は純粋な美的判断に近いといえよう。歴史小説や詠史、歴史映画など、おそらくどのような歴史叙述でも、それなりに芸術的な観点から美的判断をくだすことが可能であろう。ただし、歴史学に関していえば、あくまで私見だが、多くの研究書は、客観性を高めようと努めているためか、言語用法がかなりテクニカルであり、そこに「美」を認めることは難しい。 他方、(二)歴史として語られるものを対象とする場合、美的判断が純粋ではなくなることがある。社会の激変に直面する人間が過去を美化する現象がその例として挙げられる。近代において産業化・資本主義化・都市化していく社会から失われてしまう過去の美風に憧れた人々にとっては、その客観、すなわち彼らの見た「歴史」は美しく見えたのであろう。デジタル化に伴ってまだ把握しきれない変化を受けている現代社会においても似たような傾向があるように思われる。しかし、この場合、憧れる過去の美風は単に「美しい」だけではなく、「善い」ものでもあり、理性を介し概念をつうじて理解されるようである。すなわち、それには社会・美風が何であるべきかというある目的の概念が含まれ、さらには「そういう美風のある社会に生きたい」「社会にそうあって欲しい」というような、ある種の関心が含まれているのである。 歴史学の文脈においてはどうか。歴史学者が過去の「美」を掘り出そうとすることもまれにあるかもしれないが、普段は研究対象とする人物や事象を批判的な目で見ている。私も自らの研究で過去の思想家が書いた文章を読んでいる際に、その美しい語句や一見して崇高な思想に対して美的感情を抱くことはあるが、その裏にあるさまざまな問題を分析していくにつれて、その美しさがだんだん?がれ落ちていく。その理由は、単に観察において対象を判定するのみならず、そこに何らかの道徳的観念が関与してくるからだと思う。歴史学の研究対象が人間と人間社会である以上、その対象をめぐる判断には、人間がどうあるべきかという目的の概念および人間にどうあって欲しいかという関心が含まれてくるのは当然である。美しいと判断しても、その場合の「美」は「善」と結びあっており、あえていえば「随伴的な美」である。歴史研究の一つの意義が過去から教訓を得ることにあるとすれば、この研究には現代社会をより善いもの、より美しいものにする可能性もあるのではないだろうか。 <ロバート・クラフト Robert_KRAFT> ドイツ出身。2010年から2018年までライプツィヒ大学(ドイツ)で日本学を専攻。学士課程と修士課程においてそれぞれ1年間千葉大学に短期留学。2019年に筑波大学の日本史学の博士課程に編入学。2024年に博士号(文学)を取得。 ------------------------------------------ 【2】国史対話エッセイ紹介 1月29日に配信した国史対話メールマガジン第64号のエッセイをご紹介します。 ◆佐藤雄基「歴史と私(なぜ歴史研究者になったか)」 私が歴史に興味をもったのは、小学生の頃、何気なく手にとった学習マンガがきっかけだった。戦国時代の武田信玄や豊臣秀吉の人生を子ども向けに描いたもので、現代とは異なる舞台で、子ども心に憧れを抱くような英雄たちの物語に胸を躍らせた。 その前には、中世風の異世界を舞台にした『ドラゴンクエストⅢそして伝説へ…』(1988年)のようなロールプレイングゲーム(RPG)(物語の中の登場人物になって体験するゲーム)に夢中になっていた。さらに遡れば、トムソーヤの冒険のような少年向けの物語も好きだった。だから、戦国武将の英雄譚には馴染みやすかったのかもしれない。ただし、歴史はドラクエのようなフィクションとは異なり、『「本当にあった話」で、調べれば調べるほど、関連するコンテンツが無限に出てきて、いろいろなものが関連し合う底なし「沼」だった。歴史上の人物になりきって、追体験するような空想に耽るのが好きだった。自分の身の回りの日常とは異なる未知の、しかしフィクションではなく、この地球上にかつては確かに存在していた世界。その中に自分が入り込み、いろいろな体験をしている気になっていた。現実の私は、地方都市に住む平凡な子どもで、本当に狭い世界の中で、日々を暮らしていたのだが。 その後はTVゲームの影響が大きかった。家庭用ゲームが普及した1980-90年代に生まれ育った私の前後の世代の中世史研究者には、戦国時代を舞台にした国盗りゲームである『信長の野望』シリーズに夢中になって歴史に興味を持ったという人が多い。大学教員になったとき、年配の先輩教員から、「ゲームやマンガ、ドラマの影響で歴史に興味を持ち、史学科に入ってくる学生が最近は多い」と嘆かれたが、その傾向は私の世代(1981年生まれ)にはすでに始まっていた。学生とのあいだよりもむしろ先輩教員とのあいだに世代差を感じた。感覚的なものではあるが、振りかえってみると、1980年代頃を境にして、子どもたちと歴史文化との出会い方、あるいは歴史文化と大衆文化のありよう自体が大きく変わったのではないだろうか。こうした変化が、歴史研究のありかた自体にどのような影響を及ぼしているのか、あるいは全く影響はないのかは検討に値するテーマだと思う。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2025SatoEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 [email protected] ------------------------------------------ 【3】催事紹介:INAF新春講演会(第29回研究会)のご案内 SGRA会員で一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。興味のある方は直接お申込みください。 ◆INAF新春研究会(第29回研究会) [テーマ]「沖縄を戦場ではなく東アジア平和センターに」 [日 時]2025年2月21日(金)18:00~20:00時(オンライン、zoom) 今年は戦後80年を迎えるが、沖縄は依然としてアメリカ駐留軍の地で、そして近年には日本の自衛隊のミサイル基地を急速に進めており、火薬の匂いが漂い始めている。沖縄を戦場にするのか、それとも東アジアの平和センターにするのか?現在は歴史的な十字路に立たされている。そこで沖縄琉球新報で長年ジャーナリストとして活躍されていた野里洋先生を講師にお迎えし、沖縄の歴史と現実、そして未来に向けたビジョンについて語り、皆さんに沖縄のことを知っていただき、問題意識を共有することが目的である。 [プログラム] 講演者:野里洋(元琉球新報専務取締役、論説委員長、沖縄・石川県人会長) 討論者: 桑原豊(INAF顧問・元衆議院議員) 羽場久美子(INAF副理事長・青山学院大学名誉教授) 林泉忠(東京大学東洋文化研究所特任研究員・INAF理事・元琉球大学准教授) 詳細・参加方法はホームページをご覧ください。 https://inaf.or.jp/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • HE Xingyu “The Hardships of Raising Children in Different Cultures”

    ********************************************** SGRAかわらばん1048号(2024年1月30日) 【1】 エッセイ:何星雨「異文化における育児の苦境」 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン) 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送) 【3】催事紹介:NHK番組『ラストエンペラー溥儀:財宝と流転の人生』 *********************************************** 【1】何星雨「異文化における育児の苦境」 「かっさ」(監督:鄭暁龍、2001年上映)という中国映画がある。「かっさ」とは専用の板で背中をこすって皮膚を充血させ、様々な症状を改善する伝統的な中医療法である。映画では、米国で暮らす中国人3世代家族の子育てを取り巻く異文化間の葛藤を描写している。主人公は人前でも息子を厳しくしつけるべきだという文化信念を持ち実践していた。そして、主人公の父親は、ある日熱が出ている5歳の孫に「かっさ」の治療法を行った。後に息子の背中にある大面積の傷を医者に発見され、深刻な虐待の証拠として警察に通告される。さらに日常的な体罰を行っていたことも米国人の知人に指摘され、一家は強制的に親子分離を要求されることになった。中国文化に根差した親子観念、育児様式と西洋の人権観念、社会制度との間の矛盾は、その後親権をめぐる主人公と児童福祉施設との裁判で露呈する。 そうした葛藤が日本社会でも現実になるのはおかしなことではない。私は7年間、日本と中国の児童虐待について研究している。儒家文化に根差した親子観念は類似していたが、社会制度の変化とともに、現在の日本と中国では「児童虐待」の扱いが異なってきている。中国では親による子どもへの体罰が一般的な事象であり、極端な暴行を加えない限り、「良い家庭教育の方法」として認められると言っても過言ではない。日本では2000年に『児童虐待防止法』が制定されて以来、児童虐待の範囲がどんどん拡大されており、身体的・心理的な暴力やネグレクトを含めた不適切な養育が虐待として非難されている。また、虐待の疑いがあることに気づいたら、保育士や教師、小児科医など子どもに身近に関わる人だけでなく全国民が通告する義務を課せられた。 一方、日本では家族形態が多文化・多民族化の様相を呈している。法務省によると2023年6月時点で日本に中長期滞在している中国人は82万人を超え、国別1位。中国にルーツを持つ未成年の子どもも最多だ。中国の伝統文化に触れながら育てられている子どもが非常に多いということである。しかし「児童虐待」への扱いや認識の差異は、家庭という閉鎖的空間において育児を通して具現化される。中国人親にとっては育児の壁となり、また、日本社会での児童虐待防止に支障をきたす。 知り合いの中国人母親による出来事がきっかけで、異文化の児童虐待防止の課題を垣間見ることができた。この母親は子どもをしつけようと思い、つい2歳の子どもに体罰的な行動を行った。隣人が泣き声を聞いたのか、保育園の先生が体の傷に気づいたのか、自宅で児童相談所と警察から事情調査を受けることになった。母親はとてもショックを受け、混乱して「自分の子どもを虐待するわけがないのに」と大泣きしながら訴えたという。 こうした事例は珍しくない。生活経験を投稿できる「小紅書」(RED)という中国の人気ソーシャルメディアのアプリがある。そこでは類似した経験を訴えた日本在住の中国人母親による投稿が多数見られる。「親として自分の子どもを厳しくしつけるのはダメですか?」「育児は他人と関係ないのに通告されるのはなぜ?」など、日本の「児童虐待」への扱いや制度に対して困惑を感じているようだ。彼女たちを責めるつもりはない。日本語を知らない者もおり、日本語を知っていても日本の児童虐待に関する情報を知ることは難しい。ただ「これまでの文化信念=ちゃんとしつけようと思ったのに」vs.「現代日本の法制度=虐待者として疑われ、調査された」の苦境に立っており、「どうしつけすれば良いのか?」に関する的確な援助を必要とする。この苦境が親の育児ストレスに繋がり、より深刻な虐待に至る可能性があるからだ。 日本の児童虐待の早期予防に関する主な取組みは、日本人の虐待リスクを基準に成り立ったものであり、虐待のリスクを踏まえながら、母子保健や啓発活動などを通して親を支援することが基本である。しかし子育て中の親の持つ文化背景がどんどん多様化する中、虐待の早期予防に向かうリスクアセスメントに画一的な判定を使用しているのは適切ではないと考える。不思議に思うのは、「児童虐待」という子どもの権利に関する緊急性の高い課題を抱えているのに、これだけたくさん日本で暮らしている中国人や外国人の親たちが、日本の福祉制度の情報を入手しにくいため援助を受けられないことや、文化背景を配慮した育児に関する的確な援助がめったに提供されていないことである。私は児童虐待予防の視点から在日中国人親の子育てを支援していけたらと考えている。 <何星雨(か・せいう)HE_Xingyu> 中国・浙江省杭州市出身、2015年7月に来日。2023年度渥美財団奨学生。2024年3月に東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科を修了し、博士号を取得。日中両国の児童虐待予防に関心を持っている。現在は子どもの権利と保育に関する研究を続けながら東京家政大学、文教大学、女子栄養大学の非常勤講師として務めている。 ------------------------------------------ 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へーー不確実な未来への歩みを考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介:ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介:モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ------------------------------------------ 【3】催事紹介: SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレさんから、取材協力・監修されたNHK番組のお知らせをいただきましたのでご紹介します。 映像の世紀バタフライエフェクト ◆『ラストエンペラー溥儀:財宝と流転の人生』 本放送/2月3日(月)22:00~22:45 再放送/2月13日(木)23:50~00:35 20世紀、紫禁城から歴代王朝が蓄えてきた膨大な財宝が流出した。国宝級の名画「清明上河図」など1200点以上の書画を密かに持ち出したのは、最後の皇帝・溥儀だった。日本の傀儡国家・満州国の皇帝となり、終戦後はソ連に抑留、中国に戻され共産党の思想改造を受けた溥儀は、頼る相手を次々と変え、財宝を切り売りして生き延びた。権力に利用され続け、皇帝から一市民になるという数奇な生涯を送った男の流転と孤独の物語。 詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.nhk.jp/p/butterfly/ts/9N81M92LXV/episode/te/N1JP3YW9NR/ ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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  • CHANG Kuei-E “Panel Report on Mobility at EACJS#8”

    ********************************************** SGRAかわらばん1047号(2024年1月23日) 【1】張桂娥「第8回東アジア日本研究者協議会におけるモビリティに関するパネル報告」 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン) 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送) *********************************************** 【1】張桂娥「第8回東アジア日本研究者協議会におけるモビリティに関するパネル報告」 2024年11月8日(金)~10日(日)、台湾の新北市淡水区において「第8回東アジア日本研究者協議会国際学術大会」が開催され、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)から参加した4パネルの1つとして「物語空間におけるモビリティ:日本と台湾の児童文学における鉄道旅行の象徴」と「都市空間におけるモビリティ:多角的な視点からの探求」と題するパネルディスカッションが行なわれた。 第1部「物語空間におけるモビリティ:日本と台湾の児童文学における鉄道旅行の象徴」 本セッションでは、異なる文化や歴史的背景を有する日本と台湾の児童文学において鉄道旅行がどのように描かれ、異文化間の理解と交流を促進する役割を果たすのかが論じられた。 [日本児童文学における鉄道旅行] 最初の発表は、イタリア・ボローニャ大学のマリア・エレナ・ティシ先生による「日本児童文学における鉄道旅行」。ティシ先生は日本の児童文学における鉄道旅行の象徴性とその変遷について、近代から現代に至るさまざまな作品を取り上げた。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や小川未明の『負傷された線路と月』、さらに現代の絵本『きかんしゃやえもん』、『こんとあき』、『おばけでんしゃ』などが具体例として紹介され、鉄道旅行が近代化の象徴や夢、想像を掻き立てる対象から、懐かしさや安心感を伴う魔法的な乗り物へと変化している点を指摘。また、鉄道旅行が現実と幻想を兼ね備え、読者に深い問いを投げかける存在であること、そしてその過程で深遠なメッセージを伝える点が強調された。 コメンテーターの東京大学大学院助教・安ウンビョル先生は鉄道というモビリティテクノロジーを通じて児童文学が持つ社会的・文化的意義を深く掘り下げた点を高く評価した。さらに鉄道が日本における国家的な象徴性と結びついている点や、鉄道の表象が他のテクノロジーとどのように異なる特徴を持つのかについて、社会史的な視点から研究の可能性を示唆した。関西学院大学の齋木喜美子先生は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』における旅の過程の重要性や、日本の絵本における鉄道の役割について言及し、特に近年の児童文学において鉄道が子どもたちにとって親しみやすく魅力的な存在であり続けていることを指摘した。 [台湾児童文学における鉄道の役割とモビリティの象徴性] 次は、本パネルの企画者である張桂娥が「台湾児童文学における鉄道の役割とモビリティの象徴性─九歌版『年度童話選』(2003-2023)に登場する鉄道関連要素の考察」を発表。台湾におけるモビリティ研究の視座を取り入れ、21世紀の台湾児童文学における鉄道関連要素を中心に分析を行った。九歌版『年度童話選』(2003-2023)に収録された461編の作品の中で鉄道が象徴的に描かれた作品を取り上げ、鉄道や電車が登場人物の成長、冒険、自己発見の過程にどのように寄与しているのかを探求した。鉄道が単なる移動手段ではなく、登場人物の心理的成長や文化的アイデンティティの形成を象徴する存在として描かれている点が強調された。 コメンテーターの齋木先生は台湾における鉄道モチーフの作品が少ない点に触れ、沖縄の車社会を例に挙げて「軽便鉄道アヒィー」(野村ハツ子)のような絵本が存在するものの、子どもたちの生活に鉄道が関与する機会が少ないことが類似した状況を作り出していると述べた。その上で、今後鉄道に触れる機会が増えることで、新しい作品が登場する可能性に期待を寄せた。 [モビリティという概念は社会変化を捉える有効な枠組み] 「鉄道という乗り物の存在が日台の地域文化や歴史的背景とどのように結びついているのか」というフロアからの質問に、セッションを総括した座長である大阪教育大学の成實朋子先生と齋木先生は日台の児童文学における鉄道の描写を比較することで、モビリティの社会的・文化的な多様性が明らかになり、特に、日本の児童文学における鉄道旅行が近代化の象徴として、また夢や幻想を喚起する存在として描かれる一方、台湾では鉄道が急速に進展する都市化と地域文化との接点として描かれている点が注目されたという。 最後に、座長の成實先生がモビリティの発展が児童文学に与える影響についての議論が新しい視点を提供したことを評価し、モビリティという概念が社会変化を捉える有効な枠組みであることが確認されたと総括した。また、日台の児童文学に加え、他地域の作品や同時代の大人向け文学との比較を進めることで、さらなる研究の発展が期待できるとの見解を示した。 第2部「都市空間におけるモビリティ:多角的な視点からの探求」 2つ目のセッションでは都市におけるモビリティをテーマとし、複数の研究者が異なる視点から研究成果を発表した。 [東京圏の鉄道における外国人観光客の移動の実践に関する研究] 最初の発表は安ウンビョル先生による「東京圏の鉄道における外国人観光客の移動の実践に関する研究―モバイル・エスノグラフィーを手法にして―」であった。観光客が移動中に直面する問題や感覚的な体験を明らかにするとともに、鉄道という物理的な施設が観光客の視点からどのように意味づけられるかを論じた。観光客の移動を単なる移動手段ではなく、都市空間における新たな体験価値を創造するプロセスとして捉える視点を提示した点が、本研究の重要な貢献である。 台湾・中興大学の陳建源先生は研究の新規性を評価するとともに、その手法的課題について指摘した。特に、調査対象である外国人観光客の多様な背景を反映するデータ収集の必要性や、観察行為が観光客の行動に与える影響についての考察を求めた。 [CLILの授業実践から考察する日本のモビリティサービスの課題] 次に、台湾・東呉大学の田中綾子先生が「CLILの授業実践から考察する日本のモビリティサービスの課題―台湾JFL(Japanese_as_Foreign_Language)学習者を対象にしてー」と題する発表を行った。台湾人日本語学習者が日本の公共交通機関を利用する際に直面する課題を、内容言語統合型学習(CLIL)の枠組みを活用して考察した。学習者が交通サービスに関する知識を深める過程を分析し、それが日本語能力や訪日旅行への意欲にどのような影響を与えるかを論じ、日本語教育のシラバスに交通関連の内容を導入することの教育的意義について提言した。 台湾・開南大学の陳姿菁先生は本研究の独自性と応用可能性を高く評価する一方で、学習者の背景に基づくさらなる詳細な分析や対象範囲の拡大についての課題を提示した。 最後に座長である張桂娥が総括として、本セッションが都市モビリティに関する研究を文化的、教育的、技術的視点から多角的に考察した点を評価し、特に外国人観光客や日本語学習者といった多様な利用者の経験に焦点を当てた意義を強調した。また、教育と技術の連携を通じた公共交通サービスの改善が、都市の持続可能な発展に寄与する可能性についても触れた。 多文化的視点を取り入れた研究が現実社会の課題解決にいかに貢献できるかが明らかにされたことは重要な成果である。本セッションで得られた議論の成果は今後のモビリティ研究や教育実践にとっても大きな示唆を与えるものであり、持続可能な交流と相互理解の深化に寄与する可能性を秘めている。 [モビリティという概念が持つ広がりと深さと学際的研究の可能性] 今回の4本の研究発表の成果を総括すると、都市空間と物語空間におけるモビリティのメタ概念が、それぞれ補完的な視点で深く探求されたことが明確に見えてくる。都市空間におけるモビリティは物理的な移動や社会的な機能にとどまらず、文化的、教育的、そして体験的な側面をも包含し、個人やコミュニティにとっての意味を再定義するものとして捉えられる。一方、物語空間におけるモビリティは物理的な移動が持つ象徴的な意味や、登場人物の成長、自己発見、さらには文化的アイデンティティの形成に深く関わる側面として現れた。 これらの研究を通じて、都市空間と物語空間におけるモビリティが互いに補完し合う形で学術的に展開される可能性が示唆された。都市空間のモビリティは物理的な移動とともに社会的・文化的な変革を促す力を持っている一方、物語空間のモビリティは個々の登場人物がどのように自己を発見し、文化的アイデンティティを形成していくかという象徴的・哲学的な側面を内包している。両者は異なる領域でありながらモビリティという概念が持つ広がりと深さを示しており、今後の学際的な研究において都市と物語の相互作用を探ることで、新たな知見が生まれることが期待される。 ポストコロナの時代においてこそ、人々の往来の意義や移動の真価を再確認することが急務である。こうした時期に手厚いサポートとともに、多国籍の学者たちと我が出身国である台湾で知的交流を深める素晴らしい機会を提供してくださった渥美国際交流財団には、深く感謝の意を表す。また、遠路はるばる「移動」して一堂に会した報告者、討論者、座長(司会)を務めた先生方に対しても、改めて感謝の意を申し上げたい。(文中敬称略) 当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/EACJS2024MobilityPhoto.pdf <張 桂娥(ちょう・けいが)CHANG_Kuei-E> 台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日台児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。   【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へー不確実な未来への歩みを共に考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介 ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介 モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • GUO Lifu “Asian Cultural Dialogue ‘The Limits and Possibilities of Freedom’ Report”

    ********************************************** SGRAかわらばん1046号(2024年1月16日) 【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告 郭立夫「アジア文化対話『自由の限界と可能性』~『自由』の視点から現代社会の多様性を探る」 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(2月8日、東京+オンライン) 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」(再送) *********************************************** 【1】第7回アジア未来会議円卓会議報告 ◆郭立夫「アジア文化対話『自由の限界と可能性』~『自由』の視点から現代社会の多様性を探る」 2020年代も半ばに差し掛かった現在、言論の自由や人権保障といった民主社会を支える最も基本的な倫理的前提が新たな挑戦に直面している。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ紛争といった国際的な紛争、少子高齢化や若年層の貧困問題といった日本国内における課題まで、私たちの社会は不安と恐怖を伴う多くの困難に直面している状況だ。 こうした中、政治的保守勢力は、複雑かつ国境を超えた宗教、政治、経済ネットワークを通じて連携を強め、社会の周縁に位置するマイノリティ――少数民族、移民、労働者、性的マイノリティなど――を、人類社会の進歩や伝統的な宗教文化的価値観、民主的制度、さらには社会の安定そのものを脅かす存在として再構築しつつある。これらの動きは、多様性と自由を否定するだけでなく、「自由」という概念そのものを見直す必要性を私たちに問いかけている。現代社会の基本的、倫理的前提として位置づけられてきた「自由」は、果たして今日の複雑化する社会問題に対抗するうえで十分なものか。また、「自由」をめぐる闘いには新たな可能性が存在するのか。これらの問いに向き合うことは、現代に生きる私たちにとって喫緊の課題だ。 2024年8月10日から11日にかけて、タイのチュラーロンコーン大学にて開催された「自由の限界と可能性」と題する第7回アジア文化対話の円卓会議が、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の主催で開催された。事例に根ざした議論と意見交換が繰り広げられ、主にアジアの文化や社会における自由の意味や実践について検討した。会議では学術的な議論に加えて学者、研究者そして活動家の間の経験共有と交流が重視された。 ◇プログラム 【1日目】 司会:Sonja・PF・Dale(アジア文化対話プログラムディレクター) 発表1:Yingcheep・Atchanont(iLawディレクター) 討論:Jose・Jowel・Canuday(アテネオ・デ・マニラ大学准教授)/Carine・Jaquet(独立研究者)/郭立夫(筑波大学助教) 発表2:Miki・Dezaki(独立ドキュメンタリー映画監督) 発表3:Bonnibel・Rambatan(New_Naratif編集長) 討論:Jose・Jowel・Canuday/Mya・Dwi・Rostika(大東文化大学講師)/郭立夫 【2日目】 司会:Sonja・PF・Dale 発表1:Nyi・Nyi・Kyaw 発表2:Thigala・Sulathireh(Justice_for_Sisters) 討論:武内今日子(関西学院大学助教)/Carine・Jaquet 会議は3つのセッションから構成された。 1日目の発表1では「タイの自由」を調査・記録してきたiLawという非政府組織(NGO)リーダーのYingcheep・Atchanont氏が、タイにおける君主の尊厳に対する不敬罪などを定めた「レーザー・マジェステ法」を始めとする自由の制約について紹介、議論が交わされた。そこからタイ社会における少数民族問題や情報アクセスの制約まで展開し、公式文書公開の必要性や、何を持って自由を享受すべきかを検討した。 発表2では「表現の自由」を主題に、独立ドキュメンタリー映画監督のMiki・Dezaki氏が自身の体験に基づいて慰安婦問題をテーマとしたドキュメンタリーを日本で上映した後に遭遇したバッシングという自身の体験に基づき、日本の右翼文化を指摘した。「言論の自由」を掲げながらも、右翼団体や活動家たちが言論に制限をかけようとしている矛盾した様子が実体験として共有された。 発表3では、主にインドネシアで活動するオンライン情報プラットフォームのNew_Naratifの編集長Bonnibel・Rambatan氏が、アジアにおける3つの「自由の技術」に関する分析を提示し、既存の価値観や物質的基盤、アルゴリズムがもたらす影響について発表。これまで冷静かつ客観的とされてきた科学技術も実際は人の自由を制限する武器として利用されることを明らかにし、科学技術の力を自由を守るためのものにするためのアプローチについて提案した。 2日目のセッションでは「存在する自由」に着目し、Nyi・Nyi・Kyaw氏が南東アジアにおける移住の問題を提起した。ミャンマーのクーデターの例など、実践に根ざした詳細な報告と検討が行われた。続いて、Justice_for_SistersのThilaga・Sulathireh氏がクィア・フェミニズムの観点から、マレーシアにおける性的マイノリティのLGBTQコミュニティーが目指す実践について発表した。 通底する議論は「自由」の視点から現代社会の多様性を探るものであり、論者たちの主張や経験はアジア全体に広がる問題を提起していた。参加者は「自由が広がる」とはどのような状況が展開されるのかを議論しながら、文化対話的な観点を提示した。何が自由を促進し、何が自由をそぐのかに関する議論は、参加者自身の問題意識を深めるものとなった。これらの議論から見出された制約の要因や自由の展望については、さらなる分析や討論の次の機会へとつながる要素を含んでいる。特に現代社会の多様性を議論する中で、自由の意味を再定義する視野の必要性も明らかになった。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/acdphotos-small.pdf <郭立夫(グオ・リフ)GUO_Lifu> 2012年から北京LGBTセンターや北京クィア映画祭などの活動に参加。2024年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻で博士号を取得。現在筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局助教。専門領域はフェミニズム・クィアスタディーズ、地域研究。 研究論文に、「中国における包括的性教育の推進と反動:『珍愛生命:小学生性健康教育読本』を事例に」小浜正子、板橋暁子編『東アジアの家族とセクシュアリティ:規範と逸脱』(2022年)、「終わるエイズ、健康な中国:China_AIDS_Walkを事例に中国におけるゲイ・エイズ運動を再考する」『女性学』vol.28, 12-33(2020 年)など。 【2】第23回SGRAカフェへのお誘い(再送) 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へー不確実な未来への歩みを共に考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介 ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介 モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 23rd SGRA Cafe “Syria at a Crossroads”

    ********************************************** SGRAかわらばん1045号(2024年1月9日) 謹賀新年。今年もよろしくお願いします。 【1】第23回SGRAカフェへのお誘い 「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 【2】第18回SGRAチャイナ・フォーラム報告 李趙雪「アジア近代美術の〈西洋〉受容~色鮮やかな東南アジア美術の議論はこれからも続く~」 *********************************************** 【1】第23回SGRAカフェへのお誘い 下記の通り第23回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式で開催します。参加ご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「岐路に立つシリア~抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み~」 日 時:2025年2月8日(土)14:00~15:30(その後懇親会) 方 法:渥美国際交流財団ホール及びZoomウェビナー 言 語:日本語 申 込:下記リンクよりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_pVS3XwSLR2a_yp2JeljicA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]) ■ プログラム 14:00 開会 司会 シェッダーディ・アキル(慶應義塾大学) 14:05 講演 ダルウィッシュ・ホサム(ジェトロ・アジア経済研究所) 14:45 討論 モハメド・オマル・アブディン(参天製薬株式会社) 15:00 質疑応答&ディスカッション モデレーター:シェッダーディ・アキル オンラインQ&A担当:岩田和馬(東京外国語大学) 15:30 閉会 ■ 講師からのメッセージ シリアは今、歴史的な転換点に立っています。2011年の民衆蜂起から始まった闘いは、ついに54年にわたるアサド独裁体制の終焉に帰結しました。しかし、その代償はあまりに大きく、数十万人の命が失われ、1,300万人以上が故郷を追われる結果となりました。本イベントでは、アサド政権崩壊に至る過程を振り返り、シリア社会が直面する課題に光を当てます。抑圧と恐怖の時代から、希望と再建へー不確実な未来への歩みを共に考察します。シリアの未来に待ち受ける困難と可能性、新たな国家再建の道とは何か。皆様と一緒に考える機会になれば幸いです。 ■ 講師紹介 ダルウィッシュ・ホサム Housam_DARWISHEH ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門はエジプト政治、中東・北アフリカの現代政治、地政学、国際関係。ダマスカス大学英文学・言語学部を卒業後、東京外国語大学大学院地域文化研究科で平和構築・紛争予防プログラムの修士課程および博士課程を修了し、2010年に博士号を取得。東京外国語大学大学院で講師・研究員を務めた後、ジェトロ・アジア経済研究所研究員、米国ジョージタウン大学現代アラブ研究所(CCAS)客員研究員を経て、現職。主な著作に、「エジプトの司法と『1月25日革命』―移行期における司法の政治化」(玉田編『政治の司法化と民主化』晃洋書房2017年)などがある。 ■ 討論者紹介 モハメド・オマル・アブディン Mohamed_Omer_ABDIN 参天製薬株式会社のコア・プリンシプルとサステナビリティ部門でCSV活動(共通価値の創造)を担当し、企業の強みを活かして視覚に関する社会課題の解決に取り組む。また、東洋大学国際共生社会研究センターの客員研究員として研究活動を継続している。東京外国語大学ではスーダン北部における権力闘争をテーマに研究を行い、2014年に博士号(学術博士)を取得。その後、日本学術振興会研究員、学習院大学や立教大学の講師等を経て現職。専門分野は政治学、平和構築、包括的教育など多岐にわたり、持続可能で公正な解決策の実現を目指し、多様な社会課題に取り組む。2018年より「東京都多文化共生推進委員」に着任し、都の多文化共生政策策定に有識者として携わる。 ※プログラムの詳細 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23program-1.pdf ※ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/01/SGRAcafe23poster-scaled.jpg ------------------------------------------ 【2】SGRAイベントの報告 ◆李趙雪「第18回SGRAチャイナ・フォーラム『アジア近代美術の〈西洋〉受容~色鮮やかな東南アジア美術の議論はこれからも続く~』報告」 2024年11月23日(土)午後3時(日本時間4時)より第18回SGRAチャイナ・フォーラム「アジア近代美術の〈西洋〉受容」が北京外国語大学日本学研究センターで開催された。新型コロナウイルスのパンデミックが終息した後、フォーラムは5年ぶりに北京に戻り、対面とオンライン参加のハイブリッド形式で日中両国の視聴者に同時配信した。 11月の北京はすでに冬に入っているが、当日は暖かく穏やかな天気だった。孫建軍先生(北京大学日本言語文化学部)が司会を務め、主催者代表の周異夫院長(北京外国語大学日本語学院日本学研究センター)と後援の野田昭彦所長(北京日本文化センター)が挨拶した。前回の第17回SGRAチャイナ・フォーラム「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」を引き継ぎ、今回は「アジア近代美術の〈西洋〉受容」をテーマとした。講師として日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)、指定討論者として王嘉先生(北京外国語大学アジア学院教授)と二村淳子先生(関西学院大学教授)をお迎えした。 長い間注目されていなかった分野である東南アジア美術史は、近年の中国では重要な研究課題と見なされ、関心の高いテーマである。後小路先生の講演は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術において「西洋」がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを問題提起した。「ゴーギャンの受容」は画家自身を文明の側におき、対象を野蛮な他者とする図式が見られる。その背景には植民地体制を脱し新たな多民族多文化による国民国家の建設を目指す中で、ナショナル・アイデンティティーの形成、あるいは国民文化の創造という国家的な要請もあった。異国趣味的な女性像を乗り越えるため、ゴーギャンの造形性は参照すべき格好のモードであり、規範でもあった。国民国家の形成過程における「国民」の発見と重なり合い、いわば他者の発見と自己の探求が分かちがたく結びあっているところに、東南アジア近代美術に固有の問題と表現を見出すことができると指摘した。 自由討論は前回と同様にモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。ベトナム研究の専門家・王嘉先生は、20世紀初期のベトナム美術教育とベトナム近現代美術をテーマに補足・報告した。二村淳子先生は『ベトナム近代美術史――フランス支配下の半世紀』(原書房、2021年)の著書で東京大学而立賞(東京大学学術成果刊行助成)を受賞したフランス語圏美術史の研究者である。ゴーギャンとベトナム人画家との関係、特にレ・フー(黎譜)をはじめ、ベトナムの近代画家らも東南アジアの画家らと同様にゴーギャンの影響を受けたことを指摘した。ただし、ゴーギャンがベトナムから見出した「失われた楽園」は地理的な遠方であるのに対し、レ・フーらが見出したのは時間的な遠方、すなわちベトナムの歴史や過去だったと指摘した。 その後、会場から北京外国語大学の学生らや上海大学、九州大学、中国芸術研究院の美術史研究者から多くの質問を受けた。「なぜ野蛮を描いたゴーギャンが東南アジアの近代画家のモデルとなったか」、「陳進の作品から野蛮ではない印象を受けたが、それについてご説明をいただきたい」、「レ・フーの『幸福時代』にゴーギャン以外の要素もあるか」などの質問に対し、後小路先生、二村先生、王先生は丁寧に回答して今回の講演をまとめた。近代国家の成立やアイデンティティーを模索する過程で、ゴーギャンの作品をモデルにする東南アジアの画家たちや台湾の原住民を「高貴」の目線で表現する陳進、ゴーギャン以外のフランス画家からも影響を受けたレ・フォーの諸問題は自由討論で語り切れなかったが、色鮮やかな東南アジア美術についての議論はこれからも続くだろう。 最後に清華東亜文化講座を代表して、王中忱先生(清華大学中国文学科)より閉会の挨拶があった。王先生は後小路先生の講演が植民地主義研究における従来の方法を超え、「他者を認識することは自己を認識・構築することでもある」という示唆的な視点を評価し、国家主義の台頭、均質のグローバル化が進む今日では東南アジアなどの多視点的な討論はきわめて貴重であると述べた。王先生は長年にわたりチャイナ・フォーラムを企画・支援してきた渥美国際交流財団関口グローバル研究会に対して謝意を伝えた。 北京会場、そしてオンラインを含め110名を超える参加があった。講演主題の選択と質疑応答の構成に対してアンケートからも多くの好評を受けた。フォーラム終了後、北京外国語大学の近くにあるレストランで渥美国際交流財団30周年祝賀夕食会が開催された。SGRAを長らく支援してくださっている宋志勇・南開大学教授、北京日本文化センターや清華大学東亜文化講座の先生方、そして中国在住のラクーン(元渥美奨学生)たち、総勢50名の参加者が一堂に会し、大盛況だった。 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/10/China18_photos.pdf アンケート集計 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/10/China18_feedback.pdf <李 趙雪(り・ちょうせつ)LI_Zhao-xue> 中央美術学院人文学院美術史専攻(中国・北京)学士、京都市立芸術大学美術研究科芸術学専攻修士、東京藝術大学美術研究科日本・東洋美術史研究室博士。現在南京大学芸術学院の副研究員。専門は日中近代美術史・中国美術史学史。 ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • SOMEYA Rinako “A Budding International Research from Within”

    ********************************************** SGRAかわらばん1044号(2024年12月19日) 【1】染谷莉奈子「内なる国際研究への芽吹き」 【2】藍弘岳:第11回日台アジア未来フォーラム報告 『疫病と東アジアの医学知識――知の連鎖と比較』 【3】寄贈本紹介:朱琳・渡辺健哉編著『近代日本の中国学―その光と影』 ◆◇◆◇◆ 今年もSGRAかわらばんをお読みいただき、ありがとうございました 新年は1月9日から始めます 世界にとって、私たちにとって、平和な年が来ることを祈りましょう *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#780 ◆染谷莉奈子「内なる国際研究への芽吹き」 今年3月に都内で開かれた「渥美国際交流財団創立30周年感謝の集い」で、「内なる国際化」という言葉を聞いた。国際と聞くと、日本では国外へ出て、さらに知見を深めることを意味することが多いが、「内なる国際化」は、日本国内での国際的な交わりに重きを置いた考え方だそうだ。 国内の大学院に進学してからというもの、英語論文の執筆や国際学会への参加が問われる時代にあることを、常日頃、意識させられてきた。それは、領域を問わず共有するところであろう。他方、国内へ目を向けてみると、多くの留学生や古今東西、さまざまな国籍の人々がいる。しかし、実際に、こうした交わりにおいて、特別「国際」という言葉があてられることは少ない。たしかに、あえて「内なる国際化」と語られなければならない状況が今の日本にあることは、その通りだと思った。 さて、私が志してきた社会学には「社会を物のように見る」という考え方がある。それは、まず社会学的な手法を確立するためのものもあり、他方で、文系にあるその科学性を問い返すときに使われてきた考え方である。 渥美国際交流財団(以下、渥美財団)には、いわゆる理系の院生がとても多い。私自身、渥美財団を通して理系の学生と交流する前は、「物を対象にした研究者」だと単純に思ってきた。しかし、出会った同期は、「ある作業ができるようになったロボットに、まるで意思がある」かのように話し、「友人を紹介するようにキノコの胞子について説明する」ような人たちだった。それは物を人のように扱う、もしくは人と物を相対化し、それぞれの問いを解き明かそうとする姿に思えた。 渥美財団での活動を通して、毎度さまざまな領域で、最終的には同じ方向にある課題を抱える研究者に声を掛けていただいた。留学生で、現在は静岡の大学で障がい者への特別支援教育について考え続けている方、数十年も前から、経済学の知見から福祉国家論を展開してきたという渥美財団卒業生、建築の視点から福祉の「場」づくりについて研究を進める方もいた。たった1年の出会いのなかでも、領域を横断したいくつものシンポジウムを立ち上げられそうな方々と交わり、まさに博士論文の執筆過程においてもその「射程」を大きくしてくれた。 日本ではまだまだ、国籍や言語の違いだけをとって「国際」と語りがちであるが、本当の「国際」の姿は、そんな大げさなことではなく、今の環境に身を置いたまま、個々の異なりに対して、“ちゃんと交わる”ことを通しても、さまざまな学びを得ることが可能であることを体得した。 思えば、私が約10年に渡り焦点を当ててきた、知的障がい者の家族の生活世界や、知的障がいのある方々の生き様も、長きにわたって既存の研究で描かれてきた「施設を出る」や「社会に出る」といった特別な営みではなく、今ある暮らしに埋め込まれたものであったように思う。博士課程を修了し、新天地での生活が始まるが、これまで通り懸命に、しかし、これからは肩の力を抜いて、ゆっくりと進んでいきたい。 <染谷莉奈子(そめや・りなこ)SOMEYA Rinako> 法政大学社会学部、日本学術振興会特別研究員PD。東京医療保健大学、慶應義塾大学の非常勤講師。知的障害者家族の“離れ難さ”をテーマに論文を執筆し2024年3月中央大学文学研究科社会学専攻博士号取得。研究を進める傍らスウェーデンへ留学、また知的障害を対象とした福祉職員としてグループホーム等にて勤務してきた。 ------------------------------------------ 【2】SGRAイベントの報告 ◆藍弘岳「第11回日台アジア未来フォーラム『疫病と東アジアの医学知識――知の連鎖と比較』報告」 2024年11月に台湾淡水市の淡江大学で開催された「東アジア日本研究者協議会第8回国際学術大会」の場を借りて、第11回日台アジア未来フォーラム「疫病と東アジアの医学知識――知の連鎖と比較」を開催した。 3年前にコロナ禍で延期せざるを得なかった本フォーラムであるが、コロナ禍が収束した今だからこその時宜を得た内容となった。 議論の中心は、東アジア及び世界の歴史における疫病の流行とその対処法、また治療や予防に関する医学知識がどのように構築されてきたのか、さらに東アジアという地域の中でどのように知の連鎖が引き起こされ、共有されたのかについてであった。会議後半では、中国、台湾、日本、韓国における疫病の歴史とその予防対策、またそれに関わる知識の構築と伝播を巡って討論を行った。 進行役は私、藍弘岳(台湾・中央研究院歴史言語研究所研究員)が務め、李尚仁氏(台湾・中央研究院歴史言語研究所研究員)、朴漢珉氏(韓国・東北亜歴史財団研究員)、松村紀明氏(日本・帝京平成大学准教授)、町泉寿郎氏(日本・二松学舎大学文学部教授)の4名が発表を行った。これらの報告に対して、市川智生氏(日本・沖縄国際大学総合文化学部教授)、祝平一氏(台湾・中央研究院歴史言語研究所研究員)、巫いくせん氏(台湾・中央研究院歴史言語研究所副研究員)、小曽戸洋氏(日本・前北里大学東洋医学総合研究所教授)の順で発言し討論した。 最初の李尚仁氏の報告テーマは「コロナから疫病史を考え直す――比較史研究はまだ可能であろうか」で、ピーター・ボールドウィン(Peter_Baldwin)の著作を踏まえて、各国の防疫政策の違いについて比較研究が可能かどうかを検討した。李氏によれば、政権の性質や科学的知識は防疫政策に大きな影響を与えない一方で、商業利益、国の行政能力、地理的要因、公衆衛生の歴史的記憶や「パス依存性」などは防疫政策に影響を及ぼす可能性があるとし、これらの観点から疫病史の比較研究の可能性を示唆した。 次に、朴漢珉氏が「清日戦争以前朝鮮開港場の検疫規則の運営」というテーマで報告。日清戦争勃発以前、朝鮮政府が「朝鮮通商口防備瘟疫暫設章程」を制定した後に開港場で検疫規則を運営する過程で現れた改正問題を検討した。また、この検討を通じて朝鮮王朝時代における検疫と主権の問題を提示した。 松村紀明氏は「幕末から明治初期の種痘について」というテーマで報告を行った。千葉県と岡山県の事例を通して種痘の実施状況を比較し、天然痘の治療における民間医師のネットワークの重要性を指摘した。 町泉寿郎氏は「感染症と東アジア伝統医学」というテーマで、『傷寒論』や運気論、温疫学説など、漢方医学史における感染症に関する知識と治療法を論じた。長い歴史を通じた東アジアの伝統医学と疫病の関連を要領よくまとめ、重要なポイントを提示した。 報告が終わった後、休憩を挟んで指定討論に入った。まず、李尚仁氏の報告に対して、市川智生氏は歴史家として、現在発生している事件に対してどのように発言すべきかという問題を提起した。そして、日清戦争後に後藤新平が作った検疫島と、新型コロナの集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセス号やその後の水際作戦は、表面的には歴史の継承に見えるものの、質的には異なると指摘した。また、歴史研究者が現在進行形の社会問題に発言する際に何が求められるか、さらに台湾の事例を比較する対象として適切な国・地域はどこかと質問した。 次に、朴漢珉氏の報告について、巫いくせん氏は、防疫ルールの策定と実施において、科学的知識や特定の政治的思想に厳密に基づくものではなく、国家間の交渉と妥協が必要であったことを明確に示しているとコメントした。また、検疫規則が後の時代に継承されたかどうかという李尚仁氏の研究にも関連して、船の消毒に関するヨーロッパ国家と日本の違いは地理的、文化的観点から説明できるのか、自由貿易の理由で検疫に反対することは、当時の朝鮮と日本でよく見られたことなのかと質問した。 松村紀明氏の報告については、祝平一氏がコメントし、「救助種痘」や「種痘勧善社」といった名義で岡山県など地方の医師による種痘の地域ネットワークが形成された点を非常に興味深いと指摘した。その上で中国の事例と比較して、「種痘が利益を生む商売」である中国において医療事業や感染症対策はしばしば地方の士紳(地域社会の行政・経済・文化・教育などの各分野において指導的立場にいた階層の人々)の力を借りる必要があったが、岡山県の種痘事業は寺院や地域の社会ネットワークとどのように関係していたのか、また、明治政府はいつから技術や人員の不足を補い、種痘を国家の公衆衛生体制に組み込むことができるようになったのかと質問した。 町泉寿郎氏の報告に対しては、小曽戸洋氏が日本史における感染症と漢方医学の関係について補足し、特に日本では『傷寒論』が非常に崇拝されていたことや、防疫対策と漢方医学との関連について言及した。漢方医学は当時神仏頼りの部分が多かったが、ダニ科のツツガムシが媒介とする感染症の治療に対しては効果的なアプローチが可能との認識が一般的だったと述べた。 最後に司会の私からも東アジアにおける医学知識の問題に関連し、松村氏に対して、江戸時代における人痘法だけでなく牛痘法に関する中国からの書籍の輸入や翻訳、受容の状況について質問した。また、町氏には、江戸時代における荻生徂徠の五行に対する理解や運気論の受容に関して質問した。 その後の自由討論では、発表者が各々の質問に答え、予定の時間はあっという間に過ぎてしまった。今回4本の論文で提示された問題は非常に多岐にわたるものであった。比較史研究の可能性、朝鮮における検疫規則、幕末期から明治初期にかけての種痘事業、東アジアにおける伝統医学と感染症に関する理解がいかに重要か、などが鮮明に浮かび上がったフォーラムとなった。この会議の成果が疫病と東アジアの医学知識を探究する契機になれば幸いである。日本語と中国語の同時通訳・逐次通訳を入れ、アジア各地からの研究者が活発に議論し合えたとても有意義な機会になったことを感謝申し上げる。 当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。 https://bit.ly/3VBSwpD <藍 弘岳(らん・こうがく)Lan_Hung-yueh> 中央研究院歴史語言研究所副研究員。専門は日本思想史、東アジア思想文化交流史。これまでの業績に『漢文圏における荻生徂徠――医学・兵学・儒学』(東京大学出版会、2017)、「臺灣鄭氏紀事與鄭成功和臺灣歴史書寫:從江戸日本到清末中國」(『中央研究院歴史語言研究所集刊』第95本第1分、2024)などがある。 ------------------------------------------ 【3】寄贈本紹介 SGRA会員で東北大学准教授の朱琳さんから近刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆朱琳・渡辺健哉編著『近代日本の中国学―その光と影』 古来、日本にとって大いなる「他者」であり続けている中国。 近代化を目指した日本において、その中国との差異化は文明論の大きな課題であった。 伝統的な「漢学」を打破しつつも、西洋の「シノロジー」をそのまま受容せず、独自の「支那学」を作り上げた近代日本の知識人たち。 その学問は戦争や時局の流れに翻弄され、時には「光」となり人々の心を照らし、また、「影」となり批判や反省の対象となることもあった。 知の編成・連鎖・再生産といった視点から、近代日本の中国学の変遷過程をたどり、東アジアの近代知のあり方および文化交流の実態の一面に迫る画期的論集。 発行所:勉誠社 ISBN:978-4-585-32545-1 Cコード:1320 刊行年月:2024年12月 判型・製本:A5判・並製 384 頁 キーワード:文化史,中国,東アジア,日本史,近代 詳細は下記リンクをご参照ください。 https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=103774 ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 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  • Enkh-Amgalan ONON “Second Place Fits Me Well”

    ********************************************** SGRAかわらばん1043号(2024年12月12日) 【1】エンフアムガラン・オノン「私には第2位がよく似合う」 【2】李趙雪「東アジア日本研究者協議会パネル『植民地・租界の美術と美術史』報告」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#779 ◆エンフアムガラン・オノン「私には第2位がよく似合う」 私の趣味は大学の提示板を見ることです。それは学部生時代からの習慣になっていました。「看板に頼る」習慣がいつか実を結ぶと信じていたからです。 学部2年生の時、モンゴル国立大学日本語学科の廊下にある看板を頻繁にチェックしていたところ、日本モンゴル開発センターで日本語スピーチコンテストが開かれると書いてありました。ぜひとも参加したいと思い、準備に入り、最終的にはステージでスピーチすることになった6人のうちの1人になりました。結果は第2位でした。第1位になれば、1週間日本へ交換生として招待されることになっていました。第2位は記念品です。少し残念に思いましたが、1カ月後に日本学科の先生から連絡があり、日本語能力試験の結果と成績などで評価し、教員たちの話し合いの結果、「奨学金付きで日本への1年間留学に推薦するので応募してみないか」という素敵なお誘いをいただきました。そして国際教養大学に1年間、交換留学生として留学しました。心の中では「第2位になって良かった」と思いました。 それから長い年月が経ち、2017年から東京外国語大学の研究生となり、その後は修士課程、博士課程に進みました。 1年半前の夏のある日、東京外国語大学の掲示版をチェックしたい気分になり、向かった結果、渥美国際交流財団の奨学生募集のポスターを見つけました。全部読み終わって「必ず合格する」と決意しました。書類の準備やスピーチの練習、きれいな日本語のスピーチを何時間も聞く練習など、よりよい自分づくりに時間をかけました。自分でできる準備は少し整えられたと思った後、たまたま日本の有名な武将である徳川家康が敬仰したという箱根神社の歴史を知り、次は自分のメンタル(精神面)を強くするためお参りに行きました。とても美しい自然に囲まれた夢のような場所です。日本の神様は外国人の願いを聞いてくださるのかなと少し不安でしたが、日本語でお願いすれば問題ないだろうと思いました。最終的に12月に合格通知を目にして、とてもうれしく、「やったー!」と言いたかったのですが、息子が寝ていたので、心の中で「よかった、やったー!」と叫びました。 4月になり奨学生リストを拝見して、自分の名前が名簿の2番目に記載されており、私には「2」という数字が合うんだなと実感するようになりました。言語学では複数とは「2つ」以上を指すと言われています。私の研究も複数であり、私の名前「オノン(Onon)」も複数である数字の名で、仏教の36桁の数字をOnonと言います。 息子との6年半に渡る日本での留学期間は人生の黄金時代だと思っています。私は勉強と研究に励み、息子は色々なことにチャレンジし様々なことを学び、小学校で「漢字博士賞」を頂いて、漢字を愛する、日本国を尊敬する少年になりました。 今後の課題としてはモンゴルの教育機関で活躍するとともに、日々の研究を基に学会発表などを通して海外の研究者と交流を深めていく予定です。モンゴルにおける言語学研究、日本語教育、高等教育学という3つの大きなカテゴリーを中心に活躍し、また深く続けて学んでいきたいと思っております。日本で得た知識や研究仲間、ネットワークを大切にして、次の20年、30年を有意義な時間にし、次世代の若手教員、研究員の育成にもいつか携わる側になると信じ、日々努力して参ります。渥美国際交流財団のメンバーになれたことも心から嬉しく思っており、優秀な研究者たちとネットワークを作る機会を与えてくださったことは感謝してもしきれないです。この絆を大切に思い、今後も全力で進んで参りたいと思います。 <エンフアムガラン・オノン Enkh-Amgalan_ONON> 2009年モンゴル国立大学言語文化学部日本学科を卒業、2020年東京外国語大学修士課程卒業、2020年東京外国語大学博士課程入学、2024年4月からモンゴル国立大学アジア学科非常勤講師を務める。 ------------------------------------------ 【2】李趙雪「東アジア日本研究者協議会パネル『植民地・租界の美術と美術史』報告」 2024年11月8日から10日にかけて、「東アジア日本研究者協議会第8回国際学術大会」が台湾の淡江大学で開催され、東アジアの近代美術史研究者6人が「植民地・租界の美術と美術史」をテーマにパネル発表を行った。 1980年代末以来、美術史の既存の枠組みを再考し、近代日本美術史の叙述から排除された植民地美術史の研究が本格的に日本で始まった。近年、多くの研究成果を挙げていることを背景に、本パネルは天津租界や満洲・大連、台湾、朝鮮での記念碑や建築、絵画、書芸などの造形・言説に焦点を当て、美術史の視点から植民地・租界の都市空間や市民生活、アイデンティティーの交錯などを検討した。 会期中、台北に隣接する淡水という港町は小雨が降っていた。本パネルは2日目午後の最初のセッションで、座長に国立台湾大学芸術史研究所の邱函●(女+尼)先生を迎え、時間軸に沿って発表の順序を調整した。「天津租界公園の記念亭と記念碑―東アジアのモニュメントの成立」(李趙雪:南京大学)、「戦前大連の文化住宅と郊外空間」(楊昱/グロリア・ユー・ヤン:九州大学)、「植民地台湾から『外地』を視る―水彩画家・石川欽一郎の朝鮮旅行を中心に」(鈴木惠可:中央研究院)、「植民地における朝鮮の書芸―呉世昌(1864-1953)を中心に」(柯輝煌:東京大学)の4つの発表と、東洋英和女学院大学のマグダレナ・コウオジェイ(Kolodziej,_Magdalen)先生のコメントと発表者の議論を経て、フロアからの質問を受けた。 私の発表は天津の英国租界のビクトリア公園(1887年)と日本租界の大和公園(1909年)の奏楽堂や記念碑を手がかりに、東アジアのモニュメント概念の受容について検討した。「公園」という西洋の近代的な都市装置が天津租界に移植された結果、新しい都市理念を示すだけでなく、英国の権威や日英同盟、日本の対外姿勢と自己主張の視覚シンボルとなったことを明らかにした。国際政治や外交の要因を背景に、欧州の奏楽堂(bandstand)は中国の礼制建築と奈良時代の寺院建築との融合や対話を経て、天津の租界のなかで「記念亭」の雛形として成立した経緯が分かった。 楊氏の発表は日露戦争後の大連の住宅建設に注目し、日本の生活改善運動にも影響を与えた満州の生活改善展覧会(1921年10月29日-11月2日)の状況を明らかにした。日本国内での中流階級の住宅・イメージを作ろうとした動きは、満州の植民地建設にも見られる。満州の場合、現地の地域性も重視され、大連では1920年代に多くの文化住宅や和洋折衷の住宅が建てられた。ところが、満州の住宅建設を通して明らかにしたように、植民地建設には理想と現実が混在していた。満州の中流住宅は一部だけの日本人に支持され、時には中国人の上流・中流階級の理想の対象にもなったという複雑な状況は今後さらに研究が求められる点とされた。 鈴木氏の発表は水彩画家・石川欽一郎(1871-1945)の朝鮮旅行に注目し、その歴史背景や朝鮮滞在中の活動、経緯などについて考察した。天津や北京、欧州、台湾、福州などの各地での旅行後、1933年に石川は朝鮮に旅立った。石川の朝鮮への眼差しは、内地からの画家というより、台湾への植民経験を有する宗主国の画家という自負を持っていたことが分かった。 柯氏の発表は植民地支配下の呉世昌の作品を取り上げ、そこに絡んでくる「檀君と箕子」の問題を提示した。先行研究においては、植民地期に入り、檀君ナショナリズムと天皇制のイデオロギーの間に起きている衝突がしばしば強調されているが、檀君と箕子は互いを排除する関係でしか捉えないのかと疑問を提示した。それを背景に、呉世昌の書芸において檀君と箕子はどのような役割を担っていたかを検証した。戦時期には箕子朝鮮と楽浪文化が内鮮一体や日本の大陸進出などの言説と絡んでおり、呉世昌の作品とこのような言説がいかに相互に作用しているのかを今後の課題とした。 討論者のマグダレナ先生は「一国美術史」の枠を超え、複数の民族が集まって国境を超える租界・植民地の美術史を再考することはとても重要であると指摘した上で、それぞれに質問した。 (1)李の発表に対しては、日英の二つの租界公園の公共空間を作る際の市民の状況や、受容の様子について。例えば奏楽堂で実際に演奏が行われたかについてなど。また使用した資料の絵葉書についても検討する必要があると指摘した。 (2)楊氏の発表に対しては、大連の住宅は植民地に住んでいた市民の状況を明らかにする重要な手掛かりであると評価した一方、日本内地と満州で住宅に住んでいる階級や階層、また文化住宅に対する理想と現実についての具体的な説明を求めた。 (3)鈴木氏の発表に対しては、植民地と内地の二元的な考え方より、植民地間の関係という新鮮な視点を提示していると評価した。その上で、石川欽一郎の研究は台湾美術史と日本美術史のどちらからの視点でなされているのかを質問。日本美術史の文脈から考えるなら面白いテーマになると指摘した。 (4)柯氏の発表に対しては、なぜ呉世昌は書芸というメディアで自己の意思を表したのか、植民地研究の抵抗(resistance)・協力(collaboration)という既存の二元論に対して発表者の意見を伺った。マグダレナ先生の質疑に対して、発表者からは文脈、内容をそれぞれ補足し90分の時間はあっという間に過ぎてしまった。 最後に座長の邱先生から総括のコメントがあった。 「李趙雪先生と楊昱先生のご発表は、外国勢力によって占領された中国天津の租界や満洲国といった特殊な都市空間をテーマにされました。お二人はそれぞれ、政治的意味を有する記念碑や建造物、また非公共的な住宅空間という異なる視点から考察を行い、これらのアプローチは非常に興味深いものでした。鈴木恵可先生のご発表は、これまで中央/地方、植民母国/植民地という二項対立的枠組みに依存していた従来の視点から転換し、植民地間の比較という新たな視座を採るものでした。その結果、石川欽一郎が台湾での生活経験を通じて、他の植民地を観察するための比較基準を形成していたことが明らかとなりました。柯輝煌様のご発表は、呉世昌の書芸とその活動を通じて、植民地支配下における朝鮮ナショナリズムを考察し、新たな論点を提示されました。今後の研究の進展が非常に楽しみです。」 本パネルは多様な美術ジャンルから成り立っているが、参加者の研究方法(美術制度論)はきわめて近いといえる。植民地・租界の美術の史的展開を全うしたとは言いがたいが、方向性や視点の提示などの面では有意義な成果を得た。パネルの後、参加者全員は会場近くのカフェに行き、発表内容についてさらに議論を深めるとともに、自身の研究方向や課題についても紹介した。今後のさらなる交流に向けて良い基盤を築く機会となった。 当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2024/12/EACJS8_LI-Zhao-xues-session.pdf <李 趙雪(り・ちょうせつ)LI Zhao-xue> 中央美術学院人文学院美術史専攻(中国・北京)学士、京都市立芸術大学美術研究科芸術学専攻修士、東京藝術大学美術研究科日本・東洋美術史研究室博士。現在南京大学芸術学院の副研究員。専門は日中近代美術史・中国美術史学史。 ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • XU Zixin “Aiming to Build Bridges in Medicine”

    ********************************************** SGRAかわらばん1042号(2024年12月5日) 【1】エッセイ:徐コシン「医療の架け橋を目指して」 【2】催事紹介:国際シンポジウム「モンゴル帝国時代のユーラシア世界」 【3】国史対話エッセイ紹介:崔ジュヒ「韓国史のある巨匠を追慕する」 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#778 ◆徐コシン「医療の架け橋を目指して」 中国で医学部を卒業し産婦人科医として働いていた時、臨床で解決できない症例に直面して、私たちができることはこれほど少ないのかという疑問を抱いた。最も印象的だったのは大学在学中に卵巣がんにかかってしまった20代の患者だった。従来の医療手段では彼女を救うことはできない。命を延ばすことができても生殖能力を失ってしまう。妊娠中に乳がんが検出された症例もあった。治療を受けると流産せざるをえない上に、治療を終えてもその後の妊娠は難しくなる。しかし、すぐに治療を受けなければ命に関わる可能性がある。中国社会では、子供は両親の絆の象徴と言われる。子供が生まれなければ夫婦関係を持続できないと考える人もいる。臨床医としての経験を積むにつれてこうした症例に多く直面し、ジレンマに陥った。そして、研究の力を借りれば問題を解決できるかもしれないと考えるようになった。人生において、そのような研究にチャレンジしないことはあり得ないと思い、日本にやってきた。 東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻に入学し、研究生活を始めた。テーマは抗がん剤による卵巣毒性における細胞老化の役割である。抗がん剤治療を受けることで生殖機能に与える影響や、その解決策を探す。例えば、まだ子供を持っていない30歳の女性が乳がんを発症した場合、抗がん剤治療は生殖機能に壊滅的な影響を与え、母親になることが難しくなる可能性がある。同時に彼女は同世代の人よりも早く更年期を迎え、骨粗鬆症や脂質代謝異常などの健康問題にもより早く直面する。私たちの研究は、このような患者に薬を投与し、抗がん剤治療を受けながらも生殖細胞への影響をできる限り減少させ、生殖機能を保存することを目指している。 既存の論文によると、抗がん剤治療を受けた乳がん患者の約70%が5年以内に早発卵巣機能不全(早めの更年期)を経験している。私たちが研究を進めている治療法では、少なくとも10年から15年後までは、更年期を迎える時期を迎える可能性は高まらないことが期待される。動物実験で効果が証明されており、臨床試験に進んで、より広範囲に適用されることが望まれる。もう1つの例を挙げたい。血液がんを患った5歳の女児の場合は治癒の見込みがあり、少なくとも70歳まで生存する可能性があるが、現在の治療法では早発卵巣機能不全になる可能性が高い。将来的に子供を持つためには彼女に選択肢を残す必要がある。現在の治療法には卵巣冷凍保存があるが、何度も手術を受ける必要があり、身体的および経済的な負担がかかる。私たちの研究で使用した薬は経口摂取可能であり、現在の治療法より負担の軽減が期待される。一日も早く研究の成果を実用化し、人々の健康と幸福に貢献したい。 東京大学での4年間の経験を通じて科学的な研究における思考力が鍛えられ、問題を客観的に分析し、解決策を考え出す能力が身についたので、今後の研究活動において有益な役割を果たすことができると確信している。私の指導教官は、研究は大学院でのみ行うものではなく、一生を通じて続けるべきだとよく述べていた。この言葉は、私の将来の研究生活をより意義深いものにしていくだろう。 現在は日本の医師免許取得に向けて努力しており、日本でも産婦人科医として活躍したいと考えている。将来的には日本と中国で産婦人科医として働き、両国の医療技術を習得し、患者に有益な治療法を提供できるようになりたい。同時に研究活動も続けて成果を臨床現場に活かすことで、医療の進歩に貢献し、日本と中国の医療の架け橋となることを目指している。 <徐コシン XU_Zixin> シ博市出身。東京大学附属病院女性診療科特任研究員。渥美国際交流財団2023年度奨学生。2018年に臨床医学産婦人科専攻修士号取得。2020年に東京大学医学系研究科生殖専攻博士課程に進学し、女性妊孕能の温存について研究し始める。2024年3月に博士号取得。 ------------------------------------------ 【2】催事紹介 SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレさんからシンポジウムのご案内がありました。お問い合わせは直接主催者へご連絡ください。 ◆国際シンポジウム「モンゴル帝国時代のユーラシア世界」 ヴェネツィアの商人マルコ・ポーロの生誕770周年、没700周年、モンゴル襲来750周年を記念して、12月7日(土)に昭和女子大学国際学部国際学科主催の国際シンポジウム「モンゴル帝国時代のユーラシア世界」を開催いたします。 同シンポジウムでは、日本とモンゴル、中国の研究者より、研究発表をおこないます。 皆さまの奮ってのご参加を、心からお待ちしております。 <開催日時> 2024年12月7日(土) 10:50~18:30(10:20開場,入場無料) <場所> 昭和女子大学本部館3階大会議室 地図(本部館入口) <主催> 昭和女子大学国際学部国際学科 <助成> 日本私立学校振興・共済事業団学術研究振興資金 ※当日ご来場の際には、正門横守衛室にて「シンポジウム参加」とお伝えください。 シンポジウムの詳細は下記URLからご覧ください。 https://bit.ly/4g2p9oK ------------------------------------------ 【3】国史対話エッセイ紹介 10月25日に配信した国史対話メールマガジン第62号のエッセイをご紹介します。 ◆崔ジュヒ「韓国史のある巨匠を追慕する」 数ヶ月前、全南大学の金キョンテ先生から「歴史と私」という主題の文章を依頼されたが、この文章をどのように始めればいいのか分からず困っていた。まだ自らを歴史家と称するほどの研究の力量は備わっておらず、成果も出していない。歴史家は史料から作り出された過去の物語を通じて読者と対面する人々だと考えているためだ。それでも、この文章を書くことにしたのは6月21日、韓国歴史学界の巨頭と呼ばれる故姜萬吉先生の1周忌追慕学術大会で姜先生の朝鮮史研究に対する批評論文を発表した経験を読者と共有するためだ。 姜萬吉先生(1933~2023)は、日帝時代に故郷馬山で植民地教育の不条理を経験し、社会経済史家である白南雲の影響を受け、植民地後進性論、停滞性論(訳注:両理論とも植民地が宗主国に遅れていることを強調し、植民地化を正当化しようとした理論)を克服するための一連の商業史研究を進めた。彼が立証しようとした資本主義萌芽論(訳注:朝鮮後期に既に資本主義への発展可能性が潜められていたとする理論)は韓国学界で多くの批判を受けてきたが、これはあくまで戦後第2世代研究者として植民地の遺産を克服するために採択した方法論だったことを思い出す必要がある。さらに、彼が注目した朝鮮後期の商業、手工業体制の変化像は依然として朝鮮後期の社会構造を見直す重要な事例であるとともに、商人、手工業者、賃金労働者の人生を歴史の前面に押し出した彼の研究方法は、後学に朝鮮王朝史の見方の転換をもたらしたという点から少なからぬ意味がある。 全文は下記リンクよりお読みください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2024ChoiJoo-HeeEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは毎月1回配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。 ◇国史メルマガのバックナンバー https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ◇購読登録ご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 [email protected] ***************************************** ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。 https://www.aisf.or.jp/kokushi/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************